第13話 小さな召喚士2
そんな話をしてると、トントンと階段を降りてくる足音が聞こえてきて、ハッと口をとじる。
「く、クロウ、今のナイショだからね!」
「わかったわかった」
クロウがうなずいたのを見て、ぼーっと息をはく。
そして、所長さんがくるまえに、ピシっと背筋を伸ばした。
「あーごめんね、待たせちゃって」
「所長さん!」
「書類がなかなか見つからなくてさあ」
「いえ、大丈夫です!」
所長さんは手に紙を何枚か持っていた。
薄茶色をした不思議な高そうな紙! そんなにいっぱい契約することがあるのかな?
「それじゃあ、さっそく契約といこうか」
所長さんはそういって、手に持っていた紙を宙にばらまいた。
「えっ、所長さん?」
わたしが声をかけたのと同時に、わたしの足もとがカッと光った。
光はどんどん強くなっていって、わたしを囲いこむ。透明なかべがあるみないな、ふしぎな感じ。
とまどいながら光がわきあがる足もとを見ると、床に不思議な模様が浮かんでいた。
金色に輝く光は、大きな円の形をしていた。
大きな円の真ん中に、小さな円があって、そこから時計の針のみたいに上下にまっすぐ光の線が伸びてる。大きな円のなかには、わたしでは読めない文字が書かれていた。
な、なんだろう。これ。
「しょ、所長さん、これは……」
「リディルちゃん、契約陣見るのはじめて?」
「け、契約陣?」
「重要な契約ごととかを行うときに使う陣のことだよ」
「し、知りません」
そんなものがあるなんて、聞いたことがない。召喚士の勉強をしてたときも聞かなかった。
あれ、そういえば所長さんって、なに者なんだろう。ふわふわの生きものはいないから、召喚士ではなさそうだけれど……。
森にいくっていってたから、戦えるんだろうな。剣の達人だったりして!
りりしく剣を持つ所長さんを想像して、きゃあきゃあほおを押さえていると、所長さんはわたしがパニックになってると思ったのかおだやかな声をかけてくれる。
「変なことはしないから、大丈夫だよ。ちょーっとリディルちゃんのチカラ、もらうだけだから」
「え?」
「は? おい、まさかてめぇ!」
興味深そうに足もとの模様を見ていたクロウが、血相を変えて立ちあがった。
と同時に、床にあった契約陣からふわっと風がわきあがってくる。風で髪が上になびいていった。
なんか、変な感じ……。なんだろう。
ふと、わたしの体から薄い膜のような光が流れ出ているのが見えた。
なに? これ。
すこしこわくなってきて、所長さんを見る。所長さんは目をとじてなにかをつぶやいていた。そして薄く目をひらいて、ふせていたのその目をわたしに向ける。
「
バチンッ! と、強い光がわたしのまえではじけた。
「はい、終了〜。お疲れさま」
ふっと、金色の光が消えた。床に広がっていたふしぎな模様もない。
なによりも、なんだか、体が重い。
全力疾走したあとみたいな気だる感じがする。ちょっとねむいかも……。
「な、なんですか……今の」
「んー? リディルちゃんのチカラ、少しもらっただけ」
「力って? え、あれ? クロウは?」
ソファに座っていたはずのクロウの姿がない。
でもその代わりに、小さな犬みたいな生きものがいた。ふわっふわの毛に、金色の瞳。目つきはちょっとこわい。
「も、もしかして……クロウ?」
「おい、てめぇ。ふざけんなよ」
この声、クロウだ!
所長さんに飛びかかろうとするふわっふわのクロウを抱きしめて止める。
「クロウ、ふわふわの姿になれたの⁉︎ かわいいっ!」
「強制退化させられたんだよ! よろこぶな!」
「強制退化? あっ、でもこの姿だったら、召喚獣って認めてもらえるんじゃないかな?」
「あほ。この姿でチカラが使えるか」
「え、そ、そうなんだ。そっか……」
せっかくふわふわの姿になれたのに、チカラは使えないなんて、クロウは本当にふつうじゃない変わった召喚獣みたい。
「へへ、でも、この姿、かわいい!」
クロウのふわふわの毛に顔をうずめる。かわいい子がきたらいつか絶対にやろうと思ってたんだ!
