ホームレス池の女神

@LammyFukasawa

ホームレス池の女神

昔むかし…


あるところにホームレス池と呼ばれる公園がありました。


かつては綺麗な公園だったのですが、周辺治安の悪化に伴い、だんだんとホームレスが増えていきました。今では一般人が近付かないホームレス村になっています。そんな場所に活気などあるはずがありません。


しかし、今日の公園はとても賑やかです。


深夜、重低音のウーファーを響かせたミニバンが止まったかと思うと、中から元気なヤンキーが数人降りてきました。


いわゆるホームレス狩りというやつです。


彼らはホームレスの住処を破壊し、暴虐の限りを尽くしました。酒が入った彼らはとても上機嫌です。


「やめろぉおおおっ!俺の村から出ていけぇ〜っ!」


そんな時、ひとりのホームレスが立ち上がりました。


彼の名前は小野金造おのきんぞう


ホームレス村の古株です。


彼は勇気を振り絞ってヤンキーに立ち向かいました。しかし、彼に都合の良いことは起こりませんでした。


あっという間にボコボコにされた金造は、ヤンキーたちに引きずられ、公園の中心にある大きな池まで連れてこられました。


「今日は暑いだろ?泳いでこいよジジィ!」


「うっ…!うわぁあああぁ〜っ…!!」


ザボォオオオォォォン…!


ヤンキーたちは躊躇することなく金造を池に放り込みました。彼らは池が溺れるほど深くないことを知っていました。過激ではありますが、一線を超えないのが都会のヤンキーの流儀なのです。


────


ヤンキーたちが池を立ち去ろうとした時です。


ゴボゴボゴボッ…


「…え?」


水面が泡立ちはじめ、池の底で何かが光を放っています。光が水面まで浮かんでくると、光の正体がわかりました。


ザパァン…


それは女神様でした。


この世のものとは思えない美貌を持ち、後光を纏って現れました。彼女は浮遊しながらヤンキーたちを見下ろしています。


右手にはずぶ濡れなった金造を、左手にはとても美しい裸の女性を抱えていました。どうやら彼女は相当な力持ちのようです。


女神様はヤンキーたちに向かってこう言いました。


「あなたたちが落としたのは、この薄汚いホームレスのおっさんですか?それとも、この何もかもが正反対な絶世の美女ですか?」


「………ええっ?」


ヤンキーたちはとても困惑しています。思わず陰キャのように吃ってしまいました。


「…チッ、早くしろよ」


女神様は小声で呟きました。彼女は眉間にシワを寄せて露骨にイライラしています。


テンパった時、ヤンキーという生き物は意外に素直なものです。


「えっと…お、おっさんを落としました…」


ボチャン…!


女神様はニコッと笑うと、右手で抱えていた金造を池に落としました。そして、彼は沈むはずのない池の底へと消えていきました。


女神様は左手に美女を抱えたまま、地面へと降りてきました。


「も、もしかして…その女もらえるんスか!?」


ヤンキーのひとりが叫びます。童心とは無縁な彼らも、有名なおとぎ話の顛末は知っていました。


女神様は美女を地面に寝かせると、ヤンキーたちに向かってこう言いました。


「正直者な貴方たちには…」


「あなたたちには…!?」


「…私の暴力を差し上げましょう」


「は?」


バシィッ!!ドグシャアアアァァァ…!!


次の瞬間、女神様の目の前にいたヤンキーが、ものの見事に吹き飛びました。女神様は打点の高いドロップキックをお見舞いしたのです。


「な、なんでだよぉ?!」


女神様はヤンキーたちを次々とプロレス技で沈めていきます。


ガッ…!!ドガッ…!!バギィッ…!!


ラリアット、ローリングソバット、キャメルクラッチ…そして女神様こだわりのドラゴンスープレックスが炸裂しました。


ドゴォオオオンンンッッッ…!!


