第126話 大切さ

 泊まるという爆弾発言をかましたキャサリン。だけど、荷物は一体……?

 そんな私の疑問に気付いたのか、キャサリンが説明してくれた。


「このマジックポーチに入っているのですわ!」


 キャサリンがそう言って腰に着けた小さなポーチを見せてくれた。ていうか、持ってたの?


「伯爵以上の貴族は、王家からマジックポーチを1つだけ、賜るのですわ」

「へぇー、なんで?」

「貴族というものは、外交など、色々と遠出することもありますでしょう?その為ですわ」


 なるほどね。容量としては、小さな倉庫ほどだと言う。まぁそれだけあれば上等らしい。


「ですので、これはさすがに差し上げることは出来ないのです……」

「え…あ、あぁ。あれね」


 すっかり忘れてた。そういえばベルにマジックポーチをあげたいって思ってたね。


「探してみたのですが、やはりなく…」

「いいよ別に。探してくれてありがとね」


 実際は、別に見つからなくても問題は無い。だって自分で作れちゃうんだもの。

 ………とんでもない性能になってしまうことを除けばね。


「……では、この話はここまでに。フィリアさん、話してくださいますわよね?」


 あ、あれぇ?さっきまでの雰囲気が嘘のように、キャサリンの瞳が、まるで獲物を逃さないと言っているかのように私を射抜く。


「な、なにを?」

「どうして黙っていたんですの!養子とはいえ、話してくださってもよろしかったでしょう!?」


 やっぱその話かぁ…


「いやうん、話そうかなぁ〜とは思ってたんだけど」

「けど?」

「……キャサリンって六大英雄の熱狂的なファンでしょう?」

「はいっ!」


 はいって……そんなに自信満々に言えることなのだろうか。


「だからちょっとねぇ…反応が怖かったというか」

「そ、それは……まぁ、確かに詰め寄っていたかもしれません」


 かも、じゃないよね!?現に詰め寄っているよね!?


「ですが、わたくしにだって節度というものはありますわ。厚かましく英雄様に会わせてなどとは言いませんでしたわ」

「ほんとかなぁ…」

「な、なんでそんなに信頼がないんですのぉ!?」


 私の部屋にキャサリンの叫びが響き渡った。信頼はしてるよ?これ以外ではね。


 まぁ、そんなこんなありまして、結局キャサリンは私の部屋に泊まることになった。ベットは大きいからね。2人でも十分な広さがあるので、問題はない。


 そして夕食時には、アッシュがキャサリンに質問攻めにあい、少し…いや、かなり引いていたとだけ言っておこう……。


 お風呂も一緒に入ったんだけど、リーナの屋敷ほど大きくはないので、かなり狭かった。


「はぁ…何故フィリアさんは、そんなにもスタイルがいいのでしょうか…」


 体を洗いっこしていると、唐突にキャサリンが、そんなことを呟いた。確かに余分は脂肪はないと思う。……胸部にもね。


「私はキャサリンが羨ましいよ」


 だって、ねぇ?キャサリン、その歳にしては、たわわな実が…………羨ましい。


「えい!」

「きゃあ!」


 ………大変柔らかかったです。どことは言わない。




「フィリアさん。色々とお話しましょ?」


 お風呂でてんやわんやあった後、ベットに潜り込むといきなりキャサリンがそんなことを言い出した。


「何話すの?」

「ロビン様やマリア様のこと、聞かせてくださいまし!」


 あぁ……


「うーん…私そんなに知らないよ?」

「いいのです。普段の様子を教えてくださいまし」


 普段の様子、かぁ…まずロビンは親バカだよね。


「親バカ…」

「うん。私やアッシュのこととなるとねぇ…でも、、ちゃんと愛してくれてるのは分かるから、嬉しいんだけどね」


 敢えて養子という言葉を強調した。キャサリンは天然っぽいけど、貴族だからちゃんと頭はいい。私の言葉で養子ではないと気付かれる可能性があるから、そこはちゃんと潰しておかないとね。


「なるほど……でも、ロビン様は仲間思いと聞いたことがありますので、なんとなく納得しますわ」

「へぇー」


 その話は聞いたこと無かったな。勇者として活動してたときのこと、あまり話してくれないからな。


「マリア様はどうですの?」

「ママかぁ……」


 マリアは……怖いね。


「怖い…?」

「うん。ちゃんと私のことを心配してくれてるってことは分かるんだけど……怒ると怖いです」

「……一つ聞きたいんですけど」

「なに?」

「怒られるのって、主にフィリアさんが悪いのでは?」

「…………」

「否定しないのですね……」


 いや、うん。それは分かってますよ……主に私が無理するからだしね。お話説教だってそれを止めさせるためだし。

 ただなぁ……私にとって無理じゃないからこそ、反省しないというか、止めないというか。


、当然な反応だとは思いますわよ」

「………」


 親として、か……マリアなりに、養子ということにしてしまった私に対して、思う事があったのかな。


「心配してくれる人がいるだけ、フィリアさんは恵まれていますわ」

「……そうだね」


 心配してくれる人がいることの大切さ。それは中々気付かないもの。

 死んだことにされたって、私には、心配してくれる人がいる。そのことを、忘れないようにしないとなぁ……。


「そろそろ寝ましょうか」

「うん。おやすみ」

「おやすみなさいですわ」


 私はキャサリンと顔を合わせ、最後にお互いにクスッと笑ってから、意識を手放した。

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