第148話 疑惑

 私の手からすっぽ抜けた翡翠だったが、それが逆に功を奏したようで、グルグルと回転しながら迫っていたウッドワームを切断してくれた。さらには女王までも真っ二つにしてしまった。しかも縦に。

 ……いや、普通ありえないけど。ブーメランじゃないんだから。


『うぅ……主ぃ……』

「ご、ごめんって。わざとじゃないから」


 地面に突き刺さった翡翠を慰める。いやまさか私も飛んでいくとは思わなかったんだもの。

 まぁ原因としてはおそらく、痛覚を切断してゴリ押したせいだろう。


『主の馬鹿力ァ……』

「……それついては否定しないかなぁ」


 だって、神器であるはずの翡翠にヒビがはしってしまっているのだから。自己修復できるから問題はあまり無いのが幸いかな。


「でもお陰で女王倒せたし? 結果オーライということで」


 女王は聖火でもう既に燃え尽きている。フロアに聖火が広がり始めていることから、もうここの敵は全て倒せただろう。


『……とにかく抜いて。そして直して。迅速に』

「ハイ」


 翡翠から怒りの感情を感じ取った私は、すぐに要望通り刺さった翡翠を慎重に引き抜く。うわぁ……


「思ったより酷いね…」


 刃こぼれは少々。けれど刀身に対してのダメージがかなり大きい。これでは確かに、翡翠の自己修復機能では時間がかかりすぎるかも。

 まずはヒビを塞ぐことにする。指を刀身に添えて、魔力を流していく。私専用の刀なので、私の魔力に高い親和性がある。つまり、翡翠の自己修復機能を活性化させるような働きがあるのだ。


『ふわぁ……気持ちいぃ……』

「ふふっ。でもごめんね。最近はしてなかったね」


 翡翠にとってこの行為は、刀身を研ぐ行為に等しい……らしい。でも最近はしてなかったんだよね。ここまで破損すること無かったし。

 ヒビを塞ぐと、次に刃こぼれを直す。だが素材が無くなったに等しいので、修復にはさらに時間と魔力を要する。謎物質で出来てるからね。自己修復機能に頼るしかない。


「うーん……ちょっと試していい?」

『……変な事しない?』

「大丈夫だよ。……多分」

『その多分が怖いんだけど……まぁいいや。いくら主でも、私をどうこうすることは出来ないし』


 そうなんだよねぇ……まぁ、これからしようとしてる事は、そこに引っ掛かったりするんだけど。

 確かアイテムボックスにー……あった。


『それ……私が使ってた刀?』

「そうだよ」


 翡翠が人型の時に使っていた刀。それは何回も使ったはずなのに、刃こぼれひとつ無い。

 それに私の魔力を流していく。……うん、いけそうだ。


『まさかとは思うけど……』

「うん。そのまさか」


 これと翡翠を混ぜてみようかと。一応両方女神様の創ったものだし? それに翡翠が使ってきたものだから、親和性は高いだろうしね。


『……まぁ、別に問題はないよ。無理だろうし』

「そう? じゃあやっちゃうね」


 翡翠と刀に魔力を流し、それを繋げる。そしてその流れを翡翠へと向ければ……


「……きた」


 少しづつ刀が短くなりはじめ、それと同時に翡翠の刃こぼれが直っていく。最初はそれは鈍色だったが、次第に翡翠と同じ色に染まっていった。


『これは……なんで……』


 翡翠が何故か不思議そうだ。


「そんなにおかしい?」

『おかしいどころの騒ぎじゃないよっ!? なんで一瞬で同化できるのっ!? いやそもそもなんで私に干渉できちゃうのっ!?』

「そう言われても……出来ちゃったものは出来ちゃったし」

『おかしい……いや主がおかしいのはいつものことだけど』


 おいこら? 流石に怒るぞ?


『人間の主が神器に干渉できること自体がおかしいの。あ、いやでも……主もはや人間と呼べなそうだし…』

「誰が化け物だ」

『そこまでは言ってないでしょ……はぁ。まぁ、考えても仕方ないか』


 ……思考放棄したな。ま、いいけど。私だって説明出来ないし。


 そうして話しているうちにも翡翠の修復は順調に進み、とうとう完了した。


「どう、かな」

『……うん。ちゃんと直ってる。


 なんか引っ掛かる言い方だな。ま、直ったのならそれでいいか。

 翡翠を鞘に収め、あたりを見渡す。もう既にフロアの浄化はほとんど完了しているようだ。


「ここで終わりだと思う?」

『…多分、違うかな。そんなすぐにはつかないでしょ。行かなきゃいけないのはだし』

「……待って」


 何故、最上階にいかなければならない? 確かに私は上へと行くつもりだった。けれど、それはクリアするのが目的であって、最上階までいく必要性はない。世界樹の最上階は正に樹の頂上。そこに敵は存在しない。いわゆる展望台扱いだからだ。

 それなのに、何故翡翠はそんなことを……


『……言い間違えただけだよ』

「……そういうことにしておくよ」








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