女神様はリーダー格の男の頭を掴むと、こう言いました。


「人が気持ちよく寝てる時に、おっさんを投げこむな…次やったら◯すぞ…」


「ずび…ずみまぜんでじだぁ…」


女神様は肩をぐるぐる回しながら池へと帰っていきました。公園には半◯しにされたヤンキーたちと、朦朧とした美女が取り残されました。


「なにが…どうなって…」


ガクッ…


美女はか細い声でそう呟くと、意識を失いました。


────


一部始終を見ていた他のホームレスが、交番へと駆け込みました。警官たちが現場に到着すると、倒れているヤンキーたちと、裸の美女を見つけました。


当然、ヤンキーたちは婦女暴行未遂の疑いで現行犯逮捕されました。


そして、保護された美女が目を覚ましました。


「お…おれはいったい…」


「あんた…大丈夫かい?不良たちに乱暴されたようだが…」


壮年の警官が美女に優しく話かけます。


美女の意識がだんだんとハッキリしてきました。


美女は自分の身体を見てびっくりしました。彼女は警官の制止を振り切り、池の水面をまじまじと見つめます。


「お…おんなだ…女になってる…」


驚いた顔の美女が自分を見つめ返してきます。彼女の正体は金造だったのです。


金造は正直者でした。警官に昨夜起こったことをすべて話しました。


最後まで黙って話を聞いていた警官が口を開きます。


「あんた…きっと気が動転しとるんだ。まずは署でゆっくり休みなさい」


「ち…違うんです…!本当なんです!信じてください!」


ホームレス仲間も本当のことを話しましたが、やはり警察には相手にされませんでした。


結局、金造は服を着せられ、警察署に連れて行かれました。


────


金造は女性警官に色んなことを聞かれました。


とはいえ、本当のことを喋ったところで信じてはもらえません。彼は真面目に答えることが嫌になってきました。


「…とにかく、ご家族になんとか連絡しなきゃいけないの。自分の本当の名前は思い出せない?」


「小野金造が本当の名前なんですけど…それに、親はとうの昔に亡くなりましたよ…」


「はぁ…襲われたショックで記憶を失くしちゃったのかしら。困ったわね…」


女性警官は根負けしてしまいました。何も情報を引き出せず、頭を抱えています。


コンコン…ガチャ…


その時、別の女性警官が部屋に入ってきました。


「いいお知らせですよ、金城小町かねしろこまちさん。ご両親と連絡が取れました」


「は…?かね…?それに親って…?」


「手がかりがあった?」


「ええ、公園の茂みに彼女の衣服とバッグが落ちていました。大学の学生証から身元がわかったんです」


金造は訳が分かりませんでした。


どうやら今の自分は女子大生で、両親も健在であることは何とか理解できました。しかし、そのことを受け入れられるかと言われれば、また話は変わってきます。


金造に美女として生まれ変わった喜びなどありません。むしろ、夢なら覚めてくれと本気で願っていました。


────


「いいかい、小町。事件のこと内密にしているけど、無理だと思ったらすぐに帰ってきなさい。父さんもすぐに帰ってこられるように、仕事は早めに切り上げる」


「小町。嫌かもしれないけど、しばらくは使用人が車で送迎するわ。お母さん、出来るだけあなたをひとりにはしたくないの…」


「うん、わかった…ありがとう。お父さん……お母さん……」


金城家はびっくりするほどのお金持ちでした。


いわゆる旧家という由緒正しい家系です。金造は絢爛豪華な部屋で寝起きし、三食おいしいものを食べ、面倒なことはすべて使用人がしてくれる生活を送っています。


金造はここ一週間、本当のことを言わないようにしています。


本当のことを言ってしまうと、この優しい両親を悲しませてしまうことに気が付いたからです。


例えば、しつこく聞かれて困ってしまったので、ヤンキーたちに乱暴されかけた経緯もでっち上げました。


サークルの飲み会に出席した後、ひとりで帰っているところを誘拐され、警察の巡回がないホームレス池に連れこまれた…と説明しました。


両親は娘の記憶が戻ってきていると勘違いし、一安心したようです。


ちなみに、逮捕されたヤンキーたちは金城家の力をもって、社会的に完全抹殺されました。


────


今日から夏休みが明けて、大学の授業が始まります。


金造は不安どころではありませんでした。


彼が学生だったのははるか昔の話です。高校を中退し、ずっと肉体労働しかしてきませんでした。一流大学の講義内容など分かるはずもありません。


しかし、金造の頭の中で不思議なことが起こりました。


(ついていける…話が進むたびに、どんどん前の講義のことを思い出してる…いや、そもそも覚えたことなんてない!何なんだよこれは…)


