8.盗賊殲滅戦2

「おい、追い掛けてった野郎共はまだ戻らねえのか?」


 盗賊団の頭――ウォロフは、昼間から酒盛りをしている子分に声を掛けた。

 彼らは近場の村や旅人、商人といった者を計画的に襲い生計を成り立たせている。ある程度こなしたら住居を移し、見つかるリスクを回避していた。


 数日前に襲った村から攫った子供の1人を逃してしまい、彼らの仲間2人は数時間前に追い掛けていったのだ。

 だが、もう何時間も経つというのに未だに戻ってこない。

 ウォロフは危険だと思えば、どんなに金になる仕事と思ってもすぐに中止し、その慎重さ故にここまで捕まらずにきた。

 そんな勘の良い彼だがなぜか嫌な予感がしていた。

 たった1人の子供が捕まらないことに焦燥感を募らせていた。


「いやー戻ってきてないっすねぇ。お楽しみの最中じゃないっすかぁ?」


「お前ぇじゃねえんだからよ、ギャハハハッ」


「それもそうだな。お頭、俺ももう1人のガキで遊んでいいっすかぁ?」


 子分達から下卑た笑いと共に、酷い内容の返答が戻ってくる。ウォロフは部下の1人に「駄目だ」と短く返した。

 子分達は、普段から人の道を外れたようなことを生業としていた者達を集めていた。

 ウォロフ自身は金以外に興味がなかったので、殺しも最低限に留めていたため、子分達の吐き気がするような会話内容にうんざりしていた。

 とはいっても、普通の人間から見たらどっちも変わることはないのだが。


「ん?」


 微かに外から音が聞こえた気がした。

 子分達が騒いでいるためにはっきりと聞こえなかったが、聴力に自信があるウォロフは窓へ近付き外を見た。


「――あ?」


 それは木の上から力なく落下し、ドサッと音を立てて地面に落ちた。


「――は?」


 今度は確かに聞こえた。

 小さい音だが、遠くからバスンッと聞き慣れない音がしたと思ったら、また木からなにか落ちたのだ。


「あれ? どうしたんすか、親分。ずっと窓の外なんて見ちゃって。ガラにもなく黄昏れてるんすかぁ?」


 外を見つめて立ち竦んでいるウォロフを見て、子分の1人がからかう様な口振りで話し掛けた。


「…………だ」


「はい? よく聞こえねっす」


 ウォロフの声は喧騒に隠れてしまい、子分には聞き取れなかった。


「――敵襲だ、バカ野郎ォーーッッ!!」


 その怒声に室内は一瞬静まり返ったが、子分達はすぐに手に武器を持ち、蜂の巣をつついた様に外へ飛び出していった。

 ウォロフは、やっぱり自分の勘が当たったのだと舌打ちをした。きっと、逃げた子供が助けを呼んだのだと。

 見張りがあっさりと倒されたことからも、相手の戦力はこちらより高い可能性もある。

 自分1人だけでも逃げる算段をしとかねばと、子分達が全員出払ったのを見届けてから、自らも武器を手に外へ出た。


「はあ!? どうなってんだ!?」


 驚くべき光景が目に飛び込び、ウォロフは叫ぶように声を上げた。

 子分達はウォロフよりも先に外へ出ていた。といっても、すぐ後に彼が出たのだから、時間はそんな経っているわけではない。


「――がはッ」


「お、おいっ!? いきなり倒れたぞ!?」


「しっかりしろ!! ……だめだ、息してねえ……」


「一体何なんだよ!? 弓矢でもね――ぎゃっ!」


 だというのに、どういうわけか目の前に広がる光景はまさに地獄絵図だ。子分達が次々と倒されていくのだ。

 敵の姿は見えないが、先ほど聞こえた音が遠くから聞こえてくる。いや、正確には連続に重なった音だ。

 弓矢かと思えば、矢が当たったわけでもないのに子分達は倒れていく。


(悪夢だ……)


