第6話 戸塚

 JR戸塚駅を越した辺りが、戸塚の本陣である。

 ここ戸塚の宿には、いにしえの本陣になぞらえた、温泉旅館が建てられていた。

 その本陣にチェックイン。

 まずは温泉に浸かって、ゆっくりと一日の疲れを癒す。


「あー、極楽、極楽。生き返るわー」

「いろいろあったわねー」

 体がきれいになったら、食事である。

 横浜といえば、中華街。

 旅館の夕食も、中華バイキングが用意されていた。


「うふふ、バイキングを見ると、燃えてくるわ」

「食べ物が手に入りにくかった原始時代の名残りかしらね?」

「そうじゃなくて、きっとOLの習性よ」

「違いない」


 ずらりと並んだ中華を、片っ端から皿に乗せて回る。

「小籠包に餃子、焼売」

「青椒肉絲に、回鍋肉」

「フカヒレ、干し鮑、ツバメの巣」

「ビールにビールに、ビール!」


 横浜のソウルフード、サンマーメンもいただく。

 サンマーメンとは、豚肉、にんじん、白菜、キクラゲ、ニラ、もやしなどを炒めた具をあんかけにして上に乗せた、神奈川のご当地ラーメンだ。

 シャキシャキの野菜と、あんかけのとろみの組み合わせがたまらない。


「くう〜、中華を食べると、元気が出るわ〜!」

「くう〜、ビールは中華に合う〜!」


 食事の後は、部屋に戻って、女子同士のトークに花を咲かせていたが、旅の疲れもあって、いつもより早めに就寝した。


 と、その深夜のことである。

 タマコは、ふと怪しげな気配を感じて、目を覚ました。

「おかしいわね。何か感じるわ」

 寝る前にビールを飲みすぎたのだろう。

 トイレに行くことに。


 隣では、ミケコがスヤスヤ眠っている。

 起こさないように、そーっと部屋を出た。

 幸い、戻ってくるまで、何もなかったのだが、妙な感じは消えない。

「不思議ね。お化けとは違うんだけど、何かに見られているような気がする」


 翌朝、ミケコにそのことを話すと、ミケコは、

「まあ、男の視線を浴びるのは、いつものことだけどね」

 と言って、取り合わなかった。


 だが、やはりタマコの感は正しかったのだ。

 二人が出発すると、黒い影のようなものが、音もなく後をついていったのである……!

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