習慣としての文筆
てると
文章を書く習慣
お世話になっている哲学科の教授(哲学者)から、「毎日書くことがなくても文章を書く習慣」を身に着けることを指導された。だから、これからできるかぎり書いていこうと思う。
曰く、私は様々なところから「言葉」は覚え込んでいて大量にストックを持っているが、それに「経験」が対応していないということだ。というよりも、ほとんどの学生はそういうものらしい。哲学にはアリストテレス以来の悪しき伝統があるようだ。というのは、言葉を普遍化して「概念」にして、概念の連鎖で物を語るという、それである。これは、教授曰く試みとしては基本的に「失敗」だそうだ。というのは、現代的にはネットワークで考えなければならないのに概念化した言葉でやっているということが失敗の理由として挙げられるようだ。
言葉というのは厄介である。直観的に、すなわち「それとしてわかる」という場合、言葉にそれが込められているということは情感が込められすぎている場合が多い。例えば、「存在」と言ったとき、或いは「存在経験」と言ったとき、なにか共通了解が出来上がってしまっているということを想像してもらうとわかりやすい。或いはそれが過度に不連続な確信となってしまっているような分裂性の情態の場合、本人だけが過度に「わかりすぎている」という事態が起こる。しかしこれは、ある特定の小説を読んで、或いは特定の動画コンテンツ群の視聴者が、「例のアレ」と言えばその界隈では何のことだか明瞭に表象され了解されてしまう事態に似ている。
例えば私はこの夏に『カラマーゾフの兄弟』と河合隼雄のユング関連本と芥川龍之介の『河童』を並行して読んだのだが、その際なにか「情態支配」とでも呼べるような特有の湿潤性の情態に陥った。しかし、ここで考えてみたいが、それを「情態支配」と呼ぶことはそれ自体一種の精神の安定化である。そこで安定化原理が作用することで、それ以上の沈潜が停止され、ともかくも落ち着けるのである。だから、それは思索の停止をも意味しているだろうと思われる。結局のところ、これはまだあの、自明性における存在了解の段階ではないだろうか。ともかくその存在=母性論的な固有の体験の共通性と言うのは、それとしてわかってしまう分厄介な安定性、すなわち不動性を獲得する。しかし、原義的なスキゾフレニア或いはスキゾイドというのは多面的であり、不連続な確信を持ち妄想様の観念に取り憑かれるのもスキゾ的だが、逆に動きとして動きすぎるという事態もまたスキゾ的である。だから、その点で「動きすぎてはいけない」というのは要領を得ているはずなのである。しかし、<経験>はもっと深く広いので、言われているようなスキゾ的な領域で動いたからと言って人間はそうは変わらないという安心感もまたある。人間程度の<経験>は変わって2~3度であるということだし、基本的には人間は変わらないのである。だから、深く分かちがたいものは経験におけるものであるから、変わることを恐れず自在に動いても、実際にはそうした重要な領域はなんら変わっていかないのが普通であり、そうしたことから、なにも心配することはないように思う。人と一緒にいたり人と話すということは、それ自体身体的な模倣を包含している。だから、「言葉」という言葉の多義性を考えるに、確かに表層の「言葉」は狭いが、広く「言葉」をとると当然歌うという文化的営為は言葉でもあるので、言葉の身体性が言えるのである。人は読書や会話の際に、むろん読書は著者との対話なのであるが、その際に、その者の身体的経験を同時に摂取しているはずである。身体情報を欠いた言語情報は空虚である。とはいえ局面転換は不連続である。身体情報の累積が唐突に変容をもたらすものではない。むしろ変容を考えるにあたっては、恐らくだが忘却、消去というプロセスが要点になってくるはずである。忘却は情報の忘却であり、れいの物質の記憶や痕跡の絶対忘却であるはずがない。だから、「死によってかえって生きる」という言葉は至言ともいえ、忘却することによって生きるのである。事例としては、自転車に乗りたての時何度も転ぶという経験をするが、転ぶことを再三学習し、その只中で同時に転ぶ乗り方を忘却しなければ、乗れるようにはならないはずである。
長くなったが、今回言いたいのはこういうことである。何度も文章を書くことを通じて、学習-忘却を反復し差異化しなければ経験と言葉が対応しない。よって、場数が必要である。
2023年11月7日
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