 即死する者もいれば、血反吐を吐いて苦しがって死ぬ者もいた。どちらにせよ、死は免れなかった。

 訳がわからないが、攻撃を受けているのは確かだ。


「くそっ……くそっ! ふざけやがって……あん?」


 ウォロフが見えない恐怖に震えていると、林の奥から走ってくる人影が見えた。

 それは明らかに自分達の敵――兵士の姿であった。



 ◆◇◆



「――む、あれが盗賊の頭か?」


 勇馬の目に映った厳つい男は、突然の出来事に戸惑いながらも、慌てふためく子分達に指示を送っているように見えた。

 彼らは、見張りの2人を正確に倒すと、少しの間を置いて一斉に飛び出してきた。

 しかし勇馬達は離れた位置にいたため、彼らは誰もいないと不思議に思い首を傾げるばかりだった。

 実際には、そのタイミングでティステ達は突撃を開始したのだ。

 勇馬は二脚を折りたたんで立ち上がり、狙撃を再開した。


「おっと、この位置だと被っちゃうな。俺も移動しよう。実弾での味方撃ちフレンドリーファイアとかシャレにならないからな」


 ほとんどの盗賊は倒したが、まだ数人残っている。これくらいならティステ達だけでも大丈夫かもしれないと思いつつ、勇馬は駆け出した。


「なんだテメェら!?」


「――貴様ら外道に名乗る名などない」


 ティステが突き出した剣は盗賊の喉を貫き、短い悲鳴と共に血を吹き出して崩れ落ちる。

 勇馬が人数を減らした甲斐もあり、残った盗賊達はティステ達に拍子抜けするほどあっさりと倒された。

 ティステ達に合流した勇馬は、厳つい男の姿が見当たらないことに気付いた。


「あれ? さっき盗賊の頭領っぽいのがいたんですけど……」


「残っていた賊はすべて斬ったと思いますが……この中にはいませんか?」


「うーん、倒れてる中にはいないかと。かなり大柄で厳つい顔してたので、間違えることもなさそうですし」


「ふむ……」


 数人しか残っていなかったので逃したとは考えにくかったが、勇馬は特殊な装置で敵を把握していたので、見間違えているともティステには思えなかった。


「あっ! そういえば私達の姿を見て、あそこの小屋へ逃げ込む賊が1人いました」


「なに?」


 リズベットが思い出したように指を指しながら報告する。

 彼女は人一倍目がいいので、逃げ出すのが見えたのだろう。


「「あ」」


 ロインとカインが同時に反応した。

 ウォロフが小屋の裏手からコソコソと逃げ出そうとしている姿を見つけたのだった。


「止まれ!!」


 ティステが怒鳴ると、ウォロフはその場でビクンと跳ねた。

 その脇に抱えるようにして連れていたのは、


「ぐっ……うるせぇ! このガキがどうなってもいいのか!?」


 猿ぐつわをされた涙目の少女――ルルの姿だった。

 ウォロフは短剣の切っ先をルルに突き付け、怒鳴り返した。


「くっ、卑怯な奴め!」


「副隊長、どうしますか……」


 親衛隊員が苦しげに顔を歪ませるのを見て、ウォロフは口角を上げた。


「へっ、テメェらはそこから動くなよ。俺様が逃げるのを黙って見とけや」


 ウォロフはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべ挑発をする。


「ふざけたことを……!」


「あの――撃ってもいいですか?」


「へ?」


 ギリギリと歯を噛むティステへ、勇馬は問い掛けた。

 彼女は一瞬勇馬が何を言っているかわからなくて、気の抜けた返事をしてしまった。だがすぐに、そういえばそうだったと思い直す。

 今よりも離れた距離の見張りをあっさりと倒したのだ――。


「……お願いします、ユウマ様」


「わかりました。……殺してしまっても、問題ありませんか?」


「ええ、問題ありません」


 ここは勇馬に任せるのが最善だろうとティステは頼んだ。

 勇馬もティステに許可をもらって内心ほっとした。

 生かすために短剣を持つ手だけを狙うのはリスクも大きいため、首より上を狙いたかったのだ。

 勇馬はセレクターをフルオートからセミオートにし、照準を合わせた。

 レティクルを合わせ、ゆっくりと息を吐く。


 ――やっぱり外す気がしない。なんだろう、この感じ……手を狙ってもいけたかもな。


 右手の人差し指をトリガーに軽く引っ掛け、息を止めるタイミングで、引いた。


「あ? おい、そこの変な格好のお前! なん――」


 ――バスンッ!


 ウォロフの言葉を最後まで聞くことは出来なかった。

 何度も聞いた音の正体を知ることもなく、顔の中心に小さな穴を開け、ウォロフは絶命した。


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