第5話 幸せの終わりの鐘

 ゴーンゴゴーンゴーンゴゴーン


「うるさいなー…」


 これはこの村にある鐘の音だ。この世界には時計は存在するが、とても高価らしく、こんなふうに時刻を鐘で知らせるのだが…


「今日は音がなんか違うな…」


 いつもの鐘の音はこんな風に重なって音が聞こえることはないのだ。


「なんか、あった?」


 私はなんか嫌な予感がしたので、急いで飛び起きた。


 コンコン


「フィリア様!お目覚めですか?」

「うん」


 どうしたんだろう?いつものレミナらしくない慌て様だ。


「どうしたの?レミナ?そんな慌てて?」

「あ、フィリア様はこの鐘の音を知らないのでしたね。とりあえずお着替えを済まして下に降りましょう」


 私の部屋は2階にある。下にあるのはキッチンやリビングだ。


「わかった。すぐ着替える」


 私は大急ぎで着替えを済ませて下に降りた。

 そこにはパパやママ、それに武装した何人かの見た事ない人がいた。


「おはよう、パパ、ママ」

「ああ、おはようフィリア」

「おはよう」

「どうしたの?」


 明らかにいつもと違う空気だ。


「ああ…実はな、魔物大量発生スタンピードが起こったんだ」

「スタンピード?」

「ああ、この村の近くには魔物が発生するダンジョンがあってな、今回そこから魔物が溢れ出したみたいなんだ」


 そんな近くにダンジョンなんてあったのね。


「大丈夫なの?」


 何なのか分からない恐怖から少し声が震えてしまった。


「ああ!そんなに怖がらなくていい。パパに任せろ!」


 そう言った途端、私とパパに視線が集まった。


「ロビン様…この子は?それにパパとは一体…確か子供は流産したんじゃ…?」

「あ、ああ…。この子はフィリア…養子だ…」


 あーそういうことにするのね。

 まあ、私自身も英雄の娘って目で見られたくないし、そういうことにしよう。


「初めまして!私はフィリアと言います!」

「あ、ああ。よろしくな!俺は今回冒険者ギルドから派遣されたBランクのハンター、"シャガル"だ!」

「冒険者ギルド?ハンター?」

「お金を貰う代わりに様々な依頼を請け負う人たちのことをハンターというのよ。そして、そんな人達が所属するのが冒険者ギルドよ」

「へー」

「え!?今ので理解出来たのか?!」

「まぁ、大体」


 あんまり馬鹿にしないで貰いたい。

 まぁ、まだ3歳児だし、確かに普通の子供なら理解できないかもね。


「そんなことより、シャガル、魔物は?」

「あ、ああ。数はかなり多い。数にしてざっと500は超える」

「500だと!?」


 おう、いきなりでてきたな、このおっさん。


「"ビーン"少し落ち着け。それで?魔物の種類は?」

「ああ、ゴブリンが多いが、中にはオークやオーガなんかもいる。それに、上位種も何体か確認した」

「なかなか厳しいな…」


 魔物についても色々聞いている。ゴブリンは緑色の肌をした前世でよくあるタイプのやつだ。オークは二足歩行の豚みたいなので…食べれるらしい。

 オーガはさっき言った中で1番強い種族で、簡単にいったら鬼だ。棍棒を主に使うのでまさにそれだ。とはいえ、少し違和感がある。


「しかし、妙だな。ゴブリンはその他の魔物より明らかに弱い。それが群れをなすなんて…」


 そう、そこだ。あまりにも変だ。


「可能性としては…エンペラーの存在だな」


 エンペラー。それは魔物の最上位にあたるものの総称だ。なんでもエンペラーは自身よりも弱い魔物ならば、自身の指揮下に置くことができるらしい。

 となると、エンペラーになっているのは…


「…オーガか」

「ああ…その可能性が高いと思う」


 なんだろう?なにか分からないけど、とんでもなく嫌な予感がする。


「魔物はいつ来そうだ?」

「…今日だ。」

「今日!?」

「ああ…おそらく日が落ちたころ、この村に着く」

「それは…まずいな」


 日が落ちてから魔物と戦うのはとんでもなく危険だ。


「となると、魔法で明るくするか、こちらから行くか2つにひとつだが…」

「さすがに村の前で戦うのは避けたいな」

「ああ。みんな、そういうことだが、いいか?」

「「「「「もちろんです!!」」」」」


 私はパパのところまでいって袖を引いた。


「うん?どうした、フィリア?」

「私になにか出来ることない?」


 このままここにいるなんて嫌だ!

 また、家族を失いたくない…。


「…ありがとう。でもフィリアはここにいるんだ」

「でも!」

「ダメだ!!」


 大声で叫ばれて思わず縮こまる。


「あ、すまない…でもな?フィリアがここにいてくれるだけで、俺は安心して戦えるんだ。だから…ここにいてくれるかい?」

「……うん。」

「いい子だ」


 そう言って私の頭をその大きな手で撫でてくれた。その手はとても暖かかった。


「絶対…絶対もどってきてね!」

「ああ!もちろんだ!」

「私もいくわ」

「…っ!マリア…」

「私がいた方が助かるでしょ?」

「それはそうなんだが…」

「別に負けるつもりはないんでしょ?」

「ああ…ああ!よし!絶対魔物を全部倒して全員で帰ってくるぞ!」

「「「「「おお!!!!!!」」」」」


 その後パパたちは村を去っていった。

 私はその背中を見送ることしか出来なかった…。








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