とにかく、金造は大学生として問題なく生活を送れる頭脳を持っているようです。それに、彼が何かしらの行動を起こすたびに、金城小町としての記憶がどんどん脳に書き込まれていきました。


「あっ!久しぶりだね、小町。元気してた?しばらく連絡なかったから心配しちゃった」


「えっ…!?…ああ、うん。元気だったよ、心配かけてごめんね」


お昼休みに学食で声をかけられました。


見知らぬ女性…と思ったのはほんの一瞬で、すぐに相手がテニスサークルの友人だということを思い出しました。


女性とまともに会話などした経験はありませんでしたが、何気ない日常会話が普通に成立してしまいます。表面上はにこやかにやり取りしていたものの、内心では心臓が飛び出しそうなぐらい緊張しました。


サークル活動のテニスだって難なくこなします。


金造は腰を悪くして仕事をやめ、困窮からホームレスになったのですが、今は嘘のように身体が軽く動きます。


スパァアアアン…!ブルンッ…!


(い、痛い…っ!女の胸って、揺れるとこんなに痛いのか…)


『デッッッッッ…!?』


『うわ…おっぱいでっか…』


身体そのものは軽いのですが、テニスウェアを押し上げる巨乳はなかなかの重さでした。試合を見ていた男性陣はヒソヒソと囁きながら、みな一様に前屈みになっています。


結局、勝手の違う身体に苦戦しましたが、何とか友人に勝利しました。


「お疲れ様!やっぱり小町は強いねぇ〜…ところで、この後の飲み会はどうする?」


「あっ、それなんだけど…ごめんね。親が早く帰ってこいってうるさくて…しばらく飲み会は無理そう」


「そっか…小町がいれば楽しいのに、残念。来たくなったらいつでも言ってね!」


「うん、ありがとう。それじゃあ、またね…」


────


「つ、疲れた……死ぬほど疲れた……」


心身ともに疲れ果てた金造はビールでも引っかけたい気分でした。


フラフラとした足取りで大学の正面玄関に向かいます。玄関前には送迎車のベントレーが止まっているのが見えます。


「ビールは無理だろうけど、とりあえずゆっくり休もう…って、なんだ?」


ブォン…!キキッ…


ベントレーの前にアストンマーティンが止まりました。車の中から、背の高いイケメンが颯爽と降りてきました。イケメンは真っ直ぐこちらに近付いてきます。


(だ、誰だ…?…あっ、また思い出してきた。この人は…)


「お帰り、小町。今日は僕が送るよ」


「あっ、ありがとうございます。真人さん…」


彼の名前は藍澤真人あいざわまひと


金城小町の幼なじみで…フィアンセ、許嫁にあたる青年です。一流外資系企業に勤めるエリートで、完璧超人という言葉が相応しいでしょう。


クォオオオーン…


「大学はどうだった?その…困ることはなかったかな?」


「大丈夫でしたけど…流石に少し疲れました…」


真人は事件のことを知らされていました。


保護された小町の様子がおかしかったことも、ある程度聞いています。


それ故、気を使って迎えに来てくれたようですが、今の金造にとっては逆効果でした。


(下手なことは言えないな…この人にまで疑われたら、余計に話がややこしくなっちまう…)


金造は適当な相槌を打ってこの場をやり過ごそうとします。しかし、彼は真人をつい意識してしまい、横目でハンサムな顔立ちを眺めました。


(かっこいい人だな…こんな人と結婚できるだなんて…じゃない!俺は何を考えてるんだ!)


