第5話 思春期~part1
ねぇ、空良、僕の目にはいつも君が映っていたよ。
放課後、この河川敷で君に会えるのが楽しみでしょうがなかった。
僕達はいつもの河川敷で寝転がって空を仰いでいたね。
「大地の夢ってなんだ」
空良は大空を見つめ、呟いた。
名前で呼ばれたのは初めてだった。
「夢か…。考えたこともなかった」
「大地は頭いいから研究者、医者、弁護士、教師、政治家、何でもなれるな」
「なれないよ(笑)。それ、かいかぶりすぎだよ空良。僕、存在感ないんだよ」
「わりぃ、そうだったな(笑)。でも、私にはちゃんと見えてるよ、大地のこと。
なんで、皆には見えてないんだろ?」
「さあ…」
「お前、集団で無視されてんじゃないの? マジで1年からずっと?」
「うん…。入学した時からずっと…」
「小学校は?」
「……覚えてないんだ」
「え?」
「多分、小学校は別の所だったから」
「へぇ…そうなんだ」
「ねぇ、空良の夢は?」
「世の中を変えることだ…」
「政治家かなんか?」
「わかんないけど…お父さんの助手かな…」
「確かお父さんって…研究者かなんかだったよね?」
「お父さんはすごい人なんだ!! めちゃくちゃカッコイイんだ!!」
お父さんのことを話している時の空良はめちゃくちゃ目がキラキラしている。
『お父さんのこと、すっごく好きなんだあ』と僕は少し羨ましかったんだ。
―――中学生。それは一般に思春期を迎えた頃ーーー
僕達は出会い、たわいもない話をした。互いに好きとか恋とか愛とかじゃない。
友達同士が普通に話す会話だ。
決して恋には発展しないだろう。結ばれることは永遠に来ないだろう。
言い争ってケンカした後でも明日になればいつものこの場所で
さりげなく隣に座り普通に話している。その程度の仲だ。
でも、僕にとってはそのたった何十分の会話が特別だったりする。
時々、不貞腐れたようにプスッと頬を膨らませた空良も
思いっきりはしゃいで笑った顔も、強がって僕の前では
涙なんて見せなかったのに、一度だけ僕に見せた涙の
僕にとっては空良と過ごした全ての時間が特別なものだった。
もしも、僕達が別々の道へ行っても、仮にこの地球の表側と裏側にいたとしても
僕は絶対にこの日のことを忘れないよ……。
空良の事だけは絶対に忘れないーーー。
そして、多分、その時に僕は自分の気持ちに気づくんだろうね。
あの日から僕は空良に恋していたんだ――――ってね。
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