第41話 (回想)迷想〜あの日のこと
翌朝、受験票を手にした僕は少し早めに家を出た。
向かった先は秋霖学園――――……のはずだったーーーー。
僕はずっと考えていた。最後まで迷っていた。
もしも僕が秋霖学園を受験して合格すれば僕は間違いなく今の中学校でも
名前が残り、皆からは注目され先生からはチヤホヤされる。
両親も鼻高々だろう……。
そりゃそうさ。あんな名門校なんて行きたくても誰でも そう簡単に行くことは
できない。5教科、平均点490点以上のIQが優れた者しか行けない超エリ―トが
行く高校とも言われている。3つ間違えれば確実にアウトだ。
だから僕は常に完璧な答えを解いてきた。
存在感がなくなるくらい勉強だけに集中し秋霖学園を目指してきた。
秋霖学園は高校から大学・専門コースまであり、秋霖学園を卒業した者は
社会に出ても大企業の幹部クラスに在籍できるとまで言われるほどだ。
それだけ頭脳が優秀だということになる。僕は選ばれた人間だ。
そして、僕は今、人生の中で最初の岐路に立っている。
未来を左右する切符を手に入れるか、入れないかの分かれ道だ。
その分岐点を間違えれば、その先はないのと同じだろう……。
昔の僕なら迷うことなく秋霖学園を選んでいただろう……。
両親の願いでもある名門校に入り、立派な大人になって大企業の社長になるのも
いいかもしれない。それに僕の存在を消した奴らのことが心の中心部に引っかかっていたことも事実だった。
迷いなどないはずだった……。
だけど、今 僕の頭の中にあるのは――――ーーー。
秋霖学園に行くことよりも……
『空良―――ーーー』
空良の笑った顔が浮かんでくる……。
ふっ…とした瞬間に いつも僕の脳内には空良がいた。
空良はノックもせずに いつも突然 僕の脳内に侵入してきた。
そして、空良の存在が僕の中でどんどん大きく膨れ上がってきた。
いつの間にか僕は何よりも空良が大切だって思い、空良が僕にとって
かけがえのない存在へと変わっていった……。
もう、僕に迷いはない…。
その時だったーーーー、
『ヒュー――ンーーーー』と、強い風が横から吹いてきた。
髪の毛が一瞬で逆立った。思わず頭を押さえた僕の緩んだ手の隙間から紙切れが
『フゥ――』と風に舞って飛んで行ってしまった。
僕は未来へ繋がるその切符を追いかけることもせずに ただジッと立ち竦み
呆然と見ているだけだった。
これも不運星人である僕の宿命かもしれない。
僕が進むべき道は『秋霖学園ではない』と、神様が言っているようだった。
見上げると、青々と広がる青空から照り出す眩しい光に思わず目を細める。
白雲たちが形を変えては流され、気持ちよさそうに泳いでいた。
僕の手から離れていった受験票はどこか遠くに流され消えていた。
それでも僕の心は意外にも晴々としていた。
未来のことよりも
僕にとって空良が一番大切な存在だということに気付いた。
だから僕は高校でも空良と一緒にいたくて、空良と同じ木田山高校を受験した。
きっと、空良は『ついてくんなよ』って笑うかもしれない……。
そして、僕は今度こそ告白するんだ。
『だって、僕は空良が好きだもん。だから、空良とずっと一緒にいたいんだ』
きっと、空良はキョトンとした顔で僕の視界にアポなしで また入り込んで
くるだろう……。
―――僕は不意を突くように空良の唇に触れる。
呆気にとられた空良の表情が頭に浮かんでくるようだ……。
気付いたら、僕の足はいつもの河川敷に向かっていた。
もしかしたら、空良がいるかもしれない……。
空良のことだから きっとお守りを買って待っている。
昨日までの僕は受験をする方向だったから神社に行って お守りも自分で買って
ちゃんと準備している。
だけど 突然、吹いた風が僕の運命を変えた―――ーーー。
けど、それはスタートラインに立つ為の一歩にしか過ぎなかった―――ーーー。
もしも、本当に空良がお守りを持って待っていたら受験に向かう振りをして
お守りを受けとろう……。せっかく僕の為に買ってきてくれたお守りだ。
『受験、やめた』なんて言ったら、絶対、空良に蹴られる、、、。
4月の入学式で驚かすんだ。
きっと、僕の選択は間違っていなかったと必ず証明してあげる。
今度は高校1年生から空良と同じ時間を…同じ季節を過ごす為に―ーーー。
そして、それがいつか僕の未来へと繋がっていく――――ーーー。
僕はそう思うよーーーーー。そう信じているーーーーー。
空良……僕の大切な人……。
僕は空良が誰よりも好きだった………。
これから先、どんなことがあっても きっと僕は空良に恋しているだろう……。
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