金造は小さく頭を振りました。


もしかして、感情まで女性になってきているのでは…そう考えると、彼は言いようのない恐怖を覚えたのです。


結局、少しぎこちない空気のまま、車は家に着きました。


別れ際、真人はこんなことを言ってきました。


「来週の約束…覚えてくれてるかな?ホテルでデートしようって、前に言ったんだけど…」


「デッ、デート!?…あっ、あの覚えてます。最上階のスイートルームを予約してくれたって…」


「良かった、覚えててくれたんだね。辛いことがあったばかりだけど、だからこそ楽しんでもらえるように努力するよ」


(デートぉ…?デートなんてしたことないぞ…どうすればいいんだ!)


金造は笑って真人を見送りましたが、彼の精神は限界を迎えようとしていました。


────


「ごちそうさまでした。…」


「どこに行くんだ、小町?」


「中庭で夜風に当たってきます。…やっぱり心配ですか?」


「いや、それならいいんだ。落ち着いたら中に入るんだよ」


────


ザァアアアァァァ…


金城家の中庭には立派な噴水があります。


夕食後、金造は赤ワイン片手にぼんやりと噴水を眺めていました。金城家では、ビールなどといった庶民の飲み物は出てきません。


彼はワイングラスを揺らしながら、ひとり呟きます。


「もう無理だ……お嬢様のフリなんて耐えられない……」


金造はいつかどこかで正体がバレると思っていました。バレて周囲の人間に迷惑をかけるぐらいなら、いっそ身投げでもしようかと考えるほど、今の彼は追い詰められていました。


もっとも、この噴水も溺れるほどの深さはありません。


「はぁ…」


金造は大きなため息をつきました。その時です。


ゴボゴボゴボッ…


「えっ…?」


噴水の水面が不自然に泡立ちはじめました。照明のライトアップとは違う眩い光が上がってきます。


「ま…まさか…」


ザパァン…


あの時の女神様が現れました。


…右手にハイネケンを持ち、左の小脇にドリトスを挟んでいることを除けば、とても神々しい姿です。


「…もぐもぐ…ごくごく…どうやら、お困りのようですね」


女神様は金造の悩みを聞きに来てくれたようです…晩酌中に。


「女神様…」


金造は女神様の咀嚼音を無視して、金城小町として生きていくことがあまりにも辛い、という旨を必死に伝えました。


「…何不自由ない生活を送れるようになったのに、辛いんですか?」


「いままでの自分とは何もかも正反対で…すっかり疲れ果ててしまいました…」


「まぁ、何もかも正反対でしょうね。私がそう設定しましたから」


女神様は金造のつたない説明を整理すると、こう切り出してきました。


「結局、貴方はこれからどうしたいんですか?」


「……」


しばしの沈黙の後、金造が答えました。


「俺を元に戻してください…元に戻る方法を教えてください」


「…マジですか?」


「…大マジです」


金造は真剣な眼差しで女神様を見ています。女神様は呆れていました。


「貴方、相当変わった人ですね。…いいでしょう。そこまで言うのなら、元に戻る方法を教えます」


────


元に戻る方法、それは『一番大切に想っている人に対して秘密を打ち明ける』ことでした。


「でも、父と母には打ち明けましたよ…?」


「一番大切に想ってる人、ですよ。愛している人とも言います。そうですね、例えば…貴方、付き合っている人とか婚約者とかがいるんじゃないですか?」


「あっ…」


金造の脳裏に真人の姿が浮かびました。


「真人さん…」


「その人にカミングアウトすれば、私が貴方に掛けた"奇蹟"は効力を失います。二度と金城小町さんに戻ることはありません」


「そう…ですか。わかりました、ありがとうございます」


そもそも、ヤンキーたちの暴力がきっかけとはいえ、金造を勝手に作り替えたのは女神様です。それでも彼は女神様にお礼を言いました。


「最後にもうひとつだけお願いがあるんですが…」


「なんでしょう?」


「この赤ワインとビールを交換してもらえませんか…?」


「いいですよ…飲みかけで良ければどうぞ。それじゃ、私はツマミが切れたので帰ります」


ボコボコボコッ…


女神様は袋の底に残った破片を食べながら、水の中へと帰っていきました。


金造は噴水の縁に腰掛けると、ハイネケンを一気飲みしました。


ごくっ…ごくっ…ごくっ…


「ぷはぁ〜〜っ…!…う、うまいっ。ビールってこんなに美味かったっけ…?」


金造は背負っていた重荷が少しだけ軽くなった気がしました。綺麗な緑色の瓶を眺めながら、彼は静かに覚悟を決めました。


────


デート当日。


真人と展望レストランでディナーを楽しんだ後、金造は最上階のスイートルームでシャワーを浴びていました。


若い男女がホテルの一室ですることと言えば、ひとつしかありません。雲上の地位にある人間でもそれは変わらないのです。


シャアアアァァァ…


(真人さん、きっと悲しむだろうな…でも俺は決めたんだ。真人さんが素敵な人だからこそ、誠実にならなきゃ…)


