第147話 女王

 翡翠を携え、気配察知を頼りに進んでいく。そして、よくよく考えたら魔力眼で暗闇見えるじゃんってなったので、光の玉はとっくに消している。

 馬鹿だね私……。


 とりあえず反応が増えている場所へと向かってみる。すると、こちらへと近付いてくる反応が複数。だが、気付かれてはいないっぽい。


「どうするかなぁー」


 光学迷彩で避けることも可能ではあるのだけれど、結局のところ倒さなきゃならないので、このまま戦闘に移行する。


 ギシャァァァ!!


 近付いてきた一体のウッドワームが、こちらへ向けて消化液を吐き出してきた。

 ほんと、目がないのにどうやって私の存在感知してるんだか…。

 幸い距離があるので簡単にかわせる。けれど、攻撃されたら流石にしんどいな。


 ギシャァァァ!!


「…言わんこっちゃない」


 危惧していた、複数のウッドワームによる消化液攻撃。私の頭上に黄色い液体が襲いかかってくる。


「ふっ!」


 その消化液が落ち切る前に一気に駆け抜け、ウッドワームの元へ。そこからすれ違いざまに口へと聖火の矢を叩き込む。


 ギャッ!?


 あまりに一瞬の出来事だったからなのか、ウッドワームが驚きの声を上げる。そしてそのまま身悶え始め、やがて聖火に包まれて綺麗さっぱり居なくなった。


「はぁ…これ続けるのか」


 反応は未だに増え続けている。この作業を続けなければならないと思うと、憂鬱な気分になる。

 ……だがそれともう1つ、嫌な予感があった。


「…蠱毒状態になってないといいけど」


 もはやウッドワームは飽和状態にある。ならばわたしが危惧していることが起きるのも必然だろう。

 蠱毒とは、簡単に言えば毒虫が互いを喰らい、特別な毒を持った虫が出来上がることだった…はず。詳しいことはよく分からない。

 ともかく問題なのは、その特別な毒を持った虫だ。厄介であることは間違いない。


「急ごう」

『うん』


 暗い道を駆ける。幾度となくウッドワームと遭遇するが、口に聖火の矢をぶち込み、焼き尽くしていく。これならば翡翠も文句はないだろう。


 そうして優に100匹を越した時。とうとう増加が著しい場所へと辿り着いた。そしてそこに居たのは……


「……デカ」


 思わず声を漏らす。その場所に鎮座していたのは、先程から遭遇しているウッドワームの5倍はあろうかという巨体を持った、ウッドワームだったのだ。


「女王、かな?」


 ウッドワームを次々と産み出していることから、女王で間違いはないと思う。これを倒さなければ、永遠に増え続けるだろう。

 危惧していた蠱毒にはまだなっていないようだが、それでも急がなければ確実に起こるだろう。その前にケリをつけなければ。

 そう思い少し足を踏み出した時、


 キシャァァァァ!!!


「っ!?」


 突然女王が甲高い鳴き声を上げたと思えば、周りにいたウッドワームが一斉に襲いかかってきた。


「ちょっ!?」


 統率がとれた動きではないので簡単にかわせるが、何分数が多すぎる。このままでは押し切られるのは目に見えていた。


「刀術・乱戦・乱舞ロンドっ!」


 とはいえ、そのままやられる訳が無い。聖火を纏った翡翠を縦横無尽に振り回し、集まってきたウッドワームを粉々に切り刻んでいく。その度に体液が飛び散るが、今更気にしてなどいられない。






 キシャァァァ!!!


「うぐっ!」


 消化液をモロに右腕と右目に浴びる。結界は展開していたが、それすら溶かし、貫通してきた。

 ……私が言うのもなんだけど、チート過ぎる。


「はぁぁぁっ!」


 それでも激痛を根性でねじ伏せ、半ば取れかけの腕を振るい、最後のウッドワームの頭を地面へと縫い付ける。

 ……だが。


 キシャァァァ!!!


「嘘…でしょ…」


 次々と目の前で新たなウッドワームが産み出される。既に成体の状態で、だ。


 治癒は間に合わない。右腕は使い物にならないし、右目が潰されているせいで魔法が当たる保証はない。

 そうこうしている間にウッドワーム達は私へと迫り……


「……死んで、たまるかぁぁぁ!!」


 痛覚を切断し、翡翠を左腕に持ち替える。利き腕でない為に、力が乗らない。しかしそれを強化でごり押す。


 キシャァァァっ!?


 ウッドワームが驚いたような声を上げる。まぁ、普通右腕が無くなった状態で、未だ動く人間は最早化け物だろう。


 痛覚を切断した影響で、どれ程の負荷が左腕にかかっているのかは分からない。けれど、そんなことはお構い無しに全力で翡翠を振るった。











『ちょっ!?』


 ……あ。ごめん、すっぽ抜けた。



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