第13話 パパ時々空からOKAMA
「あのすみません、一緒に都市へ入れてもらえませんか?」
「あん? 職業証は」
「持っていません……」
「はぁ? 身分証は?」
「忘れちゃって」
「だったら門番に言えば一緒に取りに行ってくれるだろ」
「いえ……その……やっぱりいいです」
「はぁ? なんだってんだ?」
ふむ。かれこれ十人くらいの人に声をかけているが未だにいい返事はない。
高台から歩いてアルヘインの門に辿り着いた後は、入場待ちで並んでいる馬車に乗る人に適当に声をかけまくっていた。
「あの! すみません最後にいいですか?」
「まだ何かあるのか?」
「すみません、この都市にいるヴァイパーという方をご存知ではありませんか?」
「ヴァイパー? 聞いたこともねぇな。知り合いか?」
「私が一方的に知っているだけなのですが、ヴァイパーさんに用がありまして」
念の為、狼に言われたとおりヴァイパーという人の情報も聞いておく。こちらも今のところ有益な情報はない。
「そうか。まぁもしその名前を聞くことがあったら声をかけておいてやるよ。あんた名前は?」
「シロウです。すみません、よろしくお願いいたします」
まぁ結構大きい都市だからな。そう簡単にヴァイパーさんが見つかるわけはないか。
夜までやって難しそうだったらもう門番に声をかけるしかないな。流石にこれ以上野営はしたくない。ジュノンも落ち着いた場所でゆっくり眠らせてあげたいしな。野営のテントでも結構リラックスはしていたが……うちの娘本当に図太い。
さて、次の人に声を——っと、この人はやめておこうか。
見た目で人を判断するわけじゃないけど、右目側に切られた傷跡があって目が塞がれている男だ。左目は細く開かれており、周囲を警戒しているのか威圧しているのか。雰囲気がめちゃくちゃ怖い。
この容姿で、実は好物がケーキとか言われたらギャップで惚れるレベルで厳つい。可愛いの概念の対極にいる人だな。
その次に並んでいるのは……集団か。五人くらいで馬車に乗って列に並んでいる。歳は結構若めで、談笑しているみたいだな。もしかしたら若い人の方が融通が利くかもしれないな。
「あの、すみません」
「んぁ? なんだお前」
おっと……少し怖いか。地元で一番のヤンキー感が満載だ。
「実は身分証をなくしてしまいまして……都市に入りたいのですが一緒に乗せてくれませんか?」
俺の言葉を聞き、今まで談笑していたの急に静まり返り仲間内で目を合わせる五人組。何かこういったときの取り決めでもあるのだろうか?
「よぉおっさん」
ん、おっさんじゃないわい!! お兄さん……はもうきついか。
「一応聞いとくけど、身分証を持っていない奴を匿って都市に入れたらどうなるかわかってんな?」
えぇと……犯罪?
「一応理解しているつもりですが……」
「バレたら終わりだよなぁ? ってことはそれなりに対価ってやつがあってもいいんじゃねぇか?」
なるほど。そりゃそうだよね。お金ですよね。
う〜ん、一応お金がないことはない。ゴロ村で色々売った時のお金を多少は持っているが、そのお金を犯罪に使っていいものか……
「なぁ、そいつが持ってるその子供、売っ払えばいい金になるんじゃねぇか?」
……は?
突然、奥側にいる男からとんでもない発言が飛び出した。
「大事に抱えてるってことはあんたも売ろうとしてたんだろ?」
「いいねぇ! そいつを俺らにくれるってんならついでに入れてやるよ!」
こいつら……クズか? 子供を売る親がどこに……いや待てよ?
もしかして……普通なのか?
この世界では、子供を売るのはごく普通のことなのか?
「そういうことならばこの話は無かったことにさせてください。この子は私の大事な娘なので」
この世界の常識を知らない以上、ここで突っかかっても仕方がない。ちょっと不幸になれと思うだけで逃がしてやろう。
そう思って次の人に声をかけようと動き出した時、五人組の内の一人が馬車から降りて進路をに立ちはだかった。
「あの……そっちに行きたいのですが」
「何勝手に行こうとしてんだよ。そいつはもう俺らの物だろ? お前から声をかけてきたんじゃねぇか」
何言ってんだこいつ。
「いえ、だから交渉は決裂したと」
「うるせぇ。お前の意見なんか聞いちゃいねぇんだよ」
いつの間にか五人組に周囲を取り囲まれてしまった。なんでこうなるんだ……この世界ちょっと治安悪すぎないか?
今まで出会った人の中で親切にしてくれたのはゴロ村にいる人達だけだった。もしかしてゴロ村は天国だったんじゃないか?
本当に面倒なことになったな……
ただ、魔族に追われるよりはマシか。凄まれてはいるが、正直そこまでプレッシャーを感じない。
「はぁ……大声で助けを呼びますよ?」
「おいおい、それで困るのはお前の方だろ? 身分証も無いくせに」
確かに。賢いな。
ん〜ナルビィさん! 穏便に済ませる方法教えて!!
「現在のスキルレベルでは殺傷能力のある武具の購入は出来ませんので、殺傷能力が比較的少ない道具で対処可能です。具体的には催涙ガス、スタンガン、ナイフなどがあります」
わお……大分武闘派。やる気満々すぎる……
対処は可能だろうけど完全に犯罪者扱いになるな。催涙ガスとスタンガンくらいは懐に忍ばせておいてもいいか。最悪の場合はこれで逃げるしかない。
さて……どうしたもんか。
「横から失礼、何か揉め事か?」
俺と五人組の背後から声が聞こえた。何かトラブルかと思って声をかけてくれた親切な人だろうか。
そう思って振り返ると、声をかけてきたのは先ほど俺がスルーした右目が傷で塞がれた男だった。
あ、終わったかこれ。俺、東京湾に沈んじゃうかな?
「んだよてめぇ! このガキは俺らの物だからな!」
「口の利き方がなっていないようだな。少しお仕置きが必要か?」
あれあれ、ヘイトが俺から隻眼の男に向かっている。もしかして……救ってくれた? やっと巡り会えたのか? いい人に——
ふと、ふと視界の隅に入ったんだ。
都市の城壁を越えて飛んでくるそれが。
そして、それがこちらに近づいてくるのがはっきりと見えた。
見えてはいたのに反応は出来なかった。
それははるか上空に留まったかと思えば、一瞬で落下してきた。
それに気付いてからここまで約五秒。落下を始めてから一秒にも満たない時間でそれは現れた。
五人組の馬車の荷台に落下したそれは、その重さ、その勢いで荷台を粉々に粉砕し、衝撃の大きさを音で示す。
これには五人組も隻眼の男も何が起きたのかわからないとった呆気な表情を浮かべていた。
「あなたがワタシを探しているというボーイね? あら、可愛い子じゃない」
荷台の木片を押し除けながら現れたのは、筋骨隆隆、全身が筋肉のアーマーで覆われた、濃いめの化粧をしている女装をしたおっさんだった。
いや、女装とかおっさんとかそういう表現はよくないな。
OKAMAだ。
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