金造の身体は光り輝くように濡れていました。すりガラスごしに妖艶な姿が映ります。


キィィ…ガチャ…


「お待たせしました…」


「小町…」


金造は生まれたままの姿で真人と対面しました。大きなベッドの上でふたりきりです。


よりによってこんなタイミングで秘密を打ち明ける必要はないんじゃないか?と考える方もいるでしょう。


しかし、後腐れなく別れるには、金造は真人に嫌われる必要があります。ここで打ち明けるのが一番嫌われるはず…金造なりに考えがあっての行動でした。


「小町、僕はずっとこの時を待ってたんだ…」


真人が甘い口調でそう言いました。


「わたしも、ずっとこの時を待ってました…聞いてください」


金造の言葉はまた違った意味を持っていました。彼は真人に秘密を打ち明けはじめました。


────


ちょっとやそっとのことでは顔色ひとつ変えない真人でしたが、目の前で起こる光景には流石に度肝を抜かれました。


最愛のフィアンセが、言葉を紡ぐごとに姿を変えていくのです。


艷やかな美しい髪は、ボサボサになった後に抜け落ちていきます。


二重が一重に、鼻筋が潰れて団子っ鼻に、唇がカサカサになります。


顔の輪郭はもちろんのこと、身体全体がブヨブヨの贅肉で膨れていきます。


絹のように白い肌は浅黒く、そして肌を覆うようにしてモジャモジャの体毛が生えてきました。


豊満な胸が潰れる代わりに、だるだるのお腹が前へと飛び出します。


そして…


見たこともないような惨めな粗チンが股間から生えてきました。


金造はついに、元の姿に戻ることができたのです。


 ────


「…ということなんです。信じてもらえますよね?これが、俺の本当の姿なんです」


「……ああ、信じるよ。流石にね…」


金造は清々しい気持ちでした。後悔はありません。


貴族のように華やかな生活よりも、雑草のように穏やかな生活のほうが彼の性には合っていました。ダンボールで家を作って、空き缶を集める生活に戻れると思いました。


あとは、真人の出方次第です。


パニックになった真人に暴力を振るわれても無理はありません。金造はその可能性も考えた上で、覚悟を決めたのです。


真人はしばらく固まっていましたが、険しい表情でおもむろに腕を振りかぶりました。


「…っ!」


金造は目を瞑り、歯を食いしばりました。


しかし…


ギュッ…!


