忘れた映画の一部分の物語

春夏秋冬

とあるデパートが中心にあるオムニバスストーリー

第一話


 最近、わたしの周りで不思議な出来事がおきている。それはおとうさんやおかあさんにもにも言えないことである。いや、おとうさんやおかあさんに言っても理解してもらえない。だからこれは、私とおばあちゃんとの2人だけの秘密なんだ。


 街の中に有名なデパートができた。名前はたしかマルコ。覚えやすくてなんだか親しみがあるような名前。わたしは、そこに行くのが楽しみだったけど、お休みの日にしか連れて行ってもらえない。そこが残念で悲しい。でも、1週間の楽しみがそこにあるというだけで、過ごし方が変わる。


 テレビでもよくコマーシャルを行っている。わたしと同い年の子どもたちなのかな、それくらいの男の子や女の子が最後に「マルコ」てそのデパートの名前を呼ぶ。楽しそうな感じで。


 普通だったらなにも気にも留めない普通なコマーシャル。でも、このなんでもないコマーシャルがわたしを今困らしている不思議で少し恐い種になっている。


 それは、なぜかというと……。

 




「残さず食べなさいね」


「はーい」


 食事中に、おかあさんに注意を受けた。わたしはごはんを食べる。新しく家に来たテレビを見ながら、家族団らんと夕食を食べている。おとおさんと、おかあさん、それにおばあちゃんとの4人。おばあちゃんは、わたしにすごく優しくしてくれるから好きなんだ。


 目が合って、わたしはにーと笑うと、おばあちゃんも笑い返してくれる。


 ごはんも食べ終わり、おばあちゃんが部屋から出ていった。おとうさんは、部屋に戻り、お母さんは台所で片づけをしていた。わたしはテレビをぼーと眺めていた。そうすると、あのコマーシャルが流れ始めた。


 そして、最後のデパートの名前が呼ばれた。その後のタイミングで、ふすまが開いた。誰かと思ってみたら、そこにいたのは見知らぬ女の子だった。おそらくわたしと同じくらいの10歳くらいの子だ。


「だれ?」とわたしは思わず聞いてしまった。


 そうすると、まるで家の中に初めから溶け込んでいるかのように、テーブルをはさんでわたしの向かい側に腰を下ろした。


 わたしの質問は空中にでも溶け込んでしまったのか、女の子は正座してテレビを眺めていた。


 わたしは、怖くなり、台所にいるお母さんの元へ向かった。


「ねえねえ、知らない子がいるよ。今、そこに入ってきた子なんだけど」


「そんなわけないでしょ」と聞く耳を持っていなかった。こどもの戯言の一つという認識なのだろうか。「さっき入っていったのは、おばあちゃんでしょ。そんなこと言うと、おばあちゃん悲しむでしょ」


 そんな馬鹿な、と思った。見間違えるわけがない。だって、おばあちゃんと女の子は背丈も格好も全然違うのだから。


 わたしは意地になって、おかあさんを連れて行った。そして、その姿を確認させようとした。ふすまを開けると、やはりそこには同じ女の子がいた。おばあちゃんじゃない。だけど、おかあさんはまたとんでもないことを言った。


「やっぱりおばあちゃんじゃない。変な子ね」


 目が点になった。くちがあんぐりあいて、開いた口がふさがらなかった。


 見ている人物が同じなのに、同じではなかった。


「ほら、まるこおばあちゃんに謝りなさい」


 わたしは意味も分からず女の子に謝った。


 こうして、わたしの不可思議な出来事が始まるのだった。






 数日がたってわかったことがある。


 おばあちゃんは、おばあちゃんの姿のままであるが、時々どういうわけか、わたしとおなじ女の子に戻る。そして、それはわたしにしか見ることが出来ない。そして、どういうときに変身してしまうのか。それは、あのコマーシャルが原因である。


 このコマーシャルが最後に言うデパートの名前。それがこの不可思議な現象を巻き起こす起爆剤になのだ。


 おばあちゃんは、「まるこ」っていう名前である。デパートも同じ名前。その名前を言ってしまって、それをおばあちゃんが聞いてしまったときに、子供になってしまう。


 わたしは、元のおばあちゃんが好きだ。変わっててほしくない。この不可思議な現象が恐い。だから、わたしは必死になっておばあちゃんを女の子にさせないように頑張る。


 大丈夫。簡単だ。だって最後のところだけ聞かせなければいいだけなんだから。


 夕食のとき、みんなでテレビを見ている。わたしはあのコマーシャルが流れないか、意識を集中させる。そして、流れてきた。わたしはリモコンの位置を確認し、チャンネルを変えようとした。そうすると、おとうさんが、「こら、勝手に変えるな」といって、とりあげられてしまった。


 わたしは「まずい」と思った。もうあのシーンまで少しだった。リモコンを取られて呆気に取られてしまったわたしは成すすべなく、「マルコ」という言葉を言わせてしまった。


 恐る恐る。わたしはおばあちゃんのほうを向いた。


 あちゃーと、ため息がもれる。女の子になってしまった。


 また別の日。学校が終わって、帰ってきた。そうすると、テレビがついていた。そして、あのコマーシャルがこりずにやっていた。いそいで消そうとしたが間に合わなかった。


 そして、変身したおばあちゃんが、部屋の中に入ってきた。深いため息がもれるばかりであった。


 別の日。もう、いっそのことリモコンを隠してしまおう。そう思った。そして、わたしの部屋に隠しておいた。これで、テレビはつけれない。そう思った。


 しかし、居間にいくと、テレビがなぜかついていた。そして、性懲りもなく流れていたそれをみてわたしは真っ青になりながら、テレビへ手を伸ばした。


 わたしはがっくりとうなだれる。またやってしまった、と。


 そして、おばあちゃんが女の子に戻ってしまった。


 その姿を見て、わたしは「もういいか」と諦め、天を仰いだ。


 女の子は、わたしを見てにっこりと笑った。


 暗い顔をわたしはしていたが、それにつられて、にっこりと笑顔がうつった。


 わたしは少し考える。こんな変な悩みの種なんか、捨ててしまったほうがいいのかな、て思った。そして、最初は恐かったけど、今はどうだろう。慣れてしまった。わたしは、せっかく大好きなおばあちゃんが、わたしと同い年になってくれたんだから、仲良くなりたいな、と思ってしまった。


「一緒におかし食べよう」


 わたしは誘ってみた。そして、うなづいてくれた。


 縁側に横に並んで座りながら、取り留めない会話をして、わたしは女の子と仲良くなった。




第2話


 私は就職活動を行っている。そして、就職先は決めていた。そこは、「マルコ」というデパートだ。最近急成長して、栄えている街の象徴のようなそこに、私は就職しようと思っていた。


 面接も順調に進んでいき、採用された。


 これで私も立派な社会人。嬉しくてたまらなかった。


 しかし、少し不可思議なことがあった。それは、採用書類を受け取る際の出来事だ。


「以上で最後だけど、質問はあるかい?」


「いいえ、ございません」


「そうか。まあ、入社は1週間後だけど、しっかりと準備しておいてな」


「はい」


「ああ、あと、これ」そう言って、薄い封筒を一つ渡された。「1週間絶対開けないこと。過ぎたら、勝手に捨てていいから」


「え、これはなんでしょうか?」


「それは言えない。だがいいかい。絶対開けてはだめだから」


「は、はあ……」


 私はその得体のしれない封筒をまじまじと眺めた。




 1週間がたち、入社した。あの封筒は当然の事開けてはいない。入社式があり、仕事にとりかかる。その時に、ふと疑問があった。入社式の時に隣にいて、同じ配属先になったとある男性社員が、もう欠勤しているのだ。


 上長に確認しても、「知らない」の1点張りであった。


 私は、不可思議に思った。


 そして、いつも通りに仕事が終わり家に帰った。明日は休日だから、なにして過ごそうかと考えていた。そうすると、例の封筒が目に入った。そういえば、あれから開けてはいないけど、捨ててもいなかった。


 1週間開けないようにと言われていたけれど、もうそれ以上たっているから、大丈夫か、と思って、私はその封筒を開けた。


「〇×へ行ってください」


 封筒の中身には手紙が書いてあった。パソコンで打ち込まれた字だ。そこに、簡潔にそう書いてあった。


 私はどこだろう、と疑問に思いながらも、その手紙を放り投げた。 


 忘れよう、そう思って、眠りについた。






「えっと確か……」


 忘れようと思い、眠った。しかし、目が覚めても、頭の片隅にそれが一つの癌のように残り、周りを侵食していった。


 好奇心の塊が、私を支配したかのように動かした。


 その手紙の行先へ行ってみると、民家があった。そこの縁側におばあさんが座っていた。私は恐る恐る声をかけた。やけに不愛想に「なに?」と聞いてきたので、説明をした。


 おばあさんは、呆れたような顔で、「はい」といって鍵を渡してきた。「これは?」と聞くと、「××」へ行きなとぶっきらぼうに言われた。


 私はそのカギをまじまじと眺めながら、言われたほうへと向かった。そこは駅のはずれにあるところで、コインロッカーの鍵だったようだ。私は番号を探して、開けた。そうすると、また、手紙が一つ入っていた。その手紙には「△□へ行ってください」と書かれていた。


 まるで宝探しのようだ。私は童心に帰ったような気がした。


 ここで止めるべきか。怪しいのは満々だ。しかしながら、最後はどこに通じているのか、一度開いてしまった好奇心の扉はもう閉じることが出来なくなってしまった。


 私は、手紙に支配されたかのように進んでいった。


 そして、とある、迷路道に来た。道なりに進んでいくと、多分これが最後の指示なのだろうか、わからないが、こう書いてあった。「ここに頭を入れてください」


 丸い穴があり、そこに頭がなんとか通せそうだ。先は、白いビニルの蓋がされており、奥はどうなっているのかは確認できなかった。


 私は深く考えずに、その穴に頭を突っ込んで、その先に何があるかを覗いた。


 頭だけを空中に投げ出したその先に見えたものは、普段角度を変えれば見られる光景だった。


 下には、道路があった。それも遠くに。車や、通行人が俯瞰できた。


「え、ええ?」


 私は戸惑い、首を抜こうとする。しかし、抜けず、元には戻せなかった。


「ああ、君か。無理だよ。もう」


 隣から声が聞こえた。


 それは、欠勤した同期の男性社員だった。


「もう、しばらくここにいるけど、抜けないんだよな、これ」


 全てをあきらめて悟ったような言動だった。


「え、これって、なに? というか、どこ? ここ?」


 慌てふためく私と対比して、冷静に説明してくれた。


「ここは「マルコ」の看板だよ。文字はわからないけど、アルファベットの1文字の真ん中に頭を突き出している状態なのさ、俺たちは」


 私は動かせる範囲であたりを見渡す。確かに、この高さや、他の建物とか状況を鑑みるとそうかもしれない。


「もう、無理だよ。諦めようぜ」


「え、嫌ですよ、そんなの」


「見ろよ、暇すぎて、唾を通行人に垂らすって遊びができるぜ、ハハ、当たってびっくりしてやがる」


 私はその彼の言動を見て、すべてを悟ってしまった。


 私は必死にあがこうとしたが無理だった。そして、天を眺め、すべてを悟るのだった。

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