第8話 後始末
「ううーん…」
私はゆっくりと目を開ける。そこは見慣れた天井があった。
「えーと…昨日どうしたんだっけ?」
たしかエルザにスキルを仲介してもらって、スタンピードに参戦して…
あ!なんか魔法陣みたいなの発見して、いきなりエルザに憑依されたんだった!でも、その後の記憶がない。多分、エルザがベットまで送ってくれたのかな?
でも、あの時エルザが言っていた世界樹の根って一体…?
コンコン
「フィリア様、お目覚めですか?」
いつものレミナだ。
「うん」
レミナが部屋に入ってくる。
「レミナ、スタンピードはどうなったの?パパたちは?」
その後スタンピードがどうなったのか、あの後気を失ったから分からないんだよね。
「はい!旦那様方は見事スタンピードを撃破しました!」
「おお!」
よかった。また家族を失わなくて…
「現在、旦那様方は倒した魔物の後始末に追われていますので、ここに帰ってくるのはまだ時間がかかりますね」
「後始末?」
「はい。魔物の死体はそのまま放置してしまうと病気の発生源となったり、アンデッド化してしまうので、全て燃やさないといけないんです」
「へー」
アンデッドっていうのは、スケルトンやゾンビといった、魂をもたない魔物のことだ。一般的に、ゴースト系の魔物が憑依するか、怨念が取り付くかのどちらかで発生する。
倒すのも大変だけど、倒した後も大変なんだね。
「とりあえず、お着替えを済ませましょうか」
「うん」
今現在この村に残っているのは戦えない人、つまり女の人ばかりしかいない。こんな時に襲われたら…
「それはフラグか」
「?どうしました?」
「いや、なんでもないよ」
私は着替えを済ませて下に降りる。
いつもはおはようといってくれるパパやママがいなくてちょっと寂しい…
「では、朝食を用意しますね」
今日の朝食は目玉焼きにベーコン、パンだ。
…米が欲しい。5歳になってスキルをもらったら調べてみよう。
ーーーーーーー
朝起きるとやけに体が痛い。
久しぶりの野営はかなり体にきたらしい。
「その痛みは、野営の痛みじゃなくて、後始末をしたくないから仮病を使ってるとしか思えないんだけど?」
…鋭いな、マリア…
「…ああ、分かってるよ。さっさと終わらせちまおう」
「最初っからそう言えばいいのよ」
とはいえ、俺たち男の仕事は魔物を運ぶこと。そして、燃やすための薪を集めることだけだ。…だけって、言ってるけど正直やりたくない。薪を集めるのは比較的簡単だし、魔物だって死んでるから楽っちゃあ楽なんだが…血が付くんだよなー。ドロッとした魔物特有の血だ。こればっかりは昔から嫌いだ。だか!俺には会わなきゃいけない娘がいるんだ!速攻で終わらせてやる!
そして、後始末を始めて1時間ほどたったとき、
「ロビン様ー!」
という声が聞こえた。この声はシャガルか?
「ここだ!どうした?」
「いいからこっちに来てください!」
なんだ?あの慌てよう。まさかエンペラーがいたのか!?
俺は走ってシャガルの所に行った。
「おい!どうし…」
そこには聞かなくてもこのために呼んだのが分かる光景が広がっていた。
半径200メートルほど、地面がえぐれていたのだ。
「こいつぁ一体…」
その時、俺は戦いの最中にとんでもない爆発音が聞こえたのを思い出した。
「あ!あの時の…」
「ロビン様?何か分かったんですか?」
「あ、ああ…戦いの最中にな、どこからか爆発音が聞こえたと思ったんだが…」
「その音の正体がこれだと?」
「…いや、断定は出来ない。ただ、ここにエンペラーがいた可能性が高いな」
あの爆発音が聞こえてから、魔物の動きに連携がなくなっていたのだ。
それは、使役していた高位の存在が消えたことを表していた。
「だが、一体誰が…?」
「気になるところだけど、今は後回しよ。ほら、まだまだ仕事は残ってるわよ!」
「…ああそうだな。よし、ここの詮索は後回しにして、最後の後始末を終わらせて帰るぞ!」
「「「「「おお!!!」」」」」
その後さらに1時間ほどかかって、やっと後始末が終わった。
ここから村まで歩いて2時間弱ほどだ。
「よし!みんな帰るぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
俺たちは村へ歩を進めた。
ーーーーーーー
「まだかなぁー?」
「ふふふっ。後始末は時間がかかりますからね」
確かに500を超える魔物の死体を焼くなんてとんでもない時間がかかるだろう。それでも、生きていると分かっていても、やっぱりこの目で見ないと安心出来ない。
「…うん?」
遠くのほうで人の集団が見えた。村の人達だろうか?たが、まだ喜ぶことは出来ない。下手をしたら盗賊という可能性もあるのだ。
…だけど、その心配は杞憂だったらしい。
「フィリアーー!!」
…いつもは暑苦しくて聞きたくないと思っている声も、今はとても聞きたかった。帰ってきたんだ…約束、守ってくれたんだ…。
私は半分泣きながら手を振って返事をした。
「おかえりなさい!!」
本当に、おかえりなさい。
安心したからなのか唐突に眠気が襲ってきた。
「あぅ…」
「フィリア様、もうこんな時間ですので、先に寝ましょうか?」
実はもう既に日は落ちており、いつもの就寝時間をとっくに過ぎていたのだ。
「でも…」
「明日からでも、沢山話せますよ」
…そうだね。パパ達も疲れているだろうし、明日話せばいいよね。
「…わかった」
私はベットに上がるとあっという間に意識を手放した。
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