第124話 料理をしよう

 とりあえずアッシュの特訓はここまでにする。まぁアッシュの負担が凄いってのもあるんだけど、一番の理由は、これ以上やってもあまり効果はないから。

 特訓っていうのは、いわばレベルアップによる伸び代を増やす為のものでもある。だから、レベルが上がらないと、これ以上やっても効果が薄いのよね。


「フィリアにそういう常識があって良かったわ」

「……ママの私に対する評価が知りたい」

「ちゃーんと信用してるわよ。確認よ、確認」


 ほんとかなぁ……まぁ、マリアは私が心を読むことができるのを知ってるし、嘘はつかないか。



 …………でね、結局何が言いたいのかっていうと……


「暇だーーー」


 そう。やることなくなって、暇なのよね。私自身の特訓をするっていうのもありではあるけど……


「絶対やめてね?嫌な予感しかしないから」


 失礼な。そんなことない…よ?


『自覚あり…』


 う、うるさい!ちょっと、ほんのちょっと地面が抉れるとか、吹き飛ぶとか、それくらいだから!


「それくらいって言葉の使い方、間違ってると思うわよ……」

「うっ!」


 いや、方法はあるにはあるよ?前作ってた亜空間使うとか。でもねぇ……ちょっと怖い。だって作ってからステータスかなり上がってるし。空間自体壊しちゃいそうだからね……。


「はぁ……」


 深く息を吐いて、テーブルに突っ伏す。あ、ちなみにアッシュは今森で実戦してる。一応居場所と状況は確認してる。何かあったらすぐに駆けつけられるよ。


「……ねぇ、それってどれくらいまで捕捉できるの?」

「ん?んー……どれくらいだろ?まぁ今パパがどこにいて、何してるのかくらいは分かるよ」


 世界地図ワールドマップホント便利。ただ、何してるのかっていうのは、場所から推測するしかないんだけどね。


「……つまり、ここから王都まで把握できるの?」

「多分?」


 あとは私の脳内演算能力による。限界まで試したことはないから、多分って答えるしかないのよね。すると、分かりやすくマリアの顔が引き攣った。なんで?


「……ますます国に取り込まれそうね」


 あぁー…そういうことね。確かにマーキングさえしておけば、敵国の状態を知ることも出来るからね。


「知られないようにすれば大丈夫だよ」

「ほんとかしらねぇ…私的には、フィリアがバラしちゃいそうなんだけど」

「信用無い!?」

「だってそうでしょう。あなた、便利なら普通にそっちを使おうとするんだから」


 ……否定できない。だって、出来ることなら楽な方がいいじゃない?だから無詠唱使うし、索敵範囲が広ければ世界地図ワールドマップも使うよ。もちろん、後者みたいなやつは、バレないようにはするけどさ。ついポロッと言っちゃいそう。自分に自信がない……しくしく。


「そういえば、フィリア」

「……なに?」

「料理できる?」


 はて?なんで唐突に?


「出来はするよ?」

「あ、そうなの。てっきりできないかと」

「それはちょっと傷付くんだけど……私だって普通にできるよ!」


 まったく。伊達に前世で一人暮らししてないからね!


「じゃあ今日のご飯、フィリアが作る?」

「なんで?」

「暇でしょう?」


 確かに暇だけど。暇だけど!なにその理屈。


「愛娘の手料理なんて、親からしたらとっても食べたいものよ?」

「……そういうもの?」

「ええ、そういうものよ」


 ふーん、そうか。なら作ってみようかな。せっかくなら、日本料理を。

 ……まさかそれが狙いだったり?いや、ないよね。


(楽しみだわぁー…多分フィリアの前世の料理も出てきそうだし)


 ……まさかでした。まぁいいけどさ。じゃあせっかくなんだし、最高の料理を作りましょうか!


「あ、レミナ。今日はフィリアが作るから」

「えっ!?そ、その…大丈夫、ですか?」

「まぁ大丈夫じゃないかしら。キッチン壊したりはしないと思うし」


 ……さぁやろうか。うん。ただ、言わせて欲しい。…ちゃんと力加減はできますからね?!



 さてと。キッチンに立っていざ料理!というか、かなり久しぶりな気がする。ご飯は……炊飯器引っ張り出してきて炊こう。

 メニューは……男の子のアッシュがいることだし、唐揚げとか?あとは…味噌汁?なんか合わないな……まぁ、前から味噌汁は作りたいって思ってたから、いっか。


 まずだいぶ前に作っていた亜空間から炊飯器を引っ張り出して、研いでいたお米をセット。あとはボタンを押すだけ。簡単だね。


「それなに?」

「んー…魔道具?」

「それどうしたの?」

「…作った?」


 空間作る時に一緒にできたから、作ったってことになるのかな?


「作ったって…」

「気にしない気にしない」


 さてと。次は唐揚げ。1口大に鶏肉を切り、ボウルに醤油とすりおろしたニンニクと生姜。それと酒を入れて、1口大に切っておいた鶏肉を入れて味を付ける。30分くらい?


 その間に味噌汁。出汁は……干し魚で。

 出汁をだしたら、野菜投入。お肉もいれとこ。


 作っている間に味が染み込んだと思うので、卵をバットに割入れて肉をくぐらせ、粉をつける。それを油に突っ込んで……二度揚げするか。そっちのほうが美味しいし。


「できた…」


 うん、中々上出来ではなかろうか。味噌汁もできたし。あとは……キャベツの千切りを皿にしいて、そこに唐揚げを並べる。味噌汁もよそって、ご飯は茶碗……なんてないものね。スープ皿でいいか。


「できたの?」

「うん」


 マリアが料理を覗き込む。


「美味しそうね」

「本当に。でも、見たことないです。まさか…」

「うん。私の前世の料理だよ。さぁ、食べよ!」


 できた料理をテーブルへと運んでいると、アッシュが帰ってきた。


「ただいま……むっちゃいい匂いする!?」

「おかえり、アッシュ。今日はフィリアが作ったのよ」

「え!?」


 そんなに驚くこと?女の子だよ?料理くらいできるよ?


「さぁ。冷めないうちに食べちゃいましょ」


 なんかはぐらかされた…まぁいっか。


 全員が席について食べ始める。どうだろう…?


「美味しい?」


 全員が一口食べて固まってしまった。あ、あれ?美味しくなかった…?


「……美味しい」

「え?」

「美味しいわ!すごく。こんな料理もあったのね」

「ええほんとに。美味しいです」

「美味い!ほんとに作ったの?」


 よ、良かったぁ……心配は杞憂だったね。でも…


「アッシュ、それはどういう意味かな?」

「あ、いや、ちょっと…信じれなくて」

「なんで?」

「あ、っと…」

「な ん で ?」

「……お姉ちゃんには作れないと思ってたからです」

「よし、アッシュ、後で模擬戦しよっか」

「えぇ!?」


 文句言わない。最初嘘ついたんだから。最初から正直に言っても模擬戦はするつもりだったけど。


『それどう答えても避けられない…』


 うん。そうだよ。悪いか。


『開き直ってる!?』


 だって……模擬戦しようって言ったのは、今日の実戦でどんだけ実力ついたか確かめたかったからだし。


「食べたらやるよ」

「………今ほど美味しい食事を恨んだことはない」


 ゆっくり食べれないってことだろうね。現に手は止まってないし。

 ……ただ、それだけ美味しいって思ってくれているってことだから、嬉しいね。たまには人に振る舞うのもいいかもね。












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