日々日々 ―全部ウソの楽しいエッセイ―

酒田青

2023年11月7日 今日もチャイを作って飲んでいる。

 チャイは、おいしい。


 チャイを知らない方のために簡単に説明すると、チャイとは紅茶の茶葉と牛乳、スパイスを煮込んで作るインドの甘いお茶である。

 スパイスは基本的にシナモン、カルダモンシード、クローブを使う。乳鉢でカルダモンシードの殻を割り、シナモンスティックを二つ三つに折って、水を入れた鍋に放り込み、クローブも加えて煮込む。水がお湯になり茶色く染まってきたら、火を止めてアッサムやセイロンなどの紅茶の茶葉を加える。それから牛乳と砂糖をたっぷり入れ、火をまたつけて沸騰するまで煮込む。茶こしで濾してカップに注げばマサラチャイの完成だ。


 私は毎日チャイを飲んでいる。飲むとスパイスと甘みの力で元気が出る。煮込む過程も楽しい。スパイスの香りが立ち、次に紅茶、更に牛乳の加わった香りへと変化していくのにわくわくする。

 元気のない私はチャイによって生かされている。


 私はチャイ煮込みマシンでスパイス類を煮込み、茶葉を開かせ、牛乳と砂糖を加えて煮込む。最近はチャイをコツコツ煮込む力がなくなってきたのでずっとチャイ煮込みマシンを使っている。

 あのころの手作業が懐かしいが、香りが立ってくると元気が出てくるのでこれはこれでよい。


 私は白いベッドに寝ている。宇宙空間にある私の球体の透明な家には、本棚とベッドと水周り、そしてチャイ煮込みマシンしかない。

 星々が虚しく美しい輝きを全方向から見せてくれる。遥か遠い地球に思いを馳せる。私はこんなに遠くまで旅を続け、一体何を得たのだろうと。機械に面倒を見てもらえるとはいえ、孤独死まっしぐらだ。宇宙空間の周囲には人っ子一人いない。


「チャイが、完成いたしました」


 チャイ煮込みマシンが知らせてくれる。この家で喋るのはチャイ煮込みマシンくらいだ。

 ちなみにチャイ煮込みマシンは私のベッドの真横にあって、私が一日に飲む大量のチャイをベッドの半分くらいの大きさのタンクに備え、全てが透明で、その機構をあらわにしている。


「お口にお運びします」


 チャイ煮込みマシンは私の乾ききってしわしわの口元に細くてかなり長いストローを差し込む。この辺りも自動だ。


「注入いたします」


 チャイが入ってきた。熱々で、甘くて、香りの濃い……。

 私は盛大にむせた。熱すぎる。ストローで熱々のチャイを飲むバカがどこにいる。ここだ。


 私は何度もむせつつチャイをコップ二杯分飲み終えた。ああ、おいしかった。インドの香りだ。地球の香りだ。

 熱々のチャイでむせて口内を火傷すること、それが私の生きる気力となる。





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