第6話 不運星人
僕は不運星人らしい。
昔から僕はここぞという時に失敗したり、最悪な結果になったり、
いつも僕には不運が訪れる。訪れるというよりは呼び込んでいる
といってもいいくらいだ。
修学旅行は前日に腹を下し38度の熱が出て行けなかったし、
遠足はバスに乗り遅れて1人置いて行かれた。
3日後に高校受験を控え、僕は何だか嫌な予感が頭を巡り、
もしや良からぬ事が起こるんんじゃないかと不安になってきた。
相変わらず両親は僕には無関心で会話もない。成績さえよければ
それでいいのだ。高学歴の高校さえ行ければそれでいいのだ。
普通の子ならそれもストレスとなり、受験当日にうっかりミスの連続が
重なり失敗するケースだってある。その点、僕は大丈夫だ。
皆に注目されていないし、空気のように存在感がないからね。
常に学年トップをキープしている僕が落ちるわけがない。
僕は学力を心配しているのではない。僕は肝心な時にツキを落としてしまう
星に生まれた不運に強い男だ。僕は予期せぬ災難を恐れている。
気づくと僕はなにげにスマホのボタンをポチポチと押していた。
そして、ある広告が僕の目に止まった。
【あなたの運勢占います】
占いなんて普段の僕ならきっとスルーしているだろう。
でも、無料だし、生年月日を入れるだけで簡単に占ってもらえる。
操作も手軽にできそうだ。僕は遊び半分で2008年9月19日と
自分の生年月日を入力してみた。
1分で鑑定結果が出てきた。そんなにすぐに結果が出て来るなんて
インチキか嘘かと思ったが書いている内容がほぼ当たっている。
【あなたは不運星人です】
影が薄く、あなたは生まれつき不運を持つ不運星人でしょう。
そうだったのか……。
僕の不運は生れた時から決まっていたのか……。
―――なら、この不運を受け入れるしかないのだろうか……。
取り合えず、僕は近くにある神社に行き、学問、交通安全、
健康、厄除け等あらゆるお守りを買って受験当日の朝を迎えたのだった。
―――そして、3日後。
受験当日の朝でも僕はいつもと変わらず両親と顔を合わすこともなかった。
ダイニングキッチンに入ると、朝食が用意されていて、
【受験、必ず合格するように】とメッセージが添えてあった。
僕はその紙を手に取り、カッと湧き出るようなイラ立ちが手の中の
紙に集中していた。気づくと、僕はそのメッセージを握りつぶしていた。
無関心なクセに要求はしてくる最悪な親だ。
いっそ、名門高校である
どんなに手を伸ばしても普通の子は行けない高校だ。
僕が通っている中学校では僕一人だけがその高校に行ける権利を持っている。
僕が落ちたらあの人たちはどんな顔をするのだろうか…。
でも、もしもそんなハイレベルの高校に合格すれば、今度こそ僕は
皆の注目を浴びて有名になれるだろうか……。
僕は朝食を済ませ、家を出た―――ーーー。
忘れ物はない。受験票も持った。
お守りも鞄と学生服の内ポケットと外ポケット、ズボンのポケットに入れている。
準備はバッチシだ。前日に厄除けもしてもらった。
その為に貯めていたお小遣い全財産使った。
僕は慎重に道なりを歩いていた。
心は無になろう……。そう、自分に言い聞かせるように……心は無に……。
悪運は毎日あるわけではない。そんな悪運が毎日あったら僕はきっと
今、生きていない。
最近はそんな不運の事なんてすっかり忘れていた。
最後に不運があったのは2カ月前くらいだろうか……。
下を向いて歩いていたら思いっきり電信柱に頭をゴンとぶつた。
たんこぶができて、かなりの出血が出てていても、周りには気づかれず
僕は学校に登校した。まあ、それは自業自得で僕の不注意でなったこと
だから不運と言うまでもないと思うが、その日の帰り、犬のシッポを踏んで
犬に追いかけられた。その日は最悪な一日だった。
でも、最近はそんな小さな不運もなく充実していた。
僕が不運星人というのはあくまで占いの結果であり現実ではない。
だが、万が一僕に不運が起こるとすれば受験会場である
学園までの道並みだろう。それさえ気をつければ僕は大丈夫だ。
IQ150以上の僕が不合格になるわけない。
その日の朝、僕はいつもの河川敷で空良と会った―――ーーー。
空良は相変わらずブーメランを飛ばしていた。
僕は立ち止まり、その視線に空良を焼き付けていた。
空良を見ていると元気になる。空良を見ていると僕もいつか飛べる気がする。
「!?」
空良は僕に気づくと思いっきり土手まで駆け上がってきた。
「受験、今日だろ?」
「うん、今から行くとこ」
「そうか…」
「え、もしかして待っててくれたの?」
「これ、渡そうと思って」
「え?」
空良はグーにした手を僕に差し出し、ゆっくりとその手を開けた。
そこにはお守りがあった。
「これ…」
「その…受験、頑張れよ」
そう言って空良は僕の手を取り、お守りをその手に置く。
「空良、ありがとう(笑)。めっちゃ嬉しい」
僕はお守りをぎゅっと握りしめ、見送る空良に背を向けグーにした腕を
天に向かってピーンと振り上げた。
「大地、頑張れよー」
空良の声は遠ざかる僕にエールを送り続けていた。
「大地…がんばれ……」
空良の声が聞こえなくなっても、僕の心には空良の残声が繰り返されていた。
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