第117話

「や……った。やりまし……た」

「すごかったよ、ヒーシャ」

「ああ、やったな」

『すごい』


 ついに魔法のアレンジを成功させたヒーシャ。

 口々に、彼女を皆が称える。

 そうしていると、ヒーシャはへなへなと崩れ落ちてしまった。


「ヒーシャ?」

「う、うあーん!」


 しかも、ポロポロと泣き出してしまうおまけ付き。

 そんなに嬉しかったのか?


「もう、ヒーシャ。ここはダンジョンの中だよ、泣かないの」

「ごめん、でも、でも、うあーん!」


 ヒーシャは、我慢したくても我慢出来ないくらい、ないてしまっている。

 まぁ、仕方がないことなんだろうけども。


『てぇてぇ』

『クロ?』


 ないているヒーシャと、それを宥めるナフ。

 それを見ていると、何故かクロがてぇてぇを発症していた。

 こいつはなんか、愛子っぽいイベントが起きているならなんでもいいんじゃないか?

 ともあれ。


「できましたー! できましたツムラさん! うあーん!」

「ああ、よくやったなヒーシャ。これで、ヒーシャ達はもっと強くなれるぞ」

「うあーん!」

「ちょっとツムラさん、ヒーシャもっと泣いちゃったじゃん!」


 俺が悪いのか!?

 普通に褒めただけだろ!

 ともあれ、泣き腫らすヒーシャを放っておくわけにも行かない。

 しばらくナフ――とクロ――の三人で泣き止むのを待っていたわけだけど。


「……ヒーシャ、また泣いてる」


 ぽつりと、ナフがそんなことを言う。


「また?」

「うん、ダイヤモンドオーガを倒して……ツムラさんが私のところに来る前の日。あの日もこんな感じで、ずっと泣いてた」

「あー、オーガの素材がドロップしなかったからか」


 そりゃ、アレはとんでもない不幸だったからな。

 泣きたくなるのもしょうがない。

 と、思っていたのだが。


「ううん、違うよ」

「じゃあなんで?」

だって。信頼されてるんだね」


 おおう。

 どうやら、ヒーシャは俺のことをとんでもなく買ってくれていたらしい。

 俺がナフに会う前日っていうと、そもそも俺がナフを治せると確定したわけじゃないだろうに。

 ヒーシャが俺を信頼していなければ、それはありえなかったことだ。


「それにね、ヒーシャは泣き虫な性格をしてるけど、実はそんなに泣かないの」

「どういうことだ?」


 泣き虫だけど、泣かないって。

 矛盾してるだろ。


「ヒーシャは悲しいことでは泣かないんだよ。あの子が泣くのは、嬉しい時だけ。嬉しいことがあるとすぐ泣き出すんだけど、でも――」


 ぽん、と泣いているヒーシャの頭を撫でて、ナフは言った。


「強い子でしょ? ヒーシャはさ」


 よくできた妹を自慢するような、そんな笑顔で。


「ああ、そうだな」


 俺は、ナフの言葉に強く頷くのだった。

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