マインドハウス
久芝
マインドハウス
心に秘密の家があればいつでも逃げ込める。逃げることができる。
こんなことを考え始めたのは昨年の暮れの良い天気の日だった。
冬にしては暖かく、夕方にしては暗かった。
仕事が早く終わり、公園のベンチに座る。
背もたれに背中を預け、空を見上げていた。
風が少し吹く。
その瞬間、耳元で「あの家で待っている」と聞こえた。誰だろう。
辺りを見回したがいるのは砂場で遊んでいる子供たちだけだった。
空耳か。
雲の流れをボーッと眺めていると、「待っているよ。あの家で」と、また聞こえてきたが、やはり周りには誰もいなかった。
疲れているのだろう。
ここ3ヶ月、新規プロジェクトが忙しく、毎日帰りは23時を超えていた。土日も出勤で何かを考える時間がなかった。
頑張った甲斐もありプロジェクトは成功して、今は閑散期に入った。
それはそうとプロジェクトが上手くいったのは良かった。最初、期限内に終わるのかどうか不安視されていたが、みんなの、強いて言えば自分の努力が身を結んだ結果と言いたかった。もう言ってるし。
クライアントも大変満足をして、また別の案件をうちに発注したいと言っているらしくまたそこにアサインされるかもしれない。
そんなこともあり心は少し高慢になっていたかもしれない。
それにしてもたまに吹く風が心地良い。どこかに連れて行ってくれる期待を持たせる風だ。風にそこまで思いを馳せたことはなかったが、今はそれでも良い。
どこに連れて行ってくれるだろうか。まずは、ハワイが良いかな。どんな人もハワイに行くと価値観が変わったり生き方が変わったりすることを雑誌やテレビで表面的なことは知っていた。知っていることと体感していることは雲泥の差があるのは今までの経験からすぐにわかった。
いつかハワイで自分の価値観をひっくり返される経験をしてみたい。
それにしてもあのささやきはなんだったのだろうか。不思議ではあるが、自分が欲しかった言葉だったような気もしないでもない。
家に帰宅し、冷蔵庫を開ける。
ビールを取り出し、さっさと飲む。
これが好きで働いているようなもので、この楽しみが取り上げられたならば、すぐに死んでも構わない心持ちではある。
普段見ないテレビを久々に付けてみる。
色々な事件や事故が起きている。それは日常のすぐ隣で起こっていることなのだが、遠い世界の出来事にしか感じない。
普段からテレビは見ないので、遠い世界の出来事と感じても良いのだが、会社勤めだとそうもいかない。ニュースの話題はつまらない会話を持たせるクッションになる。
さて、そろそろ死のうかなと思う。
プロジェクトもひと段落したし、あと数週間はそこまで忙しくなる予定は今のところない。だから、死ぬには一番いい時期だ。
死ぬのに一番良い季節、それは秋だと思っている。
夏は単純に暑くて死ぬ気になれない。
冬は寒くて死ぬ気になれない。
春は花粉症が酷くて死ぬ気になれない。
秋は、何もなく穏やかなので死ぬ気になれる。
だから今年の秋が狙い目なのだ。
これを逃したら来年まで待たなければならない。せっかくやる気になっているのにその気持ちを削ぎたくはない。
気持ちのままに行動をしたいが理性と季節がいつも歯止めをかける。
とてもそれは人間らしくて好きな部分であるが、同時に嫌いでもある。
死ぬことに勇気は必要か?
死ぬことに希望は必要か?
わかんないけど自分なりの結論として、死ぬのは勇気ではなくこの世界からの脱出だ。ここにいては焼き焦げてしまう恐れがある。すぐそこまで危険は迫っている。すぐにここを飛び立たなければ、焦げてしまう。
炭となった人間を誰が人間として扱ってくれるのだろうか。もはや「物」そのものである。魂が抜けた人間はいつだって物扱いで、燃えるゴミだ。
いや燃やせるゴミ、燃えてしまうゴミ、ゴミの中のゴミ。ゴミにしては扱いが面倒かもしれない。
シャワーを浴び清まった体でベランダにでた。
まだ肌寒くはないが、時折吹く風が冷たさを含んでいる。
季節は秋の中盤くらいだろうか。
いずれ冬になる。
その前に死なないと神様に怒られる。
ただ、どういった死に方がふさわしいのだろうか。
生き方よりも死に方が美しい方が憧れる。
偉人とかは美しく自ら命を絶っている。そこに至る決断はきっとすぐだったに違いない。あれこれ迷ったり悩んだりしないはずだ。
潔く「スパッ」と人生を終える。誰もができるものではない。
だって彼らはこの世に三千と輝く功績を残してこの世を去っていくのだから。
誰もがそうなりたいと願いながら努力出来ずにいる。彼らは努力を努力と思っていない。そういった意味でも凄まじいモンスターなのだ。
モンスターになれない一般人はどうしたものか。
とりあえず考えがまとまってから行うことにしよう。
今日はひとまず寝る。
窓を閉めてベッドに横になったらすぐ眠りについた。
「それはそれは。家を建てるならこれくらい広い土地があれば十分ですが、あそこの木々が少し邪魔になるかもしれません。思い切ってあそこも切ってはいかがでしょうか?なあに、そこの木を切ったところで何も変わりません」
顎髭を伸ばした初老の紳士が色々話している。
私はこの土地を手に入れようとしていた。
辺りを見回してもあまり馴染みがない森の中で、ここだけ木々が伐採されていた。人の手によって土が耕されていた。
「どうですか?ここに素晴らしいお家を建てることはとても夢のようではありませんか?」
そうか、夢の中か。
初めて見る夢にしてはどこか私の心をくすぐるような気がしていた。
「この土地は誰のですか?」と、初老に尋ねた。
多分会ったことがないけど、どうやらこの中では何度も顔を合わせているようだった。
「何をおっしゃります。この土地は先日、あなた様がご購入された土地ではありませんか」
髭を触りながら彼は言った。
「そうでした。私の土地でした」
話を合わせてみた。
「そうですとも。ここにあなたの家が建つのです。立派ではありませんか」
「家ですか?」
なんとも不思議そうな顔をしている老人は、広い土地の真ん中に向かって歩き始めた。
「ここにあなたの隠れ家ができるのです」
「隠れ家ですか?」
「隠れ家なので表立っては見えないです。心の奥にこの家を建てるのです。建てるのはそれ相応の土地が必要なのです。皆、土地を用意しないで建てたり十分な広さがないのに建てたりするから崩壊するのです」
土地の真ん中で仁王立ちしながら両手を大きく広げている彼は、総支配人のように振る舞っている。
私は彼の元に歩み寄った。
「ところでどうやって家を建てるのですか?」
自然とそんな疑問が湧いてきた。
「何を間抜けなことおっしゃっているのですか。あなた自身が建てるのですよ」
「私が?」
「そう。あなたが」
「私には無理ですよ。建築士の免許もないし大工でもないし」
「本当にそんなことをおっしゃっているのですか?」
「もちろん。」
「手を出して下さい」
「手?」
「できれば左手を出してください。掌を上にして」
言われた通りに左手を出した。
すると、そこにホログラムの家が現れた。ハンドパワーではない。どこかから映し出しているようにも見えるし自分の掌から浮き出しているようにも見える。
「これは?一体」
「それがあなたの家です。随分立派な外観ですね。素晴らしいと思います」
「この設計は誰が?」
「あなた自身がデザインしたものですよ」
「私は一体いつデザインしたのだろうか」
「無理もないでしょう。現実の世界でデザインしたわけではないですから」
「そうですよね」
「あなたの今までの精神状態と精神世界での融合で出来上がったのがそれです」
「話がいまいちわからないのですが」
「わからなくても良いのです。大事なのは出来上がってから、住み始めてからが大事なのです」
掌に浮かんでいたホログラムは自然と消えていった。
「おそらく次に来るときには出来上がっているでしょう」
「次はいつなのでしょうか?」
「それはあなた次第です。心の状態次第ですね」
「どういう状態だと良いのでしょうか?」
「死にたい。ただそれを思い続ける。しかも強く思い続ける。半端に生きたいとかほざくようであれば、もうチャンスはありません」
「今の状態はチャンスと?」
「絶好の」
「今を逃すと?」
「二度まで言わせないでください。二度はないのです」
彼がそう言うと、突然辺りが白くなり「無」になっていき、自然と意識がで始めていた。
勢いで起きた。
「な、やっぱり夢か。夢?」
スマホの時計を見ると六時前だった。それにしても不思議な夢だった。
今まで見たことがない類の夢だった。
いつもより早いが仕事に行くための準備をし始めた。
家を出るときに白い封筒が投函されていたのに気が付き、それを取り出した。
宛先が不明な封筒。
とりあえず帰ってきてから確認するために廊下に放り投げて家を後にした。
今日もつまらない1日だった。死にたいと思うのは毎日日課になっていた。変なことを日課にしてしまったな。
そういえば夢の中では生きたいと願った時に、その家がなくなってしまうとか言っていたような気がした。
大丈夫。
今のところ生きたいと思うわけがない。
そういえば朝にあった白い封筒がどう言う訳か帰ってきた時には、机の上に置かれていた。
誰かが入ったのか?念のために貴重品などを確認したが特に変わりなかった。
さて、どうしてこの封筒がテーブルに置かれたのかこの際、小さな問題には目を瞑ることにした。
封筒を見る。差出名無し。
何か手紙のようなものが入っているので封を開けるためハサミを持ってきて上から二ミリくらいの所を切ってみた。
三つ折りになった紙が入っていた。
中を見るとどこかの住所が書いてあるだけだった。
最後に「お待ちしてます」と綴られていた。
手紙の他に二枚の切符が入っていた。乗車券と特急券。
行き先は聞いたことはあるが、今まで行ったことはない地方への切符だ。
日時を見ると今週の土曜日の午前9時になっていた。
どうする?行くのか、それともただのイタズラ?それにしては凝っている。
小旅行と思えば良いかもしれない。
よし行こう。決断は早かった。
弁当とお茶を買いその車両に乗り込む。特急に乗るのは数年ぶりだった。
指定席のEは窓際だった。他のお客もそれなりにいて混んでいた。
自分の隣に誰も座らないこと祈りながら隣の座席に鞄を置いた。
お茶でも飲もうとペットボトルのキャップを回す。
このお茶は目一杯に入っていて少しこぼしてしまった。
鞄に入れていたティッシュを取り出し、お茶を置いてるテーブルを拭いた。 そんなことをしているうちに電車は走り出した。
所要時間は3時間と結構な旅だ。
生憎まだ隣に座る人はいないので気が楽だ。
外の景色を見ながら肘をついていた。
景色と言っても高いビルや高架橋くらいしかまだ見ていない。
走ること30分。徐々に郊外の風景になってきた。住宅地が多いエリアで時々畑作業、田んぼ作業している人を横目に特急は走っていく。
その光景も徐々に変わっていき森や木々が多くなり始めてきた。
終点ではないので降りる駅を間違わないようしなといけない。
トイレに行くために席を立ち廊下を歩いていきながら、席の様子を見る。
この号車はそこまで混んではおらず比較的静かな車両だ。
トイレを済ませ席に戻る。
鞄から例の封筒を出す。
紙に書いてある住所へ向かっているが、何があるのだろうか。
少し楽しみになっていた。悪戯にしては大袈裟すぎるし規模が大きい。
もし何もなくてもがっかりしないようにしないと。もともと期待なんてしていないのだからそんなことはないだろうけど。
目的地近くの駅に間も無く到着するとアナウンスがあった。
大して散らかしてはなかったのですぐに降りられそうだ。
早めにデッキに移動して待っていた。
この号車からは私一人しか降りないかもしれない。
目的の駅に到着しドアが開いた。
森の中にポツンと駅があるイメージだ。
やはりこの号車からは誰も降りない。
他の号車から降りてくる人も誰もいな買った。
改札方面に向かい駅舎の中を覗いたが人がいなかった。
ここはどうやら無人駅らしい。
「切符はここに入れてね」とよくわからないキャラクターが案内している。
駅の外に出たら気持ち良い風が吹いてきた。
空気が美味しい。
ローターリーには一台のタクシーが止まっていた。
後ろのドアが開いていたので自然とそちらに向かって歩いていく。
運転席には運転手らしき人が座っていた。
このタクシーは私が乗るべきタクシーなのかもしれない。
タクシーに乗り込むとドアが閉められて静かに動き出す。
「お待ちしておりました。では参りましょう」
「あの、私を待っていたのですか?」
「いえ、お迎えに上がったのです。あの方に言われて」
「あの方とは?」
「あの方とはもう何回か会っているはずですよ」
あの方はとは夢であった初老の人なのか?名前を聞くのを忘れていた。
「あの、あなたのお名前は?」
「鈴木です」
「鈴木さんですね」
「そう生まれた時から鈴木です。鈴木です」
少し笑った。
しばらくタクシーは走り続ける。
やがて森の中へと入っていく。
夢で見た光景によく似ていた。
走ること10分くらい、森の中で開けた場所に着いた。
「着きました。私はあなた様をここまで送り届けることが役割なので」
タクシーを降り、開けた場所の中央に誰かが立っていた。
背丈は自分より低く、英国紳士のような出立に見える。
彼のもとに近づいていく。
「あの」
彼の背中に声をかける。
彼が振り返る。やはり夢の中でみた顔と同じだった。
「これはこれは。お久しぶり、いや初めましてと言った方が良いのだろうかね」
「会ってますよね、うちら。私の夢の中で」
「そうですね。まあ私があなたの夢の中にお邪魔する形で会いしましたからね。勝手に夢にお邪魔してすみませんでしたね」
「というか、夢にお邪魔できるもので?」
「ははは。まあ、この世界は不思議なことがありますからあなたの夢にお邪魔できても何も不思議ではありませんよ」
鞄から白い封筒を取り出し、彼に見せた。
「これは一体どういったことになるのでしょうか。言われた通りに来るのもアホですけど、具体的な内容は何も書かれていないので」
「ちゃんと、投函されていたんですね。まあだからあなたがここにいるわけなんですけど」
「一度聴きたかったですけど、」
「なんですか?」
「俺に何のようですか?」
英国紳士は私の目を見つめ、ニヤリとした。
「夢の内容は?」
「覚えてますけど」
「そうですか。じゃあ話が早い。ここに建てるんですよ」
「建てるって、まさか」
「秘密の隠れ家を」
正夢になったという表現はしっくりこないが、それと似たようなことが今起きている。
「なぜ、建てるのですか?」
「そうすればあなたは救われます。この世界からも」
「死にたいと、家を建てるのは、何か相反する気持ちのような気もするのです」
「家。ここの隠れ家で死ねばいいのですよ」
「家に入っただけでは死ねないですよね?」
「またまた。面白いことをおっしゃりますね。ここは死のための家ですよ。隠れ家とは本来、死を意味する言葉ですから。あなたは随分隠れ家を望んでいたので、私が用意しました」
「なぜ、あなたは私にそこまで?」
「おや、知らせ行ってなかったですか?当選の」
「応募した記憶が」
「強く思い続ければそれでいいんです。あなたは、この生きている世界の中で一番思いが強かった。私はあっちとこっちを繋ぐだけのただの老人ですから、細かいことはあなたは気にしないでも大丈夫です」
「はあ。ただ、隠れ家にいるだけで死ぬことは可能なんですか?」
「可能ですよ。この隠れ家にいれば。今まで何人もこの家で最後を看取ってきました。ただ、あなたほど強い思いの人は初めてだ」
「ありがとうございますと言えば良いのかわからないですが、ありがとうございます」
「これから作るので少しこの土地の外に移動しましょう」
老人に促されて私は土地の前の道路に移動した。
「ちょっと後ろを見ていてもらえませんか?」
「わかりしまた」
素直に従い後ろを向いた。
5秒も経ってないかもしれない。
「向き直ってください」
そう言われてゆっくり振り返ると、平家の家がそこにはあった。
少し古めの小屋のような出立で周りが木々で覆われていた。なんとなく山小屋のイメージに近いがそれなりに大きい。
「さあどうぞ中へ」
促されて小屋の玄関と思われる扉のノブをまわし扉を開ける。
靴を脱ぐような玄関はなかった。
「そのままお上がりください」
土足のままゆっくり進んでいく。
一つ大きな扉があり、そこのノブを回し中に入ると、何もない部屋の真ん中にリクライニングが置いてある。
奥の方にはキッチンのようなものもある。
リクライニングに座る。何もないから開放感があるが孤独を感じる。
「どうですこの部屋は?ここであなたの望みが叶います」
「いや、ただの部屋に椅子が置いてあるだけでほんとに死んでしまうのでしょうか?」
「はい、死んでしまいます」
「この状況だとどういう死に方になるのですか?」
「そうですね。どうやって死にたいという願望はあなたはなかったので、一番オーソドックな死に方がおすすめですね」
「普通の死に方とは?」
「その座椅子に座って、目を閉じて夢を見るんです。それでいいんです。やがて夢の中で死にます。そうするとあなたも死にます。なので即効性はありません。そしていつそうなるかも分からない。死のタイミングまでは私たちはいじれなくなっています。そこはどうやら明確な生きてる世界の規定があるようでして」
「わかったようなわかっていないような」
「とりあえず私はこれで失礼しますので、何かあればキッチンに置いてあるボタンを押してください。それではまたお会いしましょう。さようなら」
そう言うと老人は部屋から出て行った。
キッチンには冷蔵庫も完備され食料まで備蓄されていた。なんだかしばらく生きれそうだなと感じた。
特段することもないので椅子に座る。
急に眠気がやってきた。死ぬのか。それはわからない。
何かの物音に気づき目を開けた。
「おおまだ生きてたか」
椅子から立ち上がり、部屋にある唯一の窓のカーテンを開けた。
森だらけだ。
あの時見た時よりも緑が濃く、この家がより隠れ家ぽい。
キッチンにあるボタンを押した。
5分後に、あの老人がやってきた。
「おやまだ生きて居られたんですね」
「生きるも何も寝て数時間しか経ってないと思いますよ」
「何をおっしゃっております。すでに20年は経過しておりますよ」
「またご冗談を」
「私の腕時計を見てください」
老人が出した右手につけている時計を見る。
確かに20年経った日付になっている。
「寝ている間あなた死にたいと思ってなかったのでは?」
「いやそんなことは、確かに死にたいと」
「本当ですか」
「わかりました」
あとで夢で会いましょうと言い残し、老人は去っていった。
急いで座椅子に戻り目を閉じた。
夢の中に入るのは結構自由自在にできるようになった。
夢でこの家のことを思い浮かべた。
確かにあの老人が夢に出てきた。
「夢で会うのは久々ですね。あなたが死んでないのは、あなたの意志が強かったのが弱くなったせいと秋じゃないからかもしれませんね」
老人は笑った。
「何人も看取ってきたんじゃ?」
「看取りました。ただ、あなた、やっぱ生きたいとか思い始めてるんじゃないのでは?」
「まさか、私はずっと死にたいと」
「そんな人が風が吹いて秋の風だとか言いませんよ。情緒深いのは生きてるのが好きではなく素敵だと思ってるのかもしれませんね」
そう言われてまた夢から覚めた。
ただ歳をとって老人になっていくだけなら私は何をしにここに来たのだろうか。
窓を開ける。
緑の匂いが鼻の奥まで入ってくるくらい緑が生きていた。
私は本当は生きたかったのかもしれない。情緒深く。
マインドハウス 久芝 @hide5812
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