「えっ…!?」


金造はとても驚きました。真人は金造を強く抱きしめたのです。


「正直に話してくれてありがとう。僕は君のそういうところが大好きなんだ」


「い、いや…ちょっと…!そ、そういうことじゃなくて…」


金造は侮っていました。真人が精神まで高潔な人間だとは思っていなかったのです。


「どんなことがあっても、僕は君のことを愛するよ。昔からそう決めていたんだ。姿や身分が変わったって関係ない」


「そ、そんな…!そんなの嘘でしょう…!?こんな…こんな俺を愛せるはずない!」


真人は答えの代わりに金造にキスをしました。イケメンが薄汚いおっさんの唇を奪うという、傍目にはシュールな光景が繰り広げられます。


「んっ…?!んんっ……♡」


スイートルームを静寂が支配しました。真人はゆっくりと唇を離します。


「大丈夫。諸々のことは僕が何とかする。だから…だから、僕と一緒になってほしい」


「ま、真人さん……♡」


きゅうううぅぅぅん…♡


真人は金造の薄い頭をポンポンと撫でます。金造は経験したことのない多幸感に包まれました。


金造の固く閉ざされた心が溶けていきます。その中からは無垢な少女のような心が現れました。


「本当に…本当に俺のことを愛してくれるんですか…?♡」


「本当だよ…一生ずっと君だけを愛する」


金造の目に涙が浮かびました。


彼は、自分が幸せになる権利はないと思いながら、ホームレスとして生きてきました。しかし、それは間違いだったということに気が付いたのです。


「ひぐっ…あっ…ありがとう……ぐすっ……おれのこと…どうか幸せにしてください…♡」


────


再び不思議なことが起こりました。


真人が金造を愛撫するたびに、金造の身体が変わっていきます。


接吻すると、金造の顔が美しい女性の顔立ちになります。それは先ほどまでの小町の顔でした。


頭を撫でると、髪の毛が勢いよく伸びはじめ、栗毛色の美しい髪がなびきます。


真人の指が真性包茎の男性器を弄ります。男性器は勃起することなく、逆に体内へと吸収されていきました。


くちゅ…♥


「挿れてもいいかな…?」


「はい…♥お願いします…♥」


滑舌の悪い低音の声が、鈴を鳴らしたように透き通った高音の声へと変わっています。


真人は立派なものを金造の割れ目あてがいました。


ずぷっ…♥ずぷずぷずぷっ…♥


「ああっ…!♥真人さん…♥真人さん…!♥」


「動くよ…君のペースに合わせるからね」


金造の膣内を真人のものが占領しました。


それと同時に、毛深かった体毛が抜け落ちました。肌にハリつやが戻り、健康的な白色に変色しました。


ぱちゅん…♥ぱちゅん…♥ぱちゅん…♥


「ああっ…!♥だめぇ…!♥おれが…わたしになっちゃうっ…!♥」


「いいんだよ…今の自分に素直になるんだ…」


動くたびに匂ってきていた加齢臭は、いつの間にか若い女性特有の甘い香りへと変わりました。


真人に突かれ、金造の贅肉が波打ちます。そして、波打つたびに脂肪が移動します。


腹の贅肉は上へ上へと移動し、グラビアアイドルのような大きな乳房へと姿を変えます。


下半身の贅肉は太ももとお尻へと集中し、余分な贅肉は汗とともに消え失せました。


金造…いえ、彼女のことはもう小町と呼んだほうがいいでしょう。絶頂を迎える頃には、以前よりも遥かに魅力的な肢体へと変身していました。


「出してっ…!♥出してくださいっ…!♥わたし、真人さんの赤ちゃんがほしいのぉっ…!!♥♥」


「出すよ…!小町…!受け止めてくれ…っ!」


ビクンッ…!!♥♥


ドクドクドクドクッ…!!♥♥


「んぁあああぁぁぁっっっ…!!!!♥♥♥♥イクぅうううぅぅぅっっっ…!!!!♥♥♥♥」


 ────


翌朝…


真人は抜け落ちた金造の体毛を、頑張って掃除していました。ホテルのスタッフに見られる訳にはいきません。一流外資系企業のエリートがコロコロを転がす姿はどこか滑稽でした。


小町は冷えた身体を温めるために、大理石のお風呂で湯船に浸かっていました。彼女は自分の身体を大事そうに撫で回しています。


(この大きなおっぱいも、柔らかいお尻も…全部真人さんのためのもの…♥わたし、もっともっと綺麗にならなきゃ…♥)


ゴボゴボゴボッ…


「あっ…あなたは…」


いつの間にか、小町の前に女神様が現れました。彼女は湯船に浮かべた熱燗を啜りながら、小町のことを見つめています。


「ズズッ…なんというか…運命のイタズラですね、これは。ズズッ…」


「あの…わたし、女神様に言われた通りにしました。なぜ、小野金造に戻り切らなかったでしょう?」


「ああ、それはですね…」


実は、あの時の女神様は少し言葉が足りていませんでした。


正確には『一番大切に想っている人に対して秘密を打ち明け、かつその人から拒絶される』ことで"奇蹟"の効力がなくなるのです。


「そうか…真人さんはおじさんになったわたしも受け入れてくれたから…」


「…元に戻れなくて残念ですか?」


「……いえ。本当のことを言うと、自分が変わっていくことが怖かったんです。だから、あの時は元に戻りたいと思っていたんですけど…」


小町が言葉を続けます。


「真人さんのおかげで、自分を変えたいと思うようになりました。わたし、真人さんと一緒に幸せになりたいんです…女神様、人って突然幸せになってもいいものなのでしょうか…?」


