第6話 作戦は……


そんな事件から数日後。

まさかのアニエスとの出会いで驚きはしたが、まだ彼女とは関わる時期じゃない。


とりあえずそれは置いておくことにして、俺は破滅エンド回避のための重要人物について考える。

 

そう、クロードには、姉だけではなくもいるのだ。


 ゲーム本編では詳しく語られることのなかった、いわゆる隠しキャラだ。


「シエル様、また体調を崩されたみたいよ」

「またですか?」

「ええ……。今度はかなりひどいみたい」


 使用人たちがキッチンでそんな会話をしているのを俺は朝ごはんを食べながら聞いていた。


 シエルがなぜストーリー本編で登場しないのか。それは彼女が物語が始まる前に死んでしまうからだ。


「心配だけど……。私たちにはどうすることもできないわね」


 シエルの死因は設定資料集でしか語られることはなかった。しかし、それが原因となってクロードとシンシアの関係は完全に壊れてしまう。


 つまり、俺にとっては


 破滅ルートを回避するために、なんとかシエルと会ってみたいんだけど……。


 シエルは屋敷から少し離れた別宅で軟禁のような状態になっている。特には近づくことを禁止されているのだ。その原因となっているのは――。


 ――【魔紋】。


 【リバサガ】におけるバッドステータスの一種で、この状態になると魔力の制御がうまくできなくなる。それどころか、ほうっておくと魔力が暴走しそのまま死に至ることもある危険なバッドステータス。


 さらに、【魔紋】が暴走すると、が異常に高まる。だから【魔紋】持ちは男との接触を厳しく制限される。


 生まれつき【魔紋】を持っているのは、何万人かに一人ほど。その一人がシエルというわけだ。


 だから俺はシエルに会ったことが殆どない。最後に会ったのはシエルが2歳くらいの時だったと思う。


「どうにかして会いにいけないかな……」


 別宅まではそこまで離れているわけではないが、男の俺は近づくことを禁じられている。こっそり行ってもいいんだけど……。バレたらさらに監視が厳しくなるだろう。


「姉さんに相談してみるか……」


「呼びましたか?」


「ぶふっ!?」


 急に後ろから声をかけられて食べていたサンドイッチを吹き出しかけた。気配を全く感じなかった……。


 「なにか悩み事があるのですか? お姉ちゃんが膝枕をしながら聞いてあげますよ?」


「ちょ、落ち着いて! とりあえずご飯を食べてからにしない!?」


「……分かりました、部屋で待ってますね」


 シンシアには隠し事はできなそうだ。まぁどっちみち相談するつもりだったからいいんだけどね。


 ◇◇◇


「シエル……ですか」


「うん。長い間会えてないからさ。どれくらい成長してるか知りたいんだ」


 朝ごはんを食べ終えた俺は、さっそくシンシアの部屋に向かった。キレイに整頓された部屋からシンシアの几帳面な性格がうかがえる。

 ……ちなみに、膝枕を丁重にお断りしたらシンシアは悲しそうな顔をしていた。


「私もそれには賛成です。しかし、シエルは【魔紋】持ちですから……」


「どうにかならないかな?」


「私は毎日会いに行っていますけど、クロードが会うのは難しいかもしれません」


「だよね……」


 うーん、困った。シエルに会えないと彼女を救うことができない。こうなりゃ、正面突破しかないか――。


「……いいアイデアが思い浮かびました」


「ホント!?」


「はい。……クロード、女装しましょう」


「……え?」


 何を言いだすのかと思えば、シンシアは真面目な顔でとんでもないアイデアを口にした。……女装?


「私はいつもシエルに会う時、使用人を一人付けています」


「……まさか」


「そのまさかです。お姉ちゃんが服を貸してあげますね」


 ――こうして俺は異世界で女装をすることになったのだった。




──

読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる、面白いと思った方は、フォロー、ハート、⭐️をポチッとお願いいたしますっ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る