それぞれの攻防

第33話

 目的地に近づくと、黒いワゴン車から臼井が待ちきれないとばかりに不安そうな顔をして、木の下にしゃがみこんでいた。


『それで? きみは一体ぼくたちをどこの旅館に連れて行くつもり? 東原 アカリさん』


 ちょ、ま。あえてそれは掘り返さないで欲しかったのに。


 だって、せっかくそれとなく楽しそうな雰囲気だったじゃん。それともノゾ様は、なにかが起こるとでも思っているのかな?


「ふぅ〜ん。さすがは史上最強のAIだね。一筋縄にはいかないか」


 え? 史上最強のAIですってぇ〜!? そんなの聞いてなかったからあせるのなんの。


『それでは、これでどうかな? 本来ならば、お互いのアジトを見比べてみたい。だけどまだそこまでお互いを信用できていない。だからしかたがないけれど、ぼくたちが知らない温泉旅館に連れて行かれて、ドンパチすると?』


 ノゾ様、ドンパチはしないで。だって。今のところ、頼れるのはこれだけしかいないし、なんならあたしも役立たずだし。


 ノゾ様とアカリさんのどちらもジト目であたしを見ている。ひょっとしたら、あたしに判断を任せてくれてる?


 ち、ちょーっと待ってくれないかな?


 ムーリムリムリムリだから。


「そう牽制しあうのはよしなさい。それとアカリや、そなたはいつからそのように偉く成り下がったのじゃ? よりによって、喪服までブランド品でかためるだなんて、わしはそのような贅沢者に育てた覚えはないっ」


 ……うん? 今なんか、東原様のお声がこもってどこからか聞こえてきたような感じだけど?


 怨霊? それとも地縛霊?


 違った、東原様は生きていたんだった。けど、小さくなっているって、どこまで小さいのだろう?


「ふ~んだ。わたしだって、ダイサクじいさんに育てられた覚えはありません。っと、まぁ。それも一理あるから、今回は特別にダイサクじいさん出ておいで」


 少し楽しそうな節を付けてアカリさんが歌うと、彼女のショルダーバックの中から、手のひらサイズの東原様が出てきて大騒ぎ!!


「まぁ、そう騒ぐでない。ではこれより、そこなる青年にここまで来たワゴン車に乗り直してもらって、わしの第三のアジトまで案内するから、こちらの車に付いてくるよう指示を出してもらえないかの」


 ああ、そういうことなら、とスマホを操作しかけたマチ子さんだけど、まんまとアカリさんに奪われる。


「ちょっ、返してくださいっ!!」

「無粋だな。こういう時は、ユイカが直接会って伝言を頼むか、彼女が電話するかのどちらかでしょう? 一応まだ恋人設定なんだから」


 はっ。そうだった。


 けれども、なにもしていないうちに、あたしたちの気配を感じたであろう臼井が、うつむいたままワゴン車に乗り込んでしまった。


 ごめん。あまりにもいろいろとありすぎていて、臼井が交際宣言を出してくれていた映像、まだ見てなかった。そして多分、その報道、下手するとオクラになりそうなんだ。本当にごめん。


『いつまでここにいるのも危険だし、サクッとアジトに連れて行ってくれたまえ、というか東原様、どうかした?』


 東原様は、お召し物まで手のひらサイズで、ノシっとノゾ様のタブレットの上に腰掛けると、それではレッツ・ゴー!! とかけ声をかけた。


 こちらの運転手さんって、随分肝が座っているんだな。不思議なことがたくさん起きているのにまったくのノーリアクション。


「心配するでないぞ、笠原殿。その運転手はわれのパートナーという設定になっている。どこでなにが起ころうが、まぁ〜ったく問題ない。なにしろ、この運転手こそが、あの名高い陰陽師の末裔、しかも本家本元なのじゃ」


 おおおー!! ついに陰陽師の本物登場!? すっごぉ〜い!! あたし感激してばっかりだな。


「だぁ〜がぁ〜。残念なことに、コヤツとわしは見えるものは見えるのだが、攻撃する手立てがない。御札にしても、ほとんどアカリが作ってくれているものだし。派手なアクションはできんがな」

「ちなみに。彼とは遠縁とおえんの親戚だから、わたしとも結婚できるんだよね」


 え? お孫さんがおじいさんのパートナーを横取りするの? なんかアカリさんのことを怖い人だと感じてしまった。


「それで、どうしてこのサイズになってしまったのですか?」


 うん、まずはそこからだよね。さすがはマチ子さん、しっかりしてるわ。


「うむ。あの青年にわしの言葉は聞こえているかの?」

『大丈夫。全部筒抜けだから』


 ひぃ〜。それもまた怖い。


「では、話すとするかの」

「もったいつけてないで、早く答えてあげなさいよ。これからもっとややこしくなるんだから」


 ということは。今日も情報過多なんだ。ちょっと腰が引けつつあるあたしに、マチ子さんはイチゴ味の飴をあたしにくれた。


 うん、しっかり胃袋掴まれてる。この飴だーい好き。


 つづく


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