第29話 空良の想い~見つかったスマホと日記
「空良の回復にはもう少し時間がかかる。大地君に見せたいものがあるんだが、
ちょっといいかね」
「はい… 」
幸之助さんと僕はその場所から離れ、別の部屋へと移動する。
その部屋に入ると、センサーで照明が光を灯し、パソコンが5台と壁際には
データ書類や備品が入った戸棚とAIモデルが立つショーケース飾られていた。
部屋の中央には大きめのセンターテーブルとソァーが置かれていた。
そこは休憩室と事務室が組み合わさってできた空間だった。
『多忙な研究者達にとってはちょうど良いスペースだ』と幸之助さんは言っていた。
僕はセンターテーブルの前にあるソファーに腰を掛けた。
幸之助さんは自身のデスクの引き出しからスマホと日記のようなものを
取り出してきて僕の前に置く。
「これは?」
「空良のスマホと日記だよ」
「え…いいんですか、僕が見て…」
「ああ…。君のことしか書いてないよ。大地君が持っていなさい」
僕はペラペラと日記を捲り、読み返すーーー。
そこには防災訓練のことから始まって、僕達が出会って過ごした日々のことが
綴られていた。
空良……
【空良の日記の一部より】
11月15日―—ーー
防災訓練で男の子を助けた。そいつはめちゃくちゃ気が小さい男の子だった。
11月16日――ーー
防災訓練で助けた男の子は臼井大地と言っていた。そいつは私に
「友達にならない?」と聞いてきた。私が「ならない」と答えると、
ひつこくつきまわされた。こんなことなら防災訓練で助けるんじゃ
なかったと後悔した。でも、まんざら悪くないかも……
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11月19日――--
大地から参考書をもらった。私の誕生日は2カ月も前なのに、あいつは天然か?
まったくおもしろい奴だ。大地はいつも学年トップで頭がいい。
私と大地の誕生日が同じだったってことにビックリ(笑)。
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11月21日――ーー
大地からもらった参考書で勉強中―—ーー。
まったく、わからん……。大地と同じ高校は絶対、無理だ。
私は一応、木田山高校を目指す!! 卒業したら大地とは離れ離れだ…。
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11月28日―――ーー
もうすぐ、大地の高校受験日だ。大地には志望校に合格して欲しい…
学年トップの大地ならきっと合格するだろう…
けど、大地と離れるのはちょっと寂しい……
大地みたいな男は初めてだ……
せっかく友達になれたのに…大地と離れたくない……
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11月30日―――ーー
大地には負けていられない。とりあえず私も高校受験に向かって頑張ります。
12月4日!!目指せ 木田山高校合格!! 必勝だ!!!
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12月4日―――ーー
燃え尽きたあ~高校受験。とりあえず、5教科全部回答用紙に埋めたけど…
あっているかが心配っす。どうか合格していますように……。
帰りに近くの神社でお守りを買った。いよいよ明日は秋霖学園の受験日だ。
いつもの河川敷で待ってれば大地に会えるかな?
もしも…大地に会えたら…お守りを渡して告白するーーー
私――—大地のことが好きだーーーー。
できれば、高校行っても、付き合いたい―――ーーー。
「はっはっはっ…無理!」って言われそう…
私、散々、大地にエラソーな態度で、口も悪かったからな……
大地はきっと私の事なんて女として見てないに決まってるよ、、、、
12月5日―――ーー
大地、受験頑張れ!! ファイト!!!
告白は大地と私の高校受験合格した後にしよう……
大地と私の高校受験が合格しますように……
※もしも次に生まれ変われるなら大地好みの女になりたい。
前に大地が言ってた。『清楚で、長い黒髪の女の子が好き』だって…
大地がドキッとするような長い黒髪で清楚なまったく別人の女になりたい……。
【日記の内容は一応ここまで】
その日記は後半にいく度にその想いは友達以上の感情が書かれていた。
「空良……」
(12月4日? そうか、知らなかった……木田山高校受験日は秋霖学園受験日の
前日だったんだ)
【もしも、次に生まれ変われるなら、今度は大地の好みの女になりたい。
―――黒髪で清楚なまったく別人の女になりたい……】
その言葉が最後のページに書かれていた文字だった。
僕はたまらなく空良のことが愛しくて仕方なかった……。
「それで、幸之助さんは空良の想いを叶えるために空良の亡き後、
容姿も性格も声色さえもまったく別人の女性に生まれ変わらせたんですね」
「ああ…。容姿も中身も変った空良と大地君がこの世の中で出会う確率なんて
億万分の1にすぎなかった。しかも、あの事故で大地君も記憶を失くしていた。
私は時々、君が入院している病院に様子を見に行っていたんだよ」
「え……」
その時、僕の記憶の中にまだ忘れている部分があるんじゃないかと僕は何となく
そんな気がしていたーーー。
空良の日記に書いてある『清楚で、長い黒髪の女の子』。
空良は僕が『清楚で長い黒髪の女の子が好き』だって書いていた。けど、僕は空良に
そんな事を言った覚えもなかった。いや、忘れているのかもしれないが……。
現に思い出せないことは本当だった。事故に遭った時、僕は記憶を失くしていた。
僕は全部、記憶を取り戻したわけじゃなかった。事故に遭わなくても人間は全ての
記憶を覚えているワケではない。どうでもいい会話なら忘れている場合もある。
いや…空良と交わした会話がどうでもいいというわけじゃないけど…。
仮にそのようなニュアンスの言葉を空良に言ったとしても、多分それは僕の性格からして照れ隠しのようなものであって、空良はその言葉を本気にとらえていただろう…と、僕は思うが……実際は満更でもない。
夏祭りで初めて空良を見た時から僕は空良に恋をしていた。空良が僕が知っている
空良ならいいなあって内心はそう思っていたのは事実だった。
空良が僕の初恋だった中学生の頃。どこか空良の面影を残し、まったく別人になって
僕の前に現れた空良も僕にとってはどっちも空良は空良だった。
でも、長い黒髪も うなじを見せ髪をアップで束ねている空良もすごく似合っていたよ。僕はどんどん綺麗になっていく空良に惹かれ、僕も『男』なんだと空良に気づかされたんだ。例え空良がAIだとしても、空良の身体が作りものだとしても、触れた
胸の感触は柔らかくて、触れた唇は何度もキスをしていたくなるような甘い香りがした。抱きしめた身体は僕にとっては普通の女の子だったよ。
空良がAIヒューマロイドでも僕の気持ちはきっと変わらない―――ーーー。
これから先も僕が空良を守っていく――――――ーーーー。
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