ふわふわの体をさわって、匂いを嗅いで、頬ずりする。
クロウは固まったみたいに静かだった。思う存分ふわふわしてると、所長さんが床に落ちていた数枚の紙を手にとった。
「うんうん。ちゃんと成功してるね。リディル・ベロワーズ。十二歳か。若いねぇ。へぇ、リディルちゃんリアンダ出身なんだ。遠かったでしょ。ふむふむ、召喚士には昨日なったばかりだったんだね。で、あー、なるほど。実技試験不合格」
わたしの体がビシッと固まった。
え? どうして、所長さんがそれを……。
引きつった顔で所長さんを見ると、所長さんも気づいたみたいで、にこりとわたしを見て笑う。
「だから召喚士バッジなかったんだ」
え、えええー!
ニセモノ召喚士ってバレてた⁉︎
う、ううん。本物の召喚士のはず、だけど。でも召喚士組合では認めてもらえなかったし、どうしよう⁉︎
「ど、どうして、それを……」
「んー? これ」
所長さんはペラッと手に持っていた紙を見せてくれた。
その紙には、わたしの名前から性別、出身地、好きなものや食べもの、召喚士になるまでの経緯がびっちりと書かれていた。
「な、こ、これ……」
「契約陣は、その人のことすべて映し出してくれるんだよね。召喚士でもないのに召喚士っていい張る輩も多いからさ、ウチではこれを採用してるんだ」
「そ、そうなんですか」
ええっ。でもそんな契約方法、聞いたことないよ⁉︎
やっぱり所長さんって、何者?
「えーと、志望動機はっと」
その単語を聞いて、目を見開いた。頭で理解するのと同時に駆けだして、所長さんが持っていた紙をもぎ取る。
「リディルちゃん?」
「だ、だめ! これはダメです! ダメ!」
それしかいえなかった。
必死に首をふりつづけると、所長さんはあきらめてくれたのか、気まずそうに頭をかいた。
「あー、うんごめん。女の子だもんね。自分のこといっぱい書かれてるなんて嫌だよね、デリカシーなかったかな」
わたしは何度も大きくうなずいた。
わたしの志望動機なんて、不純しかないのに、見られたら嫌われちゃうよ!
所長さんは苦笑いをして、ぽんぽんとわたしの頭の上に手をおく。
「本物の召喚士ってことはわかったからもういいよ。今日はもう帰って大丈夫」
「え?」
「本格的なお仕事は明日から。チカラをとったからねむいでしょ? 今日はゆっくり休んでね」
「お、追い出さないんですか?」
「追い出す? どうして」
「だって……実技試験は不合格で、タマゴも道で孵っちゃったから、召喚士としてちゃんと認められてないんです……」
きゅっとスカートをつかんでうつむく。
ふわっと、大きな手がのせられた。
「うんうん。大丈夫。魔力写しはウソをつかない。人型はとくべつだからね、ああいう大きな組織は、イレギュラーに対応できないこともある。でも、キミは召喚士だ。ここで働きながら、ゆっくり証明していけばいい」
心の奥に、ふわりとやさしく落ちてくる言葉。
言葉は魔法だって聞いたことがあるけれど、本当にそうだ。やさしい魔法。
今までも何度も何度も不合格で、やっと召喚士になれると思ったら認められなくて。
少しずつ積もっていた見えない悲しい気持ちが、所長さんの魔法の言葉に包まれてふわっとあたたかくなった。
だんだん、鼻の奥がツンとしてくる。目に膜が張って、ガマンできずにボロリと涙がこぼれた。
「わ、わたし、ここにいてもいいんですか?」
「いいよ。明日からよろしくね。小さな召喚士さん」
「っ、は、はい! が、頑張ります!」
やっぱり、所長さんはすごい。
どうしようって、絶望のときに、軽々手を伸ばしてくれる。
わたしは召喚士だって、はじめていってくれた。
だれも、いってくれなかったのに。
ソファにいるクロウをぎゅーっと抱きしめる。
「クロウ、これからいっぱい頑張ろうね!」
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