第16話 パパ、優雅な朝を過ごす
異世界での朝は早い。
「ぷぎゃぁ!! んぎぁ!!」
陽が顔を出す前に聞こえるのは鐘の音ではなく愛しのエンジェルの声だ。
「んっふぁ〜ミルクの時間だねぇ」
もちろん深夜にも一度授乳をしているので、四時間程度しか眠っていない。最初は戸惑いまくった記憶があるなぁ。
世の中の親たちはこんなことを経験してきてるの? 偉すぎじゃね? とか、でも愛しの我が子がミルクを求めて泣いているんだから苦じゃないとか、でもこの生活っていつまで……続くんだ? と毎日寝不足のせいで結構精神的に参ることもある。
まぁ一度経験してみると、もう数ヶ月だけこんなサイクルが続くだけで、もう少し大きくなれば夜もしっかり寝てくれるようにはなる。個人差はあると思うけどね。
というかジュノンは結構寝てくれる方だ。眠るのが好きと言っても過言じゃない。
「はい、ミルクですよ〜」
ウィッシュリスト機能から朝のミルクセットを購入し、ジュノンにミルクをあげる。これだけで育児が大分楽になってるな。普通だったら眠い目を擦りながらお湯で粉を溶かして、水を使って冷ましてという作業をしなければいけない。
森羅マーケットを使えば、ワンボタンで人肌程度のミルクが哺乳瓶に入って出てくる。マジ神。
一家に一台森羅マーケット、どうですか? 呼び出す時に少し恥ずかしいですけどすぐに慣れますよ。
「あら、もうミルクをあげてたのね。おはよう」
「あ、おはようございます。ジュリエッティさん。今ご帰宅ですか?」
俺とジュノンはジュリエッティさんの家に居候させてもらうことになった。
なんとジュリエッティさん。結構金持ちっぽい。俺たちが今住ませて貰っているこの家も、他の住居とは比べものにならない立派な屋敷だ。
仕事についてはまだ聞いていないけど、基本的には夕方ごろに家を出て朝方に帰ってくるような生活を送っている。今も丁度仕事から帰ってきたところだ。
「その入れ物、相変わらず不思議ねぇ」
ジュリエッティさんは哺乳瓶を見てそう呟く。ガラス自体はこの世界にもあるようだが、このゴム製の乳頭は流石に無いらしい。
「東の国の出身でしたっけ?」
「そ、そうですね」
「進んでるわねぇ」
ジュリエッティさんはあまり詮索をしないでくれているが、若干疑惑の目を向けられている気がする。そもそも東の国ってなんだよ……国名を聞かれたら全然答えられないぞ。それに収納系のスキルってなんだ……ノリで言ってるけどスキルって存在も全然分かってないし。
もう少しマシな言い訳を考えるべきか、それとも本当のことを話してしまうか。
ここ数日のジュリエッティさんを見ていれば信用出来る人……魔族であることは間違いないと思うけど、切り札というのはなるべく隠しておきたい。
隠せてるかどうかは別にしてね……
「それじゃわたしは少し寝るわ。何かあったらロドスに言って頂戴」
「はい。ありがとうございます」
ジュリエッティさんがロドスと呼ぶのは、この屋敷に住み込みで働いている使用人だ。恐らく魔族だと思う。恐らくというのは、ジュリエッティさんもロドスも翼が生えていないからだ。
魔族の中でも翼がある魔族とそうでない魔族がいるのだろうか? センシティブな話題だったらまずいと思ってなかなか聞き辛い。
「ぷはぁ!」
豪快にミルクを飲み終えたジュノン。そのまま抱き上げ、背中をさすってあげる。
「ゲプっ! キャハ!」
加えて豪快なゲップをするジュノン。ジュノンはゲップをすると笑う。自分のゲップで笑えるなんて永久機関じゃないか?
さて、ジュノンの朝ごはんも終えたことだし、俺も朝ごはんを頂くとしよう。
◆ ◆ ◆ ◆
「おはようございます。シロウ様、ジュノン様」
「おはようございます。ロドスさん」
「バッ!」
屋敷の食堂に行くと、ロドスさんが丁度テーブルに朝食を並べてくれているところだった。
「朝食の準備は出来ておりますので、ゆっくりとお召し上がりください。その間ジュノン様はこちらでお預かりします」
「いつもすみません。頂きます」
「いえ、閣下のお客様ですので当然でございます」
ジュノンをロドスさんに預けて、朝食が並べられた席へ座り朝食を頂く。
ロドスさんは俺の身の回りの世話を気遣うだけでなく、ジュノンのお世話もしてくれる。本当に至れり尽くせりだ。
ジュリエッティさんとはどういう関係なんだろうか。いつも閣下と呼んでいるから部下みたいな感じなのかな? 主人と使用人という関係というだけの雰囲気じゃないんだよな。
閣下ってなんだっけか? 確か偉い人のことを指すはずだったけど……ジュリエッティさんってもしかして偉い人なのかな? 有名人みたいだしあり得る。
「そういえばジュリエッティさんは何のお仕事をしているんですか?」
「閣下にはお聞きになられていないのですか?」
「意外とゆっくり話す時間が無くて……」
「そうですか。必要であれば閣下からお話があるかと思います」
ロドスさんは、ジュリエッティさんのことについてはほとんど喋らない。まぁ無闇に主人の情報を漏らしたりしないよな。ロドスさんのいう通り、必要であればジュリエッティさんから話があるだろうし。
『すみませんっ!! 姐さぁぁぁぁぁん!』
突然、屋敷の外で叫ぶ声が聞こえる。若い男のような声だ。
「シロウ様、申し訳ございませんがジュノン様をお願いいたします。どうやら喧しい客が来たようですので」
ロドスさんはジュノンを俺に渡し、そのまま声が聞こえた玄関の方へと向かった。
「何があったんだろうね。ジュノン」
「だばっ」
こんな朝早くからどうしたんだろ? 姐さんってことは……
『ブラックギルドの連中が攻めて来やがりました!!』
……暴走族の抗争みたいな話題キタァァ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます