30.戦闘開始!

「っだ、誰か! ここにエリアス王国のやつらがいるぞ――!!」


 勇馬達と鉢合わせしたグラバル兵は、仲間を呼ぼうと大きな声で叫んだ。

 このままではマズいと、勇馬は89式小銃を『召喚』するも、


「――はぁっ!!」


「ぐぁ!?」


 勇馬の横を走り抜けたティステが、勢いそのままにグラバル兵を斬りつけた。それが致命傷となったグラバル兵は、血を口から吐いてそのまま絶命した。


『――なんだなんだ? なんの騒ぎだ?』


『なんかエリアス王国がどうちゃらって聞こえたぞ?』


『はぁ? あいつ寝惚けてんのかぁ?』


 奥の部屋から、勇馬達の元にそんな会話が届く。


「このままでは戦闘になります。急いで元の道を戻りましょう!」


「わ、わかりました。シモンさん、先に降りてフィーレさん達をお願いします!」


「はっ!」


 シモンは急いで地下の空間に戻ろうとするも、


「た、大変です! 松明の灯りが……」


「そんな……ここまで追っかけてきたんですか!?」


 グラバル兵達がしつこいという話は聞いていたが、まさかここまで追いかけてくるとは勇馬も思っていなかった。精々どこかで引き返しただろうと……。


「――は? なんだお前ら?」


「お、おい! あれ!」


「あっ!」


 先ほど会話をしていた男たちが現れ、ティステが倒した男に視線が釘付けになる。

 地下の洞窟からは敵兵が迫っており、目の前にも3人の敵がいる。勇馬は89式小銃を構え、そこでふと思う。


(ここで撃ったら、銃声でもっと集まってくるんじゃないか!?)


 その思考が、勇馬の引き金にかける指の動きを鈍らせた。


「テメェ等、ふざけやがって!!」


 男は剣も持たずに素手で殴りかかってくるが、


「ハッ!」


「ギャッ!」


 ティステにあっさりと斬り倒された。

 寝起きのせいか丸腰だったが、あまりにも無謀な兵士だ。


「クソッ!! おい! 他の奴らを呼びに行くぞ!」


「あ、ああ!」


(マズい!)


 このまま逃がして仲間を呼ばれたら、砦内という孤立無援の状態で戦闘が始まってしまう。

 勇馬はそれだけは避けなければと、89式小銃にサプレッサーを取り付けようとすると、


「逃がさんッ!!」


「ハァッ!」


「ぐあっ!?」


「ぎえッ!」


 シモンとティステが男たちの逃げる背中を斬りつけたのだった。

 だが、1人は1撃で仕留めることができず、


「だ、誰かああ――っ!! て、敵だあぁ――ぐふっ……」


 倒れながらも仲間を呼ぼうとする男の首に、シモンは容赦なく剣を突き立てて黙らせた。


『――何だ!? 何事だ!?』


 男の最期の叫びによって、外も俄かに騒がしくなってきてしまった。

 そして――、


「ユウマさん! 後ろから敵が――!」


 勇馬が後ろを振り返ると、追いついた敵兵が地上に上がってくるのが見えた。


 ――バスンッ!


 咄嗟に這い上がろうとする敵兵の頭に狙いをつけ、勇馬は引き金を引いた。撃たれた兵士はひっくり返って穴に落ち、その下からは「な、なんだ!?」と、混乱する声が聞こえてくる。

 完全に逃げ場を失った勇馬達は、


「くっ……ここにいてももうダメです! ここを出て、とにかく逃げないと! 俺が敵を撃ち倒すので、外を目指しましょう!」


「それしかありませんね……ティステ、君と私で先導して逃げ道を探すぞ!」


「わかりました!」


「俺が前の2人を援護するから、フィーレさんとルティは俺の後ろで後方を警戒しててくれ!」


「は、はい! わかりました!」


「わかったよ、ユウマ!」


 俺はホルスターから9mm拳銃を引き抜き、スライドを引いて弾倉マガジン内の弾薬を薬室チャンバーに装填しておく。いざという時のために、こちらもすぐ撃てるようにした。

 そして勇馬は『ミリマート』を開き、


「――だと思ったよ!」


 予想通りそこには『撃って、撃って、撃ちまくれ! 弾薬セール実施中!!』というバナーが掲げられていた。

 それをタップして、89式小銃用に5.56×45mm NATO弾の500発入りを10セット購入する。1セット5000リアで1発当たり10リアと以前購入した時よりも安くなっていた。

 フィーレから軍資金を貰ったおかげで、まだ38万リアほどあったため、勇馬はついでに9mm拳銃用に9×19mm パラベラム弾も購入した。こちらも1発10リアの1000発入りで合計1万リアだったので、1セット分の購入だ。


「よし、行こう!」


 全員が頷くのを確認し、勇馬はいつでも撃てるように89式小銃を構え、家から外に出るのだった。



 ◆◇◆



「おはようございます、ボルゴ様!」


「ああ」


 ボルゴは起きて早々に、仕事に取り掛かった。

 彼はその強さのみならず、こうした執務業務にも丁寧に行うため、からの受けもよかった。


「チッ……ちょっと椅子が小せぇな」


 ボルゴは、いつも自分とサイズが合わないなと愚痴を漏らす。

 元々はこのクレデール砦を管理していたエリアス軍の指揮官の部屋だったが、今ではすっかり彼の執務室と化していた。


「残念ながらこの砦には、ボルゴ様の身体に合う大きさのものはないようです。どうかそれで我慢を」


「ったく、俺様に合う椅子1つすらないとかシケた砦だな」


「まったくです。しかし、こんな砦でも、ボルゴ様の評価には間違いなく役立ってくれることでしょう」


「そんでもって、副軍団長のお前も評価が上がるってか? まったく、俺様に感謝しろよ?」


「ええ、それはもう。一生ついていきますとも!」


 副軍団長の彼にとって、ボルゴは自分を高みに連れて行ってくれる鳥のような存在だった。

 たった1軍で敵国の重要拠点となる砦を落とし、完全に支配下に置いてしまったのだ。先の一騎討ちでも自国の兵に強さを見せつけ、今やグラバル王国軍の中でも突出した人物となっていた。


「調子のいいやつだ。あのレオンとかいうやつはあれからどうだ? 俺様の下につくようにしたか?」


「いえ、依然は続いています。中々折れませんね」


「まぁ、そうでなきゃうちに勧誘なんてしないからな。これからあいつには地獄を見せてやるから、そのうちどうせ潰れちまうだろ。そうすりゃ俺様には有能で従順な部下ができ、この国を飲み込んだ暁には俺の地位ももっと上へ行けるはずだからな。くっくっ」


 笑みを浮かべるボルゴを眺めながら、副団長は彼が敵対する相手ではなかったことに心底感謝した。味方であればこれほど頼もしい人間はいないのだから。


(俺はこんなところじゃまだまだ満足しねぇ。もっと多くのやつらをぶっ殺して戦果を稼いで、上で胡坐をかいてる連中を叩き落して上に行ってやるぜ!)


 ボルゴの野望はまだまだ尽きることはなかった。


「そういや、馬車にいた女は誰だったんだ?」


「はっ、クレイオール領主の娘である言っておりましたが、捕らえた兵士を拷問したところ、ただの侍女と執事と言っておりました。ですが、領主の娘は我々と相対する直前に逃がしたそうですので行方を追っています。念のため2人とも生かしておりますが……」


「いらん。殺せ」


「はっ、ではそのように――」


 ボルゴ達がスミス達の処遇を決めていると、


 ――タンッ! タンッ!


 外から聞きなれない大きく響く音が聞こえてきた。 


「あぁん? 何だこの音は?」


「いえ、私には……ですが、昨日報告にありました『森に響き渡る音』に似てますね」


「あぁ、なんだかよくわからん話だったが、敵に魔法使いでもいたとかいう――」


「――失礼しますッ!!」


 突然、ノックもせずに1人の兵士が息を切らして執務室に飛び込んできた。


「なんだ騒々しい! ノックぐらいしないか!」


「ほ、報告します! 敵が……敵が乗り込んできましたっ!!」


「なに!?」


 兵士の報告に副軍団長は目を向いて驚き、ボルゴは冷静に先ほど聞こえた音を頭の中で結び付けるのだった。



 ◆◇◆



 タンッ! タンッ! タンッ!


「ぐぇっ!」


 勇馬は向かってくるグラバル兵に目掛け、冷静に弾丸を撃ち込んでいく。時折、即死ではなくなってしまうも、1発で確実に沈めていった。


「ユウマさんがいなければ、私たちはとっくに殺されてましたね……」


「フィーちゃんの言う通りだよ。こんなの普通は秒で捕まっちゃうよ、秒で」


 遠距離から敵を仕留めることのできる勇馬のお陰で、ほとんど生きながらえてるといってもいい状況だった。

 そして――、


「ティステさん、弓矢です!」


「《我、欲すは女神の庇護、願うは盾、我が根源を代償とす》――【護れプロテジ】!」


 敵が放った矢は、ティステによって展開された防御魔法によって、キンッと音を立てて防がれた。

 詠唱に時間がかかるため、弓矢を見つけ次第できるかぎり勇馬が処理していたが、それでも対処できない場合はこうしてティステが守りに徹していた。


「敵が支配してるだけあって、数が多すぎますね……全員で来られたらどうしようもありません。せめて後ろを気にしなくていいように、いっそ壁沿いにでも行ったほうが戦いやすいかもしれません」


「ユウマ様がそう仰るならそういたしましょう。現状、ユウマ様の力に縋るしか方法はありません」


「わかりました。あそこから壁沿いに門を目指しましょう!」


 勇馬達は次から次へと現れる敵兵を排除しつつ、壁際に移動する。

 一見すると、一斉に襲い掛かられたかなり危険な位置だが、


「な、なんなのだあれは……!?」


「盾を貫きやがった!! こんなのどうしろって言うんだ!!」


「あれは魔法か!? あんな速度で放たれたら近づきようがないぞ!」


「だ、だが、このままではみすみす逃がしてしまうことに……」


 これまでの勇馬の銃撃によって、怯んだ相手は迂闊に近寄ることができない。時折、意を決して突っ込んでくる者は、弾丸をその身に浴びることとなった。


 だが――、


「――貴様らが大馬鹿者の侵入者か……!」


 兵士をかき分けて1人の巨体の男――ボルゴが、勇馬達の前に姿を現したのだった。

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