第154話 罠

「邪神…さっきの言い方といい、もしかして」

「今更気付いたの? ばっかじゃない?」


 心の底から馬鹿にするような声色で、口の端が裂けたような笑みを浮かべる。


「そもそもぉ、毎回毎回巻き込まれて姿を消していたってことを疑問にも思わなかったの? 少し考えれば分かるのに、やっぱり頭がお花畑なのかしら?」

「…っ!」


 フィリアが力任せに左腕に貫通し絡みついた蔦を引き千切る。だが、その代償として肉は裂け骨が見え隠れするほどの損傷を受けてしまった。ぶらりと力なく垂れ下がり、腕としての機能は果たせない。


「使徒じゃなくて狂人の間違いじゃなぁい? 流石あの駄女神が」

「黙れ」


 ペラペラと小馬鹿にしたような言葉を紡ぐ口を、フィリアの静かな怒声が遮る。


「アッハ。大事な大事な女神様を馬鹿にされて血が上っちゃったのかしら?」


 ニチャアとした笑みをたたえるベルを一瞥し、引きちぎった拍子に自由となった右手で翡翠を握り締める。


「でもざ〜んねん。貴方が今からいくら足掻こうが未来は変わらないわぁ」


 ベルの神経を逆撫でするような声には耳を貸さず、切っ先を地面へと突き立て無理やり体勢を起こす。するとベルが面白そうに破顔した。


「それとも、本気でどうにかできると思って?」

「生憎往生際が悪いのが取り柄でね」

「ふぅん…」


 途端、ベルが指を鳴らす。するとフィリアの足に絡み付いていた蔦が突然解け、するすると地面へと引きずり込まれた。

 何のつもりだとフィリアがベルを睨む。


「余興として遊んであげる。どうせ貴方にわたしはコロせない。そうでしょ?」

「それはやってみないと分からないわよ?」


 不敵な笑みを浮かべ、動かす度に激痛が走る身体を悟られないよう誤魔化す。プラプラとぶら下がる邪魔な左腕を肘辺りから切り飛ばし、傷口を火で焼き塞げば、フィリアの喉の奥で悲鳴が音になる前に掻き消える。


 腕を再生する時間も無く、そんな暇を与える程慈悲深い相手でもない。しかしそんな中での最善の選択だとしても、左腕を失った代償は余りにも大きい。


「そんな身体でヤルの?」

「どんな身体でも関係ない。わたしはアンタを潰せればそれでいい」


 血が足りず思考が停止しかける頭を奮い起こす。まだ、ここで終わる訳には、訳にはいかない。


「潰すなんてヒドイわ。貴方の親友なのに」

「わたしの親友はもう死んだよ」


 今自分の目の前にいるのは、間違いなく敵だ。ベルと呼ばれていた人間は、もういない。

 フィリアの言葉を最後にベルが動き出す。先程のような搦手ではなく、弓を投げ捨て、淀んだ真紅に染まった刃を片手にベルが急速に肉迫する。

 次の瞬間には刃がぶつかり合い、閃光が迸った。その後ギリギリと拮抗していたように見えた力の押し合いは、僅かにフィリアが負けていく。


「踏ん張りが効かないわよねぇ?!」

「っ!?」


 フィリアが押し負け、壁へと弾き飛ばされた。ダメージが蓄積したフィリアの身体は、軽く背中がぶつかるだけで悲鳴を上げる。

 口に溜まった血を吐き、翡翠を正面へと構え直す。震える脚を無理やり前へと進めれば、ベルが笑う。


「ホントにコロせると思うなら、やってみる?」


 手を広げ、自らの首を指す。握っていた刃すら手放し無抵抗で待つその姿に、フィリアが訝しげな眼差しを向けた。


「何を…」

「だってほっといても貴方死んじゃいそうなんだもの」


 確かにフィリアの身体は限界だ。しかしだからと言って自ら隙を晒す意味が理解できない。


 ────罠でしかない。


 だが、最大のチャンスでもあった。これを逃せば、フィリアに反抗の手立てはほぼ無いと言っていいのだから。

 ならば───────…………


















































「………────ぇ」


 フィリアの腕が、

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