第28話 もう一つの新事実

その瞬間とき、幸之助が口を開いた―――ーーー。


「まさか、あの日…空良が君を庇って車に飛び出すなんて私にとっても

計算外の事だったんだよ」

「え…空良が…」



幸之助さんの一言で僕は脳裏にひっそりとしまい込んでいた記憶を事故に遭った

受験当日の朝まで巻き戻していた。


「え…あの日?」

受験当日のことだ…

「あの日、空良は意識不明で病院に運ばれたがダメだったんだ」

「え……」

この時、僕は衝撃の事実を知ってしまった―――。


……うそだろ、、、、あの日…空良はやっぱり…死んでいた……


僕の脳裏に事故の記憶が鮮明に蘇ってきた―――ーーー。


冷たいアスファルトに大量の血を流し倒れた空良の顔を思い起こす。

僕は薄れゆく記憶の中で必死に空良の手を握ろうと体を寄せていった。

…ショックのあまりは記憶を失くしていた……いつ目覚めていた事さえも忘れ、

空良のことも忘れ、事故の記憶さえも頭の中から消えていたーーー。


それが空白の時間だったんだ―――――ーーー。


「え? もしかして…空良はあの日、死んだんですか?」

僕はどこかで空良の死を受け入れられない自分がいた。

「ああ…」

幸之助さんから『空良は死んだんだ』と聞かせれても信じられず、

呆然と立ち竦み、青ざめた顔を伏せていた。

ともに幸之助さんの顔を見ることができなかった。


空良は僕のせいで……死んでしまった…

やっぱり、僕は不運星人だ。一番大切な人さえも守れない……

最低な男だ……。


―――――だけど、事実は微妙に違っていた。


「大地君は空良から何も聞いていなかったんだね」

「え、何を?」

「空良が脳死と判定されたのは12歳の時だったんだよ」

「え…」脳死? 12歳…?

「…事故でね…脳の一部が破損してしまって…暫く病院で治療していたんだけど…

私は現実を受け止めることができなくて…植物状態の空良を研究室に連れて帰ったんだよ。医者に治せないなら私が治してあげたい…必死に模索しながら空良の破損している脳に人工頭脳を取り付けたんだ」

「え…」

「一度は死んだ空良の脳だったが、あの日の事故で私は全てを失って

しまった。私が病院に駆け付けた時には空良は手遅れだと医師に言われてね」

「すみません、僕のせいで…」

僕は深く頭を下げていた。涙が溢れ出して止まらなかった……。

「空良が病院に運び込まれた時、こう言ってたよ…『お願い、お父さん…大地を

助けてあげて』と。その言葉が空良の最後だった……」

「え……」

「だから僕は医師に頼んで君を助けてもらったんだよ」

「……」

「君の体の中には空良の臓器の一部が入っている……」

「え…」

僕の身体に空良の臓器が…? うそでしょ……


僕は返す言葉すら見つからなかった―――ーーー。


「ごめんなさい……めんなさい……」

気付くと、僕はそう…呟いていた。何度も何度も…

何度、僕が謝っても空良はもう戻ってくることはない。

それでも僕は謝ることしかできなかった。

「大地君、頭を上げてください。私は怒ってないから…」

幸之助さんから意外な言葉が返ってきた。

「むしろ…私はね、君に感謝しているんだよ」

「へ!? それって…どういう意味ですか?」

幸之助さんはわずかの間、口をつむいでいた。

その後、ゆっくり口を開けた。

「空良が次に目覚めた時、空良は完璧なAIヒューマロイドになるんだよ」

「幸之助さん?」


幸之介は人格が変わったみたいにニヤリと鼻で笑う。

それは、まるで希少価値である空良の存在を研究材料として見る目だった。


「大地君…人間とAIの違いは何だと思う?」

「あの…感情ですか?」

「そうだよ。AIは感情をミクロのようなチップを体のあらゆる箇所に

装備することによって喜怒哀楽の感情が現れるんだ」

「でも…空良は違った…」

「え…?」

「当時、私は未来都市計画に行き詰っててね。空良の体である実験をする

ことにしたんだよ」

「実験ですか?」

「私が空良の脳内に大地君の記憶だけを残したのは…全ては研究の為だったんだよ」


研究の……



「空良は私の思うように行動してくれたよ。ただ…」

「ただ?」

「計算外のこともあったけどね……」

「それって…」

「空良にまだあんな感情が残ってたなんて…実は、私も驚いてるんだ」


幸之助はガラスの向こうで眠る空良に視線を向ける。


「空良は自分の意志で人間感情を取り戻そうとしていたんだよ」

「え…」

「私が8時までに帰ってくるように言ったのはもう一つ理由があったんだよ。

これは空良には言ってなかったことだが…」

「なんですか?」

「空良の体はパワーが0になった時、リセットされるように作られている」

「え…」

「じゃ…」

「次にい目覚めた時、空良は全ての記憶を忘れているだろう…」

「そんな…」

「それと、もう一つ…」

「……」

「私は空良の体をより人間に近づける為、充電式チップを空良の体から

外し、少し手を加えなおしたんだ」

「起きていてもどこで何をしてても充電できるように改造したんだよ

そのためにはリセットした状態で体の中を見ないといけないからね」


そんな…


「もしかして、幸之助さんは空良が8時までに帰って来ないことを予測して

いたんですか?」

「それは、結果論だ…。もしも、空良が8時までに帰って来ない場合は

実行しようとは思っていたけどね」


それじゃ、もしも空良が目覚めても…


僕のことを忘れているかもしれない……


「空良の記憶が所々、ぬけているのは上書きされるからなんだ。

所詮、AIだからね。かなりのデータ管理をするのは難点だった。

その微妙のズレを治療すれば完璧なAIヒューマロイドとして

生まれ変われると私は確信したんだよ」


「そうですか…」

僕は何だか心にポツリと穴が空いたみたいにちょっぴり、寂しくなった。

空良が目覚めた時、僕の事を忘れていても仕方ないんだ……

―――なんて、割り切れるほど僕はそんな強くはない……。



空良は出会った時から空良で…僕にとって空良は空良でしかない。


「空良は…僕のことなんて忘れた方が幸せなのかもしれませんね」

「……ん?」

「僕は不運星人だから……(笑)」

僕は平気な顔で笑ってみせた。

そのの奥には今にも涙が溢れそうなほど溜めていた。

わかっていたけど、それを僕はグッとこらえていたんだ。



ーーーでも、やっぱり僕は……


姿が変わっても声が変わっても例え僕のことを忘れて空良の記憶から

僕の存在が全て失われていたとしても、僕が空良のことを覚えててあげる。





そして、何度でも空良の前に現れるんだ……



『はじめまして、臼井大地です』


何度でも言うよ。


『はじめまして』が何度あってもいいじゃん。


空良の記憶に残るまで僕は何度でも言うから。


今度は近づきすぎないようにするよ。


絶対に ほど良い距離をとって歩くからさ…



―――どうか、神様お願いします。


空良が目覚めた時、僕のことを1つでもいいから覚えていますように……


空良とまた同じ景色を眺められますように―――――ーーーー。


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