『白い牢獄』24時間×60日 ~悪いオトナに嵌められブチ込まれた/そこで見たウソみたいな現実と戦慄の恐怖(仮/※下書き連載
『言の花の侍』ハナフサ ~刺すか咲くか
■22日目 、23日目■~弱い犬程よく吠える/老害の狂犬にはご注意を!~
■22日目■
翌日、そのモンスターの年寄りが、男性看護師に当たり散らかしている。
瞬間湯沸かし器何てモノでは無い。
当たり散らかしているのだが、よく分からない。彼らがミスをしたのなら彼らに責任があるのだが、何か自分が気に入らない事を彼らに当たり、擦り付け怒鳴り散らかし、意に沿わない事に事細かにイチイチ目ぐじらと腹を立てているのだ。
朝から、昼前も昼時も午後も、夕方も。消灯前も消灯後も。
それから暫く何日も何日も彼のよく分からない彼逆鱗の避雷針に触れたものに対する些細怒りが、2階のフロア中に雷と化しこだまする。
「何やってんだ!!この馬鹿野郎!!」と、その一瞬で終わる事がなく、着火したその一瞬の怒りの炎は長く続き、終わりが見えない。
看護師だろうが入院患者だろうが女性だろうが、まだ10代の高校出たてのだぁ君であろうが、全くお構いなし。
それを彼の旧態依然の今後もアップデートされる事が無い古い杓子定規と照らし合わせて、彼の孫くらいの歳の看護師たちや曾孫の患者たちに怒りをぶち負けても誰も理解が出来ない。
女性にも容赦しない。お構いなし。
この老害の狂犬に2階フロア全体が怯えるようになっていた。
彼の担当看護師でさえも。
何か腫れ物に触る様に、お伺いを立てるよう恐る恐る近付く。
手こそ出されなくても、どこの家の前にいる犬でも鎖に繋がれ、噛まれることは絶対に無いと分かっていても、その迫力からやはり怖いモノは怖いのだ。
しかも、こっちの老害の狂犬は絶対に手を出されないという保証はどこにもない。
そして、何故か目の敵にされたのがまたサキ。
彼女はまた野蛮で粗暴な今度は老齢の年寄りの標的となった。
「何でまた私なんだろう」
その日の夜、消灯後、食堂で彼女は彼女の机の前に座っているボクにポツリと言った。
答えを言おうかどうか少し迷った。
迷ったが、「この子は自分で自分の事が本当に分からないんだ。」
サキは自律神経失調症を抱えていた。
が、常に薄着。病院の薄いパジャマだけを着て、冷え性なのに常に裸足でクロックス。
気をてらって自分の大量の使い捨て箸を冷蔵庫に保管。
「冷たいとか寒いとか感じないんです。」とよくフラフラしているのに、冷たい飲み物やオヤツで看護師に買ってきて貰ったアイス。「暑い!寒い!」と、巨大エアコンのオンオフのスイッチを看護師に依頼。
「1人では着替えが出来ないんです。」と着替えは看護師と共に。
みんなが共有する机には、ガムを常に出しっぱなし。
指摘をされて「分かりました」と言っても翌日にはまた戻る。
それでは、ツマラナイ付け入る隙を「誰か」に与えているだけなのに。
それでは、幸せになれるどころか不幸せにしかなれない。
その小さな積み重ねが、どうにもこうにも後で大きく響く。
幸せも健康も女性の美も。
結局、毎日の積み重ねでしかないのだ。
彼女はそれが出来ないから、こんな狭い入院棟の中でもツマラナイトラブルに自ら合い行っているのだ。
彼女は高校時代バンドのドラムをやっていた。かなりの腕前だったらしく、卒業後、音楽の専門学校に進む。
バンドを組み、その都市のライブハウスでメジャーを夢見てオーディションを受け、メジャーデビューまであと一歩の所まで行ったそうだ。詳しくは聞かなかったし、聞いて良いのか分からなかったが、彼女は「私には向いてない」という理由である時音楽を辞めたのだそうだ。
そこから何があってこうなって、誰よりも多く何回も入退院を繰り返し、顔見知りの看護師がいたり、入院生活の裏話エピソードや病院の表向きな事←ここ噛み砕く が詳しくても、 自分の気持ちには忠実でも自分の体や本当の自分という人間の事を分かっていなかった。
分かっていないから、またこの間までの17歳の凶暴な少年との二の舞になっている事すら分からない。
「何をやっているんだ」
内心タメ息を付いて、そう思った。
「いいかい?ここは病院。自分の家では無いよ。ここは公共の場だよ。この机は自分の机でも、家の机でもない。病院の机。モノを置きっぱなしにしてはいけないよ。ここにガムを置きっぱなしにしているということは、『オレにも一つくれ』と、あのオジイちゃんに付け入る隙を与えるんだよ?自分で隙を作っているんだよ。分かった?」
案の定、サキはまた分からなかった。
分かったのはその場での一瞬だけ。
また、翌日彼女は机にガムを置いた。
そして、その翌日の夜ー。
消灯後にその老害の野犬は牙を剥いてきた。
■23日目■
この日は週に一度のお待ちかね。午前中のプログラムはカラオケ。
何処かみんなソワソワ。
女性の作業療法士が一人で手押しで持ってくる大きなカラオケの機械の設置やマイクのセッティングに患者も協力をして励む。
前日からいつもの「明日は何を歌ったたら盛り上がるかな?」と半分以上不毛な事を言っている50歳くらいの女性は、何処か不毛だと分かっていても、その話をする事が何か小さなイベント事を楽しむ大人が忘れた淡い学生時代の文化祭というか。それがまた楽しいんだろう。
そんな彼女が普段何を歌っていたのかさっぱり覚えていないが、今日のボクの一発目はUNICORN 「おかしな2人」。
「年齢的にこんか感じかな?」と思って選曲。彼女にもマイクを向ける。歌わない。どうも知らないらしい。
音痴だが、適当に下手の横好きで歌う。
コロナ禍で外に出られない入院生活中、皆さん好きな曲で束の間のストレス解消に思い思いカラオケを楽しむ。
例の老犬のおじいちゃん。
「何を歌うのだろう」と思うと、1人だけ演歌。
みんな気を使い、歌い終わると適当に拍手。大人だなと関心をする。
特に変わった事がなく、1時間半のプログラムは終了し、そして、12:00の昼ごはんに突入する。
が、問題はここから。
いつも時間通りに間に合うように、調理の厨房から食事の台車は業務用エレベーターで運ばれ、きっちり時間通りに食事は始まる。
業務用エレベーター前に既に食事の台車は既にスタンバをしている。
何故か、この日に限って患者一人一人に配らない。
「何故だろう?」
配り始め昼食開始が12時15分。
多少なりともぶうたれる声は書くテーブルから聞こえては来たが、先の50代くらいのおばさんはずっと「ご飯の時間が遅れるのは有り得んよね。」と誰よりも文句を言っていた。何回も何回も。
そして、この日の昼食。何故か味がない。
どうやら厨房で味付けを忘れたようだ。
「味付けを忘れるなんて、『絶っっ対』有り得ないよね!」
確かにそうだが、病院から出れば家で主婦として食事の用意があるのだろうから気持ちは分かる。
分かるがそれを何度も口に出す事はご飯をさらに味気なくするし、この日以外はいつも驚く位ご飯は毎食美味しい 。レシピ本を出せれるレベル。
それを何度も何度も口に出して語気を荒くするのは絶対に違う。
何故なら、この日は、看護師が我々の食事の様子を立ってずっと伺っているからだ。
角度的にこの女性の視界にその看護師が入らないのだろうけれど、「早く気づけ。」
この病院のシステムとトラップに。
1歩外に出れば、社会では自分の思う様にならない事。誰かがミスをしても、それに対して声を大にイチイチ目ぐじらを立ててはいけないこと。
多少なりとも不条理な事が起こるのが社会である。
「では、今ここで起こっている事は何の為にあるのか?」
答えは1つ。明白である。
時折、食事中に看護師が食堂に立ち監視をしているとしか思えない日があり不自然でしかなかった。
時折だから、余計に際立つ。
また、彼らだって食事時間や昼休憩は業務だから労働者の権利として与えられる。
その時間を遅らせている事くらい50年生きて来たなら、分かれよ。
しかも、この日、その役割をしているのが女神的な立ち回りをしている女性看護師の青山さんなのに。
「飯が不味くなる話をせずに、いい加減早く気づけ」
彼女はこの数日後。この入院生活中の彼女の元に「20年以上前に行方不明で生き別れた兄」が遠くで生きているというウソみたいな一報が舞い込んで来る。
彼女には20を超える子どもが2人もいて、普段午前中のプログラムでは淡々と編み物をしていた。
人には歴史ありという言葉にはこの場合誤解を生じる。が、なら、社会ってそんなものだよ。
誰かのミスなのか過失なのか責任なのか越権なのか何か意思なのか何なのか。
そんな中で成り立ち、それでもボクたちは生きていかなければいけないのだからー。
そして、この夜2階フロアの老犬が吠える。
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