喧嘩してたらヤクザに攫われ仲間入りを果たしました

真宵猫

第1話

「ふぅ、。ちょっとやりすぎかも…」

地面に横たわる大量のヤンキーを横目に近くの椅子に座り込む。あまり慣れていないタバコをふかし、一息つく。肺に煙が入ってそれが心を落ち着かせる。

「…チッ、もうこんな時間かぁ…どっかで包帯とか買っとかないと…」

思いの他時間がかかってしまったことに苛立ちを覚える。喧嘩なんて実際やりたかったわけでもないのに何故か毎日のように売られる。

断ったところで諦めず調子に乗ってるからといつも買ってしまうのも私の悪い癖だ。

「さてと、そろそろ行こうかな」

少し汚れた竹刀を杖に立ち上がろうとした時、自分の目の前に人がいることに気づいた。

いつの間に、いやそんな事はどうでもいい、この悲惨な現場を目にしたうえでニコニコと笑っている少女と余裕な顔をしている青年は明らかに場慣れしていると分かる。

「…誰?私に何の用かな?」

問いかけると少女がその大きな瞳をさらにキラキラ輝かせる。

「赤石、やっぱり僕この子欲しい!捕まえて!!」

無邪気にぴょんぴょん跳ねながら赤石と呼ばれる青年にオネダリする。それに対し困った顔で少女の頭を押さえる。

「欲しいってねぇ、お嬢この人ものじゃないだからそんな気軽に言わんで下さいよ」

「えー!?だって欲しいんだもん!欲しいーーー!」

まるでお菓子を買ってもらえなくてわがままを言う幼稚園児のようにその場で地団駄をする。

あほらしい、そう思いその場を去ろうとした時足元から殺気を感じた。

「っ!?」

コンマの差で避けた足元には簪のようなモノが地面に深々と刺さっている。そのスキを見計らったように赤石が彩華の身体に拳を叩き込む。だが、それを竹刀で流し二人から距離をとる。

「…場慣れしているとは思ったけど、一筋縄では行かないかも…」

彩華は地面についた膝を立たせ竹刀を構える。身体の中心に真っ直ぐに構え二人を見据える。

「…基本はしっかりしてる。かなりやり込んでるだろあんた」

「お生憎様、こっちは毎日喧嘩してるからね。悪いけど厄介事はごめんだから…勝たせて貰うよ!」

足を滑らせ身体を屈ます。そのまま勢いをつけて赤石の鳩尾に竹刀を叩き込む。

「遅い!!」

叩き込んだはずの竹刀は赤石の両手によって遮られてしまう。しかし、

「引っかかったね!!」

持っていた竹刀の先端を下に向かせ手を離す。そのまま先端を足で垂直に蹴り上げ持ち手を赤石の顎に思い切り叩き込む。

ガコッと勢いの良い音が鳴り赤石が怯んだのを逃さず屈んだ体制のまま足払いをかけ赤石を転ばす。

「っ?!」

地面に転がる赤石を見下し、腕を足で踏みつける。そのまま赤石の顔に目掛けて竹刀を振り下ろす。

「美羽!!」

先程まで黙って見ていた少女がいきなり大きな声をあげる。それと同時に背中に痛みが走る。

「がっ!?」

何かが刺さったのかその位置からじわじわと感覚が麻痺していく。動きにくい腕を何とか背中にまわすと細長い棒のような触感と先端に刃物の感覚。

(これ、…矢…?)

振り絞った力が抜けていき、意識が薄れる。そのまま地面とご挨拶となるかと思いきや誰かに抱きとめられる。

(やばい…私、死ぬの…?)

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