第7話

 ワゴン車は、入口前に付けてくれた。お陰で週刊誌とか、そういうのには撮られていないはず。まぁ、臼井の癖に、その辺きちんとしていて、サングラスとラッパ帽子なんて被ってる。そんなんじゃかえって目立つし、あまりにも昭和的感覚すぎる。


 それにしても、昨今のパパラッチはしつこい。報道の自由と、個人のプライバシーは、あたしが生きている間に解決してくれるといいのだけれど。


 コンシェルジュに会員制のレストランに案内される。


 し、か、も。カウンター席ですよ。目の前で分厚いステーキを焼いてくれるんですって!


 ドリンクは臼井のお気に入りのシャンパンで、だけども、これどうやったらゲコの芝居ができるんだろう? 美味しすぎるんですけども。


 目の前でファイヤーなことになってきた頃には、なんだかよくわからないんだけど、牛さんに申し訳なくて涙が出そうになった。そこまでしなくてもいいじゃん、っていう気持ち。しかもなんだか煙がすごすぎて、むせそうになるのを必死にこらえている。


「んー? と。じゃあ料理長。後は部屋に運んじゃってください。おれたち、大事な話があるんで」


 料理長は無口なまま親指をあげた。


「おっと。シャンパンとグラスはもって行くし、コンシェルジュもここで待っていて」


 ……作戦違うじゃんよ。ここはあたしにたらふく分厚いステーキ食べさせておいて、それからシャンパンをドボドボ飲ますのが手口じゃないの?


 酔わせる前にあたしを食うのが先? 鶏ガラみたいに華奢なこのあたしをっ。


 とは言いつつ、あたしも臼井に話があるので、大人しくついて行く。エレベーターに乗り込んだら、いきなりキスとかしてくるんでしょう? そういうアメリカのドラマ観てるもん。


 が。これも空振り。臼井の顔は高潮しているけれど、一切あたしを見ない。


 おいまさか部屋には先客がいるとかじゃないよね? そうしたらせーとーぼーえー使うことになるんだけども。カーゴパンツのポケットに忍ばせてあるスタンガンを確認。


 エレベーターは白々しく最上階で停止した。


 最上階かぁー。初めてだなぁ。どうやって逃げ出せばいいのかなぁ?


「どうぞ」

「あ、りがとうございます」


 しかもこいつ、この部屋の常連だな。なぜなら、この部屋の鍵はしっかりと臼井の財布から出てきたものだから。


 で、警戒しつつ、部屋に入る。


 うわー!! すっごい夜景ー!! いくらあたしが唐変木とうへんぼくって言ったって、こんな景色を見るのは初めてだ。


 瞳を輝かせるあたしをよそに、臼井はしっかりと内側から鍵をかけた。


 つまらないところで気がききすぎるな。


 すると同時に、部屋の明かりがほんの少し暗くなり、さっきまで消えていたはずの大画面が売りのテレビが、急にプツッとついたのだった。


 しかも、その現象はテレビだけじゃなく、部屋の中のなにもかもがついたり消えたりしていた。


 っと、その時。白い画面だったテレビに、赤い髪をツインテールにした、とても可愛らしくて小さな女の子がぼんやりと浮かぶように現れた。


『レディースアンドジェントルマン。ようこそ、ぼくの縄張りへ』


 ……これって、なに?


 つづく

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