序:九郷義花(医学部のすがた)

「――という理解で合っていますか?」

「そう、そういうこと!」

 助教の先生から合格が返ってきて、あたしは深く頭を下げる。

「おかげですっきり理解できました、お忙しいのに長いこと付き合わせてしまって本当にすみません……」

「良いよ、学生の疑問に付き合うのは教員の務めだから……けど一応、講義でちゃんと分かるように説明してるんだよなあ」

 ちょっと眠気と戦っていた――とは言えないので。

「次回からはもっと念入りに予習しておきます……では失礼しますね」


 改めて丁寧にお辞儀をして、あたしは研究室を出る。

「……つかれたんご、タンゴ、団子、ダンボ、」

 ぶつぶつと呟きながら薄暗いキャンパスを徘徊するのは、この女~~~!!


 元カレのママと付き合う女、九郷くごう義花よしかとは……あたしだよ!

 ……なんか元ネタが合体している気がするけど、気にすまい。


 今は岳都がくと大学医学部医学科いのいの3年目、後期の始まった10月。日々難度と量を上げていく講義に追われて、毎日が試験前夜な華のキャンパスライフを送っている。今年度からは病院に出向く機会もあり、ずっと学業のことを考える日々が続いていた……学生の本分は、勉強でしょでしょ?


 とはいえ、あたしなりに譲れない信念があって医師を目指しているのだ。ここで折れるわけにはいかない、泥臭くとも堅実に経験値を積んでいく所存だ。


(作者注:義花が医師を目指す理由はカレママ本編を読んでください)


 しばらく見ていなかったスマホを確認。同居人である咲子さきこさんから「もう着いたよ」と5分前に連絡――と、もう一つ。

「お、ミユカじゃん」

 旧友からの頼りが気になりつつ、まずは咲子さんの車へと急ぐ。普段はバスで通学しているが、今日みたいに遅くなる日は迎えに来てもらっているのだ。とはいえ学年が上がり遅いのが日常になってくるので、来月からは車での通学になる。運転は苦手ではないがやはり緊張する、それにバスでの読書タイムが消えてしまう。まあ地方都市の宿命なのだが……

 

「お待たせ咲子さん、ただいま」

「おかえり~、疑問は解決した?」

「うん、ばっちり。今度は友達にレクしてみる」

 このタイミングでは「解決した?」と聞かれるのが嬉しいのがあたしで、それを分かっているのが咲子さんである。


(作者注:義花と咲子が同居するまでの流れはカレママ本編を読んで)


 さて、ミユカ――箕輪みのわ結華梨ゆかりから連絡が来ていたな。結華梨は中学から高校まで一緒だった激カワの親友、最近は他県の薬学部に通っている。あたしの青春ストーリーにとってはライバルだったりヒーローだったり……まあとにかくハートの強い美少女だ。


「ミユカが月末に帰ってくるんだけど、そのときミユカの実家に泊まりに来ないかって誘い来たんだ」

「あら楽しそう、じんも一緒」

 仁、津嶋つしま仁輔じんすけ。結華梨の今カレにして、あたしの幼馴染みな元カレにして、咲子さんの一人息子。ちょっと顔を合わせづらい母と子である。


(作者注:津嶋家の事情についてはカレママ本編を)


「そうそう、久しぶりに3人で語り明かそうぜ~って。ご両親もそれぞれ出かけてるみたいでね」

「へえ、あちらが歓迎なら良いんじゃない?」

「うん、行けるよ~って返事しちゃうね」


 そんな軽い気持ちで参加を決めてしまったのが、あの狂気の夜への戻れぬ始まりだった。


(作者注:仁輔の元カノ義花と今カノ結華梨がこんなに仲良い理由は本編)

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