黒騎士様、無事に生き残りたいので道中警護お願いします!~

@reivun

第1話 ありふれた導入になっちゃいました……

「………………うん、そういうことね。成程、概ね理解した」


 思わず、独り言つ。これは自分の現状確認と、冷静さを生み出すためのある種の言い聞かせと言ってもいい。


 状況を大雑把に纏めると、明日は家族旅行に行くため、着替え数着に財布、携帯電話のバッテリーとケーブルに、道中に読むための小説を幾つか。


 それらを準備して、寝て、目が覚めたら森の中だったという訳である。誘拐するにしたってもうちょっと現代チックな場所になるはずだ。というか完全に人気がありません、本当にありがとうございます。


 おまけに、寝る前は簡単な部屋着だった筈が、何故か仕事に使っているスーツをしっかりと着込んでいる上に皮靴まで履いている。残念ながら我が家は完全に日本なので、室内で靴を履くということもなければ、そもそも寝る前にこんな格好はしない。ご丁寧に着替えさせてくれたのだとしたら、せめて何か、こう、そういった理由に納得出来る何かが欲しいものである。森の中で革靴は最高に不向きだ。


 誘拐ならそもそも縛られているか、目隠しなりなんなりされていたとしても、分かりやすく現代の構造物があるはず。それもなく、森の中、ただ一人。途中で落としましたと言われた方がまだ納得出来る状況である。


 だが、真横には荷支度してある鞄があり、中を覗けば財布の中身も変わらず、何なら携帯電話までバッチリとある。加えて、如何にも中世ヨーロッパというか、昔のヨーロッパで使われてましたよ、と言わんばかりの、何かの素材で出来た、ショルダーストラップ付きの鞄。


 中には謎の葉っぱ数枚、銀色のコイン数枚、そしてナイフ。チュートリアルアイテムですね間違いない。


「……ステータスオープン」


 はい、出てきました分かりやすい奴一番が。此処まで来たら一周して冷静になれるというもの。ステータスの項目はまずは自分の名前、体力、魔力、筋力、防御力、魔法防御力、速度、運のありきたりな六項目に加え、スキルという別枠。


 ステータスに関しては、運以外の項目は25という中途半端な感じで、これは自分の年齢が25であることを考えれば、何らかの要因で上がっていくのだろうか。運だけは何故か200と高いのは、異世界転生に選ばれた幸運に由来するものなのだろうと思っておく。それよりも特筆すべきはスキル欄にあるこの内容。


 召喚魔法(使用限度:1)