「え?いいんじゃないですか?悪いことをしてないのに不幸になる人もいれば、良いことをしてないのに幸運に恵まれる人もいます。まぁ、貴方の場合は良い行いをしましたけどね…」


「良い行い…ですか?」


「貴方、ヤンキーどもに襲われるホームレス仲間を助けたじゃないですか。神はちゃんとそういう所を見ているんですよ」


そう、金造がこうなったのは偶然ではなく、必然だったのです。


「ああ、そうそう。結婚式を挙げる時は、ちゃんと私も呼んでくださいね。ビールはハイネケンを用意しておいてください」


「あはは…わかりました。招待状をホームレス池に浮かべておきます」


女神様はその返答に満足したのか、そのまま湯船に沈んで帰っていきました。


────


その日以来、小町はどんどん綺麗になっていきました。


元々カンストしていた美人指数が、目を見張るような努力で天元突破したのです。


あまりにも美人かつ抜群のスタイルを誇るので、大学のミスコンからは出禁を喰らいました。大学の歴史で初めて殿堂入りを果たしたのです。


また、彼女はホームレスを支援するボランティア活動にも精を出しました。特にホームレス池と呼ばれる公園で、頻繁に炊き出しの手伝いをしていました。


彼女は時おり懐かしそうな目でホームレスたちを見ていたそうです。


公私ともに充実した生活を送った小町は、四年間の大学生活を終えました。


────


その後、小町は卒業してすぐに真人と結婚しました。大きな式場で盛大な結婚式が開かれました。


式は滞りなく進み、新郎新婦の退場の時間になりました。


一緒に歩くふたりはとても幸せそうです。


(あっ…あそこにいるのは…)


小町は式場の隅でビールを煽っている女性を見つけました。他の来賓は誰も彼女に気が付きません。伝わるか分かりませんが、小町は念を送ってみました。


(あなたのおかげです…ありがとうございました…女神様…)


女性は答える代わりに、左手を上げてサムズアップしてくれました。


────


「はぁ…疲れちゃいましたね…」


「ああ、でも上手くいって良かったよ。みんなも来てくれて嬉しかったなぁ」


ふたりは真人の住む高級マンションへと帰ってきました。


大量の荷物は一旦そのままにして、先に小町がお風呂に入ります。その後、真人がお風呂に入ったのですが、小町はその隙に何かを準備しています。


「ふぅ…サッパリした…あれ、小町?どこだい?」


「こっちですよ、真人さん」


寝室から小町の声が聞こえます。真人が寝室の扉を開けました。


「リビングで一緒に、君の好きなビールを…って」


「うふふっ…♥どうですか、真人さん…?♥」


小町は純白のウェディングドレスを身に纏っていました。しかし、それは昼間とはまったくの別物です。


ほとんど裸のような扇情的なランジェリーです。胸もお尻も柔肌がはみ出ています。


「はしたない女でごめんなさい…♥今日のためにこっそり用意したんです…♥」


「こ、小町…」


お風呂上がりの真人のものは一瞬でバキバキになってしまいました。どんなに聡明な人間でも、理性が吹っ飛べばただの動物と同じです。


ドサッ…!


真人は小町をベッドの上に押し倒しました。


「今日こそはしっかり命中させてくださいね♥わたしの子宮は準備万端です♥」


「わかったよ、小町。今日は徹夜だね…」


パン…♥パン…♥パン…♥


「あんっ…!♥いいっ…!♥もっと…!♥もっとぉ…!♥」


ただでさえ白かった花嫁は、花婿によって徹底的に真っ白に染め上げられました。


そしてその後、ふたりは子宝に恵まれ、末永く幸せに暮らましたとさ。


めでたしめでたし…

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