夏休み編
第18話 夏休み0日目に課題を終わらす勢いの奴ら
夏休みが、終業式が終わった時点から始まるというのなら。
すでにそれは始まっている。いや、夏休みが始まるまえから心のなかではその格闘はすでに始まっている、といったほうが差し支えない。
何が始まっているか……
それは言わずもがな……
夏休みの課題との格闘である。
これは日々の学校における課題よりも、ずっとずっと
学生にとって、これほどまでに夏休みを邪魔するものはないのだ。
青春のなかの一大イベントになぜ、学校という教育機関はこうも嫌がらせをしてくるのだろうか。
先生たち自身も、学生のころは少なくともうんざりしていた、少しの厄介者扱いくらいには、それを見ていたことだろうに……
どうして、同じ過ちを繰り返してしまうのだろうか。
いや、これはもう、むしろ大人から子どもへの、見せかけの努力が大切であるという薄っぺらい教育的理想の押し付けなのではないだろうか。
どうして、夏休みの課題という慣習はこうも影響力が強いのだろうか……
あなたたちはそれの十分な効果を―今の教育の目的のウェイトをかなり受験勉強に置いているという現状を認めているとして―志望校合格に少しでも貢献しているという検証的データを、持ち合わせているんですかあああああああんんんんぁんああああああああ!!!もしやってたとしてそれはどのくらいの調査規模なんですかあああぁぁあんんんああああ!!!その時代時代における再現性の検証は実施しているんですかあぁああああんっあああっああああ!!!
…………
とまぁ、学生から上がる根拠のない批判の声はここまでにしておいて。
こういう教育的な行為の正しさというものは、実際には検証が難しいことは言うまでもない。
受験勉強への実際的な効果をはかるというだけでも、困難であるからして、それがどのように人格形成に関わっていて、はたまた、人がよりよく生きていくためにどのように……
などという非常に抽象的な目的が設定されてしまえば、それはもう科学の定量的性質ではうまく捉えきれないことは見るからに明らかである。
教育とは、ある種、思想の押し付けであると言われてしまうのも、致し方ないことなのかもしれない。
……………
……………
……………
★★★★★★★★★★★★★
終業式が終わり、夏休み0日目が始まった。
深夜23時。
これを深夜といっていいのかはわからないが、高校生にとっては十分に夜遅くだろう。
この時間帯に信二は、高校の友達とWeb会議サービスを用いたビデオ通話をPCで行っていた。
信二の部屋に置かれたデスクトップPCが、暗くされた部屋のなかにぼんやりと浮かんでいる。
ビデオ通話のルームには、同じクラスや他クラスの親しい友人たち、合わせて大体10人ほどが入室していた。
みんなの顔が画面一面に映されて、少し気持ち悪い。集合体恐怖症が自発しそうなレベルである。顔がドアップになっても全然気にしない人もいることは、男子特有のものだろうか。
ほとんどの友達はみんな、すでにお風呂を済ませて、髪の毛が湿っているのがわかる。
いやはや……
数年前とはいうものの、便利な時代になったものである。
「えー。みなさん、本日はお集まりいただき、まことにありがとうございます、といってもあと1時間もしないうちに夏休み0日目は終了してしまうのですが……」
主催者の信二は、妙にかしこまった挨拶を始めた。
「ごほん、ほん。えー。今回のこの集まりは他でもない……。この憎き夏休みの課題をぶっ倒すために開催されました」
みんなが反撃の狼煙をあげようと、まだかまだかと腰を浮かせて、そわそわしている。高校男子特有のあのアホらしさが、このルームにはプンプンしている。
「え。そうですねー。なんか一言カッコいいことでも、言っておきたいのですが。なんですの。夜も遅いですし、深夜テンションも、そこはかとなく入ってきなはって、なんか僕もようわからへんテレビとかドラマで身につけてしもた、エセ関西弁で個性バリクソ盛りたくなってんので。ごほん……」
みんなの口がぽかんと空いて、その心からの雄叫びをあげるのを待っている。
少々、アホらしい絵面になってしまっている。
まぁ、これが高校生の青春らしいといえばらしいのだが……
「茶でもシバいて、夏休みの課題いてこましたろやないかあああああ!!!!カフェイン、バリクソ盛りなはれやああああああ!!!!!気張りぃやあああああ!!」
『あぅおおおおあああああおあおおおおおおおおお!!!!!!』
『はぅあああああああぁぁあああああああ!!!!!』
『ぽうぉやあああああぁやややあああああああああんんあああ!!』
『しゃらくせぇええええぜぇえええええきぇええええええええ!!!!』
以下省略……
こんな感じで。
信二たちは、夏休みの課題を……
夏休み0日目から、しばきにいったのだった。
赤信号、みんなで渡れば怖くない。
多分、そんなノリだ。
夏休みの課題を最初に終わらすタイプと言っても、その取り組み方は千差万別だ。
信二たちは……
いわずもがな。
答えを写して、爆速で終わらせるタイプなことは、今の様子を見ていれば明らかだろう。
それがいいことか悪いことかは、明白であるが……
彼らにとって、青春とは何者にも変えがたい存在であることも……
これもまた、明白なことなのだ。
………
………
………
信二たちは、こうして、各々のカフェイン飲料をシバキながら……
談笑を交えながら……
それぞれに夏休みの課題を片付けていったのだった。
______________
更新しました。夏休み編スタートです。
よろしくお願いいたします。
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