14.双子のメイド
ルティーナが頷くのを見てキールも頷き返し、「頼んだぞ」と言い、ヴァトラに目を向けた。
「ヴァトラ」
「はい」
それまでキール達のやり取りを微笑ましく見ていたヴァトラは、真剣な表情でキールを見る。
「昔よりリヴァルモア家は代々クレイオール家を支えてくれた。その功績は大きいものがあり、我らは切っても切れない信頼関係があると思っている。お前にこの事を話したのは、今後使徒様に関する事で動いてもらうこともあるだろう。頼んだぞ、ヴァトラ」
「もったいないお言葉……使徒様のために全身全霊を注いでいくことを誓います」
感動したように言うヴァトラに、キールは少し頬を緩めて満足そうに頷いた。
「では早速だが、使徒様の部屋の警備、侍女、専属の護衛兵を用意してくれ」
「あ、お父様」
フィーレがキールの言葉に反応する。
「侍女であれば、本日保護し、クレイオール家の使用人となった双子の姉妹ではいかがでしょうか?」
キールは「ふむ」と顎に手を当てる。
「いや、それはさすがに能力が足りておらんだろう」
「では、ソフィを指導員として3人ならいかがでしょう。ララとルルなら、ユウマ様も慣れておりますので気が楽かと」
「ああ、それは確かにそうだな。ではそうしよう」
メイド長であるソフィなら大丈夫だろうと、キールは了承した。
それに、見知った人物がいるなら勇馬も寛げるだろうと配慮した形だ。
「それと護衛兵ですが、今回私を護衛する任務に就いていた親衛隊員ではいかがですか? ユウマ様のお力を近くで見ておりますし、最適かと思います」
ティステ達親衛隊は、勇馬と一緒に盗賊を倒している。
その力を目の当たりにしているので、説明も容易い。
「うむ、いいだろう。ヴァトラ、今言った者達に明日から就くように伝えてくれ。ユウマ様が使徒様ということは、護衛の者だけに伝えてくれ」
「かしこまりました。部屋の警備兵についてはどうなされますか?」
「人選は任せる。くれぐれも関係のない者には内密にな」
「かしこまりました、早急に手配いたします」
恭しく頭を下げるヴァトラ。
キールが全員の顔を見渡す。
「よいか、使徒様のことを公にする事はならん。少なくとも今はな。誰かに聞かれた際は、中央諸国のさる有力な大貴族の方とでもしておいてくれ」
キールの言葉に全員が返事をする。
「今夜はここまでにしよう」とキールが言って、その場はお開きとなった。
執務室の中の蝋燭は消され、窓から入る月明かりだけが照らす中、キールは椅子に深く腰掛けていた。
フィーレ、ルティーナ、ヴァトラの3人は出ていき、部屋にはキールだけが残った。
「これも巡り合わせか……」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。
キールは喜びに震える。
「取り戻さなければ――」
その目に迷いはなく、強い意志だけがあった。
「名誉を――」
◆◇◆
翌日の朝、勇馬は扉を叩かれる音で目を覚ました。
ガラスもなく板戸が付いているだけの窓から、朝の光が射し込んでいる。
昨夜はベッドに飛び込んですぐに寝てしまった。ぐっすりと寝れたおかげか、疲れも取れていた。
勇馬は、コンコンと音がする扉に向かい返事をする。
「どうぞー」
「失礼いたします。おはようございます、ユウマ様」
扉を開けて入ってきたのは、昨日見たソフィと呼ばれていたメイドだった。
挨拶を返すと、後ろにいたララとルルの双子姉妹が顔を出した。
2人とも昨日は『ぼろぼろになった布』といった服装だったが、今日はソフィと同じ綺麗なメイド服に包まれていた。
「「おはようございます、ユウマ様」」
「おはよう」
深々と頭を下げて挨拶する2人に、勇馬は初々しさを感じた。
「ユウマ様。私、メイド長をしておりますソフィと申します。キール様より今後は侍女として、ユウマ様の身の回りのお世話を仰せつかっております。また、ララとルルの2人も、今後はユウマ様の侍女として教育してまいります。至らないところもあるとは思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「「よ、よろしくお願いします」」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ソフィが頭を下げたのを見て、2人も慌てて頭を下げた。
3人も専属で付くというのは多すぎる気もするが、ララとルルは実質2人で1人前にも満たないので、ソフィがほとんどこなすことになるだろう。
「それでは、お着替えのお手伝いをさせていただきます。ララ、ルル、ユウマ様のお召し物をこちらに」
2人にそう指示をすると、ソフィは勇馬に近付く。
ララとルルは、替えの服装を持って傍に寄った。
「では脱がさせていただきます」
ソフィがそう言って、勇馬の上着に手を掛けた。
「あ、ちょっ、大丈夫ですっ、1人で着替えられますからっ!」
勇馬は脱がしかけられた上着を慌てて押さえて抵抗する。
風呂といい貴族というものは、なんでもかんでも人任せのようだった。
「そうですか」
ソフィがパッと上着から手を離す。
挨拶していた時もそうだったが、彼女は愛想笑いもなく笑顔を全く見せない。まるで機械のようだ、と勇馬は思った。
「替えのお洋服です」
「ありがとう」
「ユウマ様」
「ん?」
勇馬がララから替えの服を受け取ると、ルルに声を掛けられ目を向ける。
「昨日は本当にありがとうございました。これからは、ユウマ様の侍女として精一杯務めさせていただきます!」
ルルは並々ならぬ決意といった目をして、勇馬に強く宣言した。
勇馬は若干気圧されながらも、その思いに応える。
「あ、ありがとう。でも、無理はしないようにね」
「はい、わかりました。救っていただいたご恩を必ずお返しできるよう、全てを捧げていきたいと思います!」
「うん、それは無理というか無茶してるからね?」
ルルは、鼻息を荒くして両手で握り拳を作りながら、勇馬を見上げた。
彼女の中では、勇馬は命の恩人という英雄のようになっており、その目は憧れの人物を見るようにキラキラと輝いているのだった。
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