第169話

「……いるな」

「いっぱい、いる」


 物陰から、クロと二人で顔を出しつつ“それ”を見る。

 無数の魔物の群れだ。


 数は――ここから見ただけだと数え切れないが、普段俺達が相手している魔物の数はこれと比べることすらできないだろう。

 モンスターハウス作戦中でも、だ。


「魔物の種類事態は、これまで見てきたような連中ばっかりだ」


 スライム、一角ウサギ、ゴブリンにクローバット。

 他、邪ノシシやバトルホーンの姿も見える。


 中でも目を引くのが――


「……バトルオーガがいるぞ」

「そんなのまで……」


 バトルオーガ。

 ダンジョンハザードで相手した、半減装甲とでも呼ぶべきATKを半減する能力を持つ厄介極まりない魔物。

 それが、他の雑魚魔物に混じって闊歩している。

 とんでもない光景だ。


「とはいえ、俺のDEFを越えるような相手はいない。適当に倒して突破しよう」

「そうだね」


 考え方を変えれば、これはボーナスタイムだ。

 眼の前には無数の経験値、俺はいくらでもレベルを上げられる。

 こんなにうれしいことはない。


「よし、行くか」


 というわけで、魔物の群れへ俺は飛び込んでいった。


 ……の、だが。

 問題発生。


「ぜんっぜんいなくならないぞ!」

『……魔物、現在進行系で増えてる』

「マジか」


 飛び上がって全力の蹴りをバトルホーンの顔に叩き込みつつ、踏み台にする。

 周囲を観察すると、確かに。

 なにもない場所に魔物がポン、と出現している。

 それこそ、ヒーシャの力を借りて、魔物のエンカウント率を上げているときのように。


『このままじゃ突破、無理』

『と言ってもこの数相手に、魔法を使ってたらキリないぞ』


 というか、MPが保たない。


『こっちも大変だよ、ツムラさん。負ける相手じゃないけど、数が多すぎて……』

『ひいーん、ごめんナッちゃん、荷物になっちゃってー』


 向こうも大変そうだ。

 バッファーであるヒーシャが無闇矢鱈にMPを使えない関係で、ナフがほとんど一人で戦っているんだろう。

 何にせよ、早く合流しなければ。


「キリがないけど、魔法はそうそう使えない。なら、アレを使うか」


 言いながら、俺はアイテムボックスから剣を取り出す。

 死弐鰐との戦いから有効性を証明し、結果として結構な数の鉄剣を俺は持ち歩いていた。


「――斬華」


 とたん、炎に飲まれる剣。

 俺はその炎を更に巨大化させ――


「行くぞ!」


 魔物たちへ向けてふるった。

 だいたいATK200程度の腕から振るわれる超範囲攻撃。

 魔物たちはどんどん数を減らしていき、ついにはゼロになった。

 雑魚殲滅において、これほど便利な必殺技もあるまい。


 んで、これだけ倒せばレベルの一つも上がってるんじゃないかと、ステータスを開いてみた。


「……経験値、全然増えてない」


 なんで?

 いや、ホントなんで!?

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