派遣社員・藤堂薫は漢を目指すッッッ!!
日乃本 出(ひのもと いずる)
第一撃 漢・藤堂薫、推参すッッ!!
春。やわらかな日差しの中、桜吹雪舞う、麗らかな朝。
季節はまさに、
通学路には、新たな学びやへと向かう、小中高の生徒の晴れ晴れしい姿によって満たされていた。
ああ、なんという素晴らしい光景か。
今、この瞬間。この通学路には、若さと青春の美しさの全てがつまっているといっても過言ではないだろう。
しかし、そのような素晴らしい光景にふさわしくない、
「なあ、なあ!! いいじゃぁ~~ん!!」
という、下卑た声が辺り一面に響き渡った。
その場にいた学生たちが、声のした方へと目を向けると、そこには一人の少女が数人のチャラ男に絡まれている姿があった。
「あ、あの、ですから、わたしは、その……」
消え入りそうなか細い声でうつむく少女。それを見て、いっそう声を高めていくチャラ男たち。
「だからさぁ!! 学校なんてサボって、俺たちと遊びに行こうっていってんじゃん!」
「君みたいな子、今どきいないよ! なんつうの? 絶滅危惧種ってやつ? おさげ髪で、眼鏡かけてさぁ。まさに真面目な委員長って感じじゃぁぁぁん?!」
「マジ希少種って感じじゃね?! こりゃあぜってえ声かけなきゃいけないっしょ!! 俺たちから声かけられて断る女なんていないよ?! ほらほら、いこうよ!!」
一人のチャラ男が、少女の手を無理やりとり、ひっぱりはじめる。少女は、体を曲げて必死に抵抗の素振りを見せ、
「やっ、やめてください……!! だ、だれかっ!! 助けてください~~~っ!!」
と、周囲の人々にあらん限りの声をもって助けを求めた。
しかし、周囲の学生たちの中に、我こそはと声をあげる気骨のある者などいなかった。だがそれは致し方ないことでもある。このチャラ男たちは、少なくとも大学生くらいの年齢であると見てとれた。それに、どことなく危険な空気をまとっており、いわゆるチーマーのようにも感じられたからだ。
そのような風貌をした男達に、己の危険をかえりみることなく、少女を救うというような行為が、付近のいたいけな少年少女たちにできようか。
このような場合、問題を解決すべき者は、周囲にいる年長者である。少年少女に、外道許すまじと、道徳の模範を示し、年長者としての威厳をもって、少年少女を教育しなければならぬ。
ああ、しかし、なんという情けなきことか。
昨今の年長者たちの間では、リスクマネジメントなどという横文字を用い、己が軟弱さを隠す方便とすることが横行しているのだ。
ゆえに、今この瞬間にいたっても、周囲の年長者たちは、我関せず、触らぬ神にたたりなしと、少女の窮地が目の前で繰り広げられていても、見て見ぬふりを決め込んでいたのである。
「ほらほら!! 学校なんかよりも楽しいところに連れて行ってあげるからさぁ!!」
少女の手を引っ張っていたチャラ男が、その手に少女が抗し切れぬくらいの力をこめる。必死に抵抗をしていた少女であったが、少女の細腕では男の力に抗いきれるものではなく、哀れ少女の小さな身体は、手を引っ張っていたチャラ男の元へと引き寄せられてしまった。チャラ男は少女の身体を受け止め、勝ち誇ったゲスな笑みを浮かべつつ、
「おっしゃ、それじゃあたっぷり楽しもうぜ!!」
と、少女を無理やり抱きとめながらのたまった。
「いっ、いやですぅっ! お、お願いですから、だ、誰か――――助けてくださぁいっ!!」
少女が涙交じりの渾身の叫びをあげる。しかし、嘆かわしいかな。やはり、周囲の人々が少女を助けようという素振りを見せることはなく、少女はそのままチャラ男共の毒牙にかかってしまう――――かと思われた。
だがっっっっっっっっっっ!!!!!!!
神はっっっっっっっっっっ!!!!!!!
少女を見捨ててはいなかったっっっっっっっっっっ!!!!!!!
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
突如として辺りに響き渡る、大気を震わせんが如き怒号。
その場にいた全ての者が、その怒号に畏怖をいだきつつ、怒号の方へと目を向けた。
一同は視線の先にいた者の姿を見て……一同はよりいっそう、その心胆を寒からしめることとなった。
その者の姿とは――――一言で表すならば『
その体躯。二メートルに届こうかというほどの巨躯。丸太と
その瞳。世の外道、決して見過ごすことならずという決意をもった、鋭い視線と瞳。
その背に負うは、巨躯にふさわしき巨大な寝袋。
その履物。スニーカーなどという軟弱なものでは、その巨躯を支えることかなわず。その巨躯と学ランにふさわしき履物はただ一つ、そう、鉄ゲタである。
まるで、昭和の不良漫画から飛び出てきたかのような姿をした、この男――――否ッ!!!! この漢ッ!!!!
漢の名は、
今まさに、時代錯誤な漢による、時代に名を刻む伝説が――――今ここに開演するのであったッッッッッッッッ!!!!
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