42.能力の違い
――バァンッ!
静かな林の中に、花火のような音が響き渡る。
莉奈の持つM24はA2と呼ばれる改良型でサプレッサーがついているのだが、それでもその銃撃音は周囲の動物達を警戒させて近付かせないほどのものだった。
「うーん、これは89式とはまた違ったものがあって、スナイパーになった感じがいいね」
勇馬はM24のグリップから手を離し、顔を上げた。
莉奈が射撃している光景を見て、堪らず試し撃ちさせてもらったのだ。
勇馬のもつ能力は、莉奈が持っていたM24にも適用され、寸分違わず狙い通りの場所に撃ち込むことができた。
「ですよね! 当たり前なんですけど、私、今まで10禁銃のM24しか扱ってこなかったので、本物ってこんなにすごいんだって感動しちゃいました」
「あー、よくわかるよ。俺も初めこそ驚きがあってそんなこと考える余裕もなかったけど、よく考えればこんな経験普通はできないしね。……ま、だからこそコレの扱いには気をつけなくちゃいけないかな。こんなのを食らったら人は簡単に死んじゃうからね」
「勇馬さん……わかりました、絶対に独りよがりで使わないと約束します」
「うん、俺もそうするよ」
圧倒的な力は敵を簡単に倒すことができるが、それを身勝手に利用すれば、自分の身を滅ぼすことになると、2人は己を戒めたのだった。
「そういえば、勇馬さんの『ミリマート』って、こういうものを買えちゃうんですよね?」
莉奈はそう言って、手に持った弾薬の詰まった箱を持ち上げた。
これは、M24の試射をするために勇馬が『ミリマート』で購入したもので、7.62×51mm NATO弾の500発入りのボックスだ。1発あたり40リアと実際に比べれば安いのかもしれないが、5.56×45mm NATO弾や9×19mm パラベラム弾のセール時の価格には遠く及ばなかった。
「ああ、そうだよ。ミリタリー系のものならほとんどなんであるし、というかその枠を超えてなんでもあるんだよねぇ。この『ミリマート』ってネット通販はあっちにもあったけど莉奈は使ったことない?」
「私はないですね……よくユミと一緒にガンショップに行って必要なものは買ってたりしたんですけど」
「そうなんだ。俺はもっぱらネットで買うことが多いから重宝してたんだよ。そのせいかわからんけども、こっちの世界でも使えるようになったんだよなぁ」
「そうすると、私にはそういう能力はないのかなぁ」
勇馬の話を聞いた莉奈は、少し残念そうに顔をしていた。
「うーん……あ、でも、そういえば俺がこの『ミリマート』を使えるようになったキッカケって、魔物のウルフを倒してからなんだよね」
「え、そうなんですか?」
「うん、そうそう。ティステさんやリズベットさん達がウルフと戦ってたところを俺が助けたって話があっただろ? その時、ウルフを倒したら目の前に『ショップが開放されました!』っていうシステムメッセージのウィンドウが現れてさ、ついでに『ミリマート』も出てきたんだ」
「それじゃあ、もしかしたら私も何か魔物を倒したらそういうのが出てくるかもしれないってことですか?」
「可能性はありそうだね。絶対ではないけど、こういう武器の扱う能力とかは俺と一緒みたいだし……」
「そうだったらちょっと嬉しいです!」
今度は嬉しそうにする莉奈を見て、勇馬は「ははっ」と笑う。
「まぁ、何を買うにしてもお金はかかるんだけどな。だからこそ、冒険者としてちょっとは稼がないとな」
チョコバーやジュース程度なら大した金額ではないが、銃関連のものとなると、途端に金額が跳ね上がる。安くていいものももちろんあるが、それにしたって数万リアとかかることはざらで、それ以上を見たらキリがない。決して余裕があるとはいえないのだ。
「そうですね、ちょっと怖いですけど頑張ります!」
それから勇馬は、自分の89式小銃や9mm拳銃を莉奈に貸し、それらも試し撃ちをさせてあげた。
だが、ここで予想外のことが起きた。
「――あれ? 全然上手く狙ったところにいかないです……」
てっきり自分と同じように、莉奈も武器であればなんでも扱えると思っていた勇馬だったが、M24で狙った時のような精度の高い射撃はどうやらできないようだった。
「それに、なんだかM24で撃ってた時と違って、なんだかすごい胸がどきどきしちゃって……」
「大丈夫か?」
勇馬は、莉奈から9mm拳銃を受け取る。
「ふぅ……なんか、勇馬さんが言っていた銃を持った時の『精神補正』みたいな能力、あれは私の持つM24じゃなきゃダメかもしれないです……」
胸に手を当てて息を吐く彼女は、勇馬の目にも確かに辛そうに見えた。
どういう理屈かはわからないが、勇馬と莉奈では能力に違いがあるようだった。
「なんでかはわからないけど、とりあえず莉奈はM24だけ扱うようにしとこうか」
「はい、そうします……」
「ま、慣れてきたらまた試し撃ちしてみればいいさ。いつでも貸してあげるから」
「ありがとうございます!」
「それじゃあ、そろそろ戻ろっか」
『ミリマート』のことや、いろいろと勇馬は莉奈に話しておきたいこともあり、試し撃ちにも時間が掛かってしまった。
今頃はもうティステ達も作業が終わってるかもしれないと、勇馬達は銃を片付け、村へと戻るのだった。
◆◇◆
「あっ、おかえりなさい! 隊長、ユウマさんとリナちゃんが帰ってきましたよ!」
村長の家に着くと、リズベットが出迎えてくれた。
「おお、2人ともようやく帰ってきたか。なんかすごい音が鳴り響いていて、村人達が怯えていたんだが……何かあったのか?」
「あー……」
勇馬達が撃ちまくっていたせいで、村の中では何かとんでもないことが起きる前触れではないかと、ちょっとした騒ぎになったらしい。
ティステ達が説明してくれたおかげで、なんとか収まってくれたようだが。
「ごめんごめん、ちょっと莉奈の武器性能の調べたり、いろいろ話してたりしてたんだ。あの音はヘビーボアが来た時も倒すために鳴るから、先に村の人達には伝えといたほうがいいかも」
「ほう、そうなのか。ユウマ殿だけでなく、リナも強力な力を手に入れたということか?」
「はい、多分あの攻撃なら倒せると思います」
「うむ、それは楽しみだ。準備は整えたし、あとはヘビーボアが来るのを待つだけだな」
「夜まではまだあるし、お昼過ぎちゃったけど食事にしようか。俺が用意するよ」
するとティステは目を輝かせ、
「ユウマ殿の食事……! リズ、ツいてるぞ! こんな経験なかなか……というかユウマ殿にしかできないからな!」
リズベットに熱弁するも、まったく事情を知らない彼女はティステがなぜそんなに興奮しているのか理解ができなかった。
勇馬はいつものように『ミリマート』を操作し、
(んー、やっぱミリ飯かな? あとはデザートでチョコバーでもつけとこう)
リズベットにはバレないように人数分のミリ飯と飲み物、チョコバーをバックパックの中へ『召喚』した。バックパックは荷物を運ぶのにも役立つし、こういう時にも使えるため、事前に『ミリマート』で買っておいたのだった。
ミリ飯が温まるまでは雑談し、
「――さ、できたぞー」
「おぉ、これは以前食べたものと同じだな!」
「そうそう、デザートもあるからなー」
「さすがユウマ殿だぁ……」
完全にチョコバーの虜になっているティステは、瞳をうるうるとさせて恍惚とした表情をしていた。
「隊長がこんな顔をするなんて……」
「すごい、勇馬さん、こんなのまで用意できちゃうんですね!」
「ああ、きっとこういうのが恋しくなるだろうし、ちょくちょくあげるよ」
「ありがとうございます!」
「さ、食べよう食べよう」
勇馬の言葉で全員スプーンでよそって口に運ぶ。
「うっわ! なにこれ!? おいしいですっ!! こんなの食べたことないです!」
リズベットが目を真ん丸にして驚き、すぐに次から次に口へと運んだ。どうやら、気に入ったようだ。
その後はデザートにチョコバーを出し、「なんですかこれぇ……幸せを感じますぅ……」とリズベットはティステと同じような顔で悶えていた。
莉奈もおいしかったようで、「また食べたいです……」と控えめに勇馬へおねだりしていたのだった。
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