第6話

 ある意味で、これが初めての実戦だ。

 スライムとかいうクソ雑魚お助け経験値マンとは違う、ちゃんとした魔物。

 一角うさぎとでも言うべきそれは、俺を見つけると勢いよく飛びかかってきた。


「早い!」


 明らかに、この世界にやってきた俺じゃあ反応すら難しい速度。

 初日にこいつと戦わなくて助かった。


 だが、やることといえばあくまで飛びかかることだけ。

 武器は間違いなくあの角だろう。

 そして、それ以外の武器はないと考えられる。

 つまり回避は容易だ。


「よっと」


 横にステップ。

 ひとっ飛びで走り幅跳び並の飛距離を飛びつつ。

 攻撃を躱されたうさぎが、方向転換して向かってくるのを見る。

 何度か、同じように回避を続けた。


 そうやって何度も続けていると、問題が発生する。


「身体が動きすぎて、思うように動けない!」


 ちょっと自分のイメージ以上に身体が動いてしまうのだ。

 ヒーローに変身した少年が、最初に感じる身体能力のギャップみたいな。

 そういう光景が繰り広げられる。

 なお、繰り広げているのはスーツ姿のおっさんだ。

 いや、まだ三十代じゃないからおっさんじゃない(強弁)


「けど、案の定ウサギの動きが読みやすくて、戦いやすいな!」


 最初に見た時に思った通りだった。

 ウサギの動きは俊敏だが単調で、こっちが回避し続ければ当たることはない。

 これなら、体の動きを慣らすのにも、敵と戦うのに慣れるのにもちょうどいいだろう。

 なんてありがたい存在なんだ。

 先生と呼ぼう。

 一角ウサギ先生。


「だいぶ飽きてきたな。反撃するか」


 というわけで倒すことにする。

 回避の動きから、反撃の動きへ。

 一度距離を取ってから、向こうが飛びかかってくるのを待つ。

 狙うはカウンター、迫りくる角を避け、胴体に拳を一発叩き込むのだ。


「来いよウサギ先生! 角なんかすててかかってこい!」


 迫るウサギ先生。

 待ち構える俺。

 両者は交錯し――


「あっ」


 思わず俺は避けてしまった。

 すり抜けるウサギ先生。

 振り返る俺。

 なんか気まずい。

 でもしょうがない、怖いんだもの、角。


 その後も何度か攻撃するが、失敗が続く。

 回避してしまったり、そもそも避けたはいいが拳が当たらなかったりだ。

 だって向こうも早いんだもの。


 だが、何度か続けるうちに目が慣れてきた。

 最終的に、十回目くらいのトライで――


「おら!」


 拳が当たる!

 ウサギ先生はそれで勢いよく吹き飛ぶと、アイテムをドロップして消えてしまった。


「一撃かぁ……多分角が突き刺さっても死なないよな俺。ビビりすぎたか」


 まぁしょうがない。

 これから慣れていけばいい。

 ステータスを観ると、倒したことで得られたEXPは30だった。

 美味しい。


 そして、ドロップしたアイテムは――


「三つもある! しかも皮と角と肉だ!」


 めちゃくちゃ豪華だった。

 特に皮と肉。

 皮は拠点の改築に使えるし、なにより肉!

 肉だ!

 久しぶりの肉が食べれるぞ!!


 正直、この世界に来て初めてレベルアップしたときの次くらいにテンションが上がった。

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