AI規制

ボウガ

第1話

あるマネージャーのBさんの話。

女性タレントAさんのマネージャーで、そのタレントはアイドル活動の傍らインフルエンサーとしても活動し、動画配信や、生放送でも活躍していた。

気弱な性格で、悪くいえば推しに弱い。しかし人前にでると人がかわったように元気溌剌、天真爛漫にふるまい、それが人気を博したのだった。


しかし昨今、様々な起業でCMタレントなどをAIに代用させようという動きが活発になった。何せ、莫大なギャラを支払わなくていい上に不祥事も起こさない。時間がたつにつれ活発になり、徐々ににCMやら一部動画等でAI技術を用いたAIタレントもうまれ、関連したコンテンツが増大していくのだった。


その反面、そうした仕事に従事するタレントからは反発が起きた。もちろん仕事が奪われるわけだから、たまったものではない。だが、国も法律ですべてを規制するわけにもいかず、ただ悪質なディープフェイクなどを規制していく動きにまとまっていった。その傾向を知ってか知らずか、視聴者や消費者の中でもまた、AIでなく実際の人間を使用した広告や動画を大事にしようという新しい考え方もうまれた。そのおかげでいくばくかのタレントは生き残る事ができたのだった。


その中でAさんは、トップの中のトップ、一番人気といっても過言でない人気もので、発言力も発信力もトップだった。しかし、Aさんはかつて裏社会との関係を指摘された事もあった。無名の時に裏社会の人間に助けてもらったとか、潰そうとする人間や、枕営業を強要されたときバックにいる裏社会の人間がマネージャーを脅したとか。Bさんは、人気になってからのAさんしかしらなかったしそうした噂に興味がなかったので放っておいた。


しかし、それと関係するか否かは置いておくとして、AさんはやたらとAI技術を利用したディープフェイク動画が出回った。悪質な広告、許可のないCM、身に覚えのない水着映像など。


「どうしてこんなに狙われるんだ」

 Bさんは頭を抱えた。マネージャーとして最大限タレントをフォローしなくてはいけない。しかし、あまりにも数が多すぎる。そこで彼は人脈を広げ、警察関係の人とも仲良くなり、様々な調査を始めた。


そして、警察関係者いわく、AI技術を用いた犯罪やグレーゾーンの商売をやっているのは、カタギの人間でない事が多いという。そこでBさんはピンときた。Aさんを呼び出し話を聞く。

「以前裏社会の人間と関わりがあったって本当か?」

「いえ、そんな事は……むしろBさん以前、最初のマネージャーに同じような文言で脅されていました」

(まてよ?)

 Bさんは、最初のマネージャーが芸能界で悉く評判が悪いのをしっていた。最近落ち目のインフルエンサーのマネージャーをしていると聞いていたが……もしや。


 Aさんは同じ頃、自分のディープフェイク動画が出回っている事に心をいためていた。タレントをやめようかとも考えていたそうだ。そんなAさんを、

「これで何もかわらなかったら、タレントもやめて好きな事していいから」

 と説得し、Bさんはある動画をとった。


「タレントAが裏社会と関係があるとの噂の真相ついて」

 そこでAさんは、件のマネージャーの名前を伏せて、以前最初マネージャーにされた事や、脅されたこと、嫌々やった仕事などを暴露した。


 その動画は大反響になった。こんな動画で何か意味があるのかと思われるかもしれないが、実はBさんは、警察関係者からある情報をうけとっていたのだ。

「どうやら、Aを標的にしているのは裏社会の人間そのものではなく、裏社会に情報を流している芸能関係者らしい」

 と、そこでピンときた。もし、Aさんが気弱でおびえていることをいい事に、噂を流しているひとが、Aさんを脅しているBさんなら、彼こそが、Aさんを罠に陥れようとしているに違いない。


 予想は見事に当たった。徐々にAさんを用いたディープフェイクの数は減った。Aさんの身を案じたBさんは、つきっきりで彼女の警護をしていたが、幸い、悪い事が起きる事もなかった。そして、Aさんを用いたディープフェイクはそれから数年の間姿を消していった。


だが、数年後にまた事件が起こる。Aさんが、ある時からずいぶんふさぎ込むようになったのだ。

「どうしたんだ?」

 とBさんが尋ねても、首を振るばかり、気弱な性格のAさんなので強くでることもできず、そのまま様子をみていたが、しばらくすると休養が欲しいといって、隠れ別荘に引っ込んでしまった。


 どうすればいいんだ、と、困っていると、以前お世話になった警察関係者から連絡が入った。

「件の元マネージャーが出所した……もし何か問題がおこったらいつでも警察を頼ってくれ、あの事件の後、いくらかAIやディープ規制の法律はできてはいるが……それでも油断はできない、何か仕返しを考えているかもしれない」


 しかしBさんには心当たりがほとんどなかった。アンチはもともといるし、ディープフェイクはでまわっていないしAIタレントだって、彼女の存在を脅かすようなものはいない。一体何が、とあるSNSのホームをスクロールしていると、ふとAさんのアカウントの返信をみて違和感を覚えた。

「ん……?」

 確かに表面上違和感がないが、文面や文言が似た返信がいくつかあった。それも、表面上やさしくとりつくろってはいるが彼女のことを批判する内容が多い。

「これはもしや……」

 ふと考えついて、Bさんは、Aさんに彼女のSNSアカウントの内容をみせてくれといった。初めはしぶっていたのだが、Bさんが警察関係者の要請だと嘘をつくと、しぶしぶ見せてくれた。そのダイレクトメッセージ欄にはびっしりと、様々なアカウントからの誹謗中傷がならんでいた。


Aさんに尋ねると

「これも、ファンの意見だから、私がもっとちゃんとしないと……」

Bさんは、これはおかしいとはっきりといって、誹謗中傷と意見とは全く違うのだと説得したあと、警察関係者のつてをあたって、この一連のアカウントの情報を暴いた。するとどうやら、すべてのアカウントがひとつの建物からアクセスされているらしい事がわかった。そしてその建物の所有者が、件の元マネージャーだったのだ。Bさんは激高し、警察に被害届をだす、すぐに捜査が入ると、その家のPCからディープフェイクを作った違法な痕跡が発見された。そしてBさんは警察関係者から真実を知らされ、Aさんに知らせた。

「Aさん、最近のアンチはほとんどあいつだったって話だよ……そもそも数が異常だったし、あいつ、今度は“アンチ”になりすますAIを使ってAさんを攻撃してやがったんだ!!」



 事件が収まるとやがて、Aさんは心身共に回復し、アイドル、インフルエンサーの活動を再開した。しばらくして一連の出来事が収集がついて、Bさんはいう。

「やっぱりAI、AIいってもね、まだ人間のコントロール下にある、社会や国家をAIがコントロールしているわけではない、ていうことは、悪いこと考えてAIで楽をして、勝ち残ろうとしたり悪さをするのは個人、人間ってことでね、人間が怖いですよ、まだまだ」

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AI規制 ボウガ @yumieimaru

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