第18話 パパ、OKAMAとデート
奴隷。
平和な日本で暮らしていた俺には馴染みの無い言葉だ。
「子供の奴隷がなんだってんだよ」
「あんたらは……おかしいと思わないのか?」
これは価値観や論理感の違いだろうか。
「何言ってんだ? 普通のことだろ。金がなくて子供を売り飛ばす。病気になって治療が出来ねぇから売り飛ばす。殺しちまうと面倒だからな」
「本気で言ってるのか?」
「逆に聞くが、おめぇがキレてる理由がわからねぇよ」
この世界で住む以上、それを普通にしなきゃいけないのか? それを許容しなければいけないのか?
馬鹿を言うな。
どんな世界に飛ばされようと、そんな思考に染まってたまるか。
「ジュリエッティさん、子供の奴隷がいる場所に案内してください」
「シロウ……わかったわ」
「待てよォ! 俺の話が終わってねぇぞ!!」
「黙りなさいグレイドン」
今までの雰囲気とは違う、ジュリエッティさんの低く鋭い声が空間を支配した。
「お遊びはここまでよ。またいつでも相手をしてあげるから今日は帰りなさい」
「お、おう……」
あっさりと引き下がるグレイドン。こいつも何だかんだいって本当にジュリエッティさんのことが好きなだけなのかもな。
「ロドス、ジュノンを預かってて頂戴。シロウ、行きましょうか」
「すみませんロドスさん、よろしくお願いします」
「はい、お任せください」
「ジュノン、ちょっと行ってくるね」
「ぶぁっ!」
まるでジュノンも「行ってこい」と言いたげな表情だ。不思議と勇気を貰えるな。
ロドスさんにならジュノン預けていても問題ないだろう。ジュリエッティさんが信頼を寄せている人だ。多分魔族だと思うけど。
ロドスさんにジュノンを受け渡し、俺とジュリエッティさんは子供の奴隷が売られている場所に向かうことにした。
◆ ◆ ◆ ◆
見慣れない街を、巨漢のOKAMAと並んで歩く。
「貴方の故郷では、子供の奴隷はいないの?」
奴隷扱いを受けている子供はいるかもしれない。世界的に見れば普通の国もあるだろう。ただ、日本においてはそれらは例外なく罪だ。
「子供を奴隷扱いすることは罪になります。もちろん、子供だけでなく人を奴隷扱いすることもです。私の故郷では、人は人として生きる権利がありました」
「そうだったのね。ただね、シロウ。グレイドンも言っていた通り、この国では奴隷は普通のことよ。罪を犯した者が奴隷に落ちることはもちろんだけど、お金がない親が子供を売ることもあるわ。もちろん、お金のために子供を産む大人もいるくらいよ」
そんなこと、あっていいのか?
子供をなんだと思ってるんだ。
「信じられない話ですね」
「そうしなければ生きていけないのよ」
「自分が生きていくためだったら、何をしてもいいと言うのですか?」
「そうは言ってないわ。ただ、他人のことを考えられないほど余裕がない人もいるってことよ」
そうだとしても、踏み外してはいけない人の道理というのがあるだろ。命を粗末にするななんて大層なことを言うわけじゃない。俺だって虫は苦手だから殺したこともあるし、もっと言えば琴音や奏音を傷つける奴がいたら殺してやりたいとも思う。
ただ、自分が産んだ子供くらいは愛してやれないのか。守ってやれないのか。
血を分けた唯一の存在に対して、何故そんなことが出来るんだ。
「ただの子供好きというわけじゃ無さそうね。自分の命を危険に晒してもジュノンの面倒を見たいっていうくらいだものね。何か裏の意図があるんじゃないかって思ってたけど、シロウのこと少しだけ分かった気がするわ」
どうやらジュリエッティさんは、俺の真意を確かめようとしていたようだ。
そりゃそうか。子供を奴隷にするような世界で、他人の子供を育てたいなんていう奴を信用できるわけないよな。よっぽどのお人よしか、捻じ曲がった癖を持っている奴だと思うのが普通だろう。
「この世界では、俺が可笑しいんですかね」
「不思議なことを言うのね。まるでこの世界以外を知っているような言い方だわ」
「そうですよね……」
ジュリエッティさんには、本当のことを話しておいた方がいいか?
「シロウ、着いたわよ」
話しながら歩いていたらいつの間にか目的に辿り着いていた。
ここが……奴隷商。
「先に入るわ。後ろから着いて来て頂戴」
俺に何が出来るだろうか。この国の、この世界の価値観を変えることなんて大層なことは出来る気がしない。それでも、俺の両手で抱えられる程度の不幸は背負ってあげたい。
「わかりました。行きましょう」
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