第302話

 だが、さすがに正面から突っ込めば、迎え撃たれることくらいあっちだって理解っているだろう。

 タウラスは俺の拳を正面から受けながら、構わず反撃してくる。

 さすがにそこは魔神、タフネスもある。

 俺はそれを正面からうけることはしない。

 俺のHPがクソザコなのが悪いが、正面から打ち合えば打ち合うほど、対人故の厄介さが出てくる。


 代わりにこちらが使うのは、連携という武器。

 ナフがヒーシャのバフを受けながら突っ込んできた。

 かなりAGIを上げているのが見て取れる。

 速度に振った攻撃は、これまで以上に迫力があった。


裁断ストラグル・アウト!」


 必殺技込で放たれる一撃。

 タウラスはそれを正面から受け止める。

 カウンターのためだ。

 斧を受け止めながら、タウラスもナフに拳を放った。


 これまでなら、それをナフは受け止めることで、ナフの動きは止まっていた。

 だが、ナフは構わずそれをガードする。

 動きは――止まらない。


 タウラスは笑みを浮かべた。

 ナフのタフネス、その絡繰を一瞬で理解したんだろう。

 聖者の防陣による防御バフだ。

 ステータスを持たないタウラス相手に、本質的に防御バフは意味が薄い。

 だが、あまりにもバフされる前と後で数値が違えば、受けるダメージもまったく違ったものになる。


「もう、一発! 裁断!」


 更に一発。

 ガードの上からナフが斧を叩き込んだ。

 タウラスの身体が揺れる。

 それでも、奴は余裕を崩さない。


『ここまでは、向こうも想定してる』

『防陣の中に突っ込んできた時点で、そりゃそうだよな』


 やつだって、斬華を含めた遠距離攻撃に追い詰められて、やむなく防陣の中に入ったわけではない。

 防陣の中に入ったほうが対処しやすいから、そうしただけだ。

 実際、ナフの連打もタウラスは涼しい顔で対応している。

 ここから俺が突っ込んでも、タウラスは防陣の効果が切れるまで耐えきるだろう。


『だから、ここからだ』


 俺は、さらなる一手を打つ。


「導きの手」

『ほいさ』


 導きの手が、クロを妖精の揺り籠から、妖精の宿木へと移動させる。

 直後。



 俺は、タウラスの背後にいた。



 完全に意識の外。

 タウラスは予備動作を察知することすらできなかっただろう。

 全ステータスを1まで引き下げて、AGIを上げた。

 そしてその速度を伴った雷神で、タウラスの背後を取る。


 視線が、こちらを向いた。

 呆れたような顔で、驚きを口にしているように見えた。


『今だよ!』

『うん!』


 同時に、ナフとヒーシャがすべてのバフをATKに入れ替え。

 俺も、宿木で上げた速度をもとに戻す。

 そんな俺の手元には、アイテムボックスから抜き放った剣があった。



「斬華!」

「裁断!」



 俺達は、ようやくタウラスに大きなダメージを与えた。

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