第9話 予期せぬ再会


 「えっ?」

 絨毯の男性ははたと立ち止まり、いぶかしげな顔でナツミを凝視した。


 「マー君よね?」


 「えー、と……」男性は戸惑っていた。「そうですけどそちらは――おいまじかよ!?」


 「マー君!」

 「おか――母さん、か……?」

 「そうよ、お母さんよ!」


 マサキはよろりと歩み寄って両腕を差し上げたが、どうすればいいのか分からないようにそのまま固まっていた。

 ナツミはその手を取った。

 「久しぶりだねえ、マー君」

 「えと、母さん?なんだか若くなってるように見えるんだけど、本当に母さんなのか?」

 「そうなのよねえ、よく分からないんだけどねえ」


 マサキはナツミと手をつないだままアナのほうに顔を向けた。

 「アナ・ロドリゲス?」

 「あたしにも気づいてくれてありがとう」

 「いやごめん、なにが何だか……とにかくはるばるようこそ」

 「いーんだって!」

 マサキの背をぴしゃりと叩いた。

 「ママと再会なんだから、なにより大事だよ」


 「ちょっとよく分からないんだが」町長が言った。「そのお若い娘さんがきみの母親だって?」

 マサキとナツミが同時にうなずいた。

 「なるほど……」

 町長は納得いかない顔で言った。「とにかく、この場を納めて町に戻らないと。マサキくん、弟さんは?」

 「ヨシキは森のほうです」交差路を指さした。

 「暴走グループが製材所の伐採地に集結しているのを見つけたんで、俺は夜間職員の避難を手伝いました。あいつは――」


森の奥のほうがぼんやり明るくなって、爆発音が響いた。


 「――派手にやってるようだな……」

 「製材所か、施設に被害がなければいいんだが……あの様子だと賊が大勢逃走してきそうじゃないか?」

 「奴らの大部分はバイクがなければただのチンピラですからね、何人かは町に紛れ込むかもしれないから、警戒態勢を敷きましょう」

 「よろしく頼むよ」


 

 アナが「邪魔になるから行こう」と言って、ナツミとチーム・レイブンクローはカワゴエタウンに足を向けた。マサキは「明日の朝、改めてゆっくりと」と言い残して現場の片付け作業に加わった。


  言葉少なに土手道を歩いていると、まもなくカワゴエニュータウンの灯火が見えた。


 「ナツミさん、せっかくマサキくんに会えたのに慌ただしくて残念でしたね」

 「ありがとうアナさん、でも早くミカエラさんとマキシー君休ませてあげなきゃ……小さい町だけどお医者さんはいるかしらね?」

 「みんな怪我した賊の奴らにかかりっきりじゃないかな……どこもそうだけどお医者さんは少ないんだよね」

 「やっぱりそうなの?」

 「うん、治癒魔法でなんでも直せるから……いまは外科医と産科医を残してほとんど廃業だよ。アメリカじゃあまり同情されないけどね」


 「そうだ、町長さんが言ってたけど、トーナメントに出るとかなんとか。あれはどういうことなの?」

 「ああ!」テッドが答えた。

 「トーナメント!あるんだよ「天下一武道会」が!アルトラガンで開催されるんだ!」

 「はあ?」

 アナが笑った。

 「あんた出る気満々だけどさ、オリンピックじゃないんだよ?どっちかっていうと代理戦争なんだからね、あたしのママレベルでも難しいんだよ?町長さんはああ言ってたけどマサキくんでもどうだか」


 「あら」ナツミは表情を曇らせた「イグドラシルに戦争なんかあるの?」

 アナがうなずいた。

 「とても様式化された競技大会なんですよ。ただし市国ポリスレベルの利害対立の解決手段でもあるので、けっこうガチバトルで……なんせその競技会のおかげでここでは5万年も戦争が起きなかったんですから……」


 「マー君たちもそんなのに出る気なのかしら」

 「ナツミさん心配?そうだよね、母親だもん」

 「心配することないよ……10年に一度だし、本当にすごい魔導律の持ち主じゃなきゃ出場資格は得られないから」

 「口から火を吐くくらい」


 マキシーのその言葉でチームの全員がナツミに注目した。

 「ちょっと!やめて!あのことはマー君に言わないでちょうだいよ?」

 「それは残念」アナが言った。

 「正直言って、あのレベルってどのくらいの魔導律なんだろう?」

 「アナがLv30だとしたら……Lv2500くらいじゃないの?あんなの記憶大聖堂の魔導律目録でも見たことない」

 「その数値の妥当性はアレだけど言いたいことはなんとなく分かるわよ」


 ナツミは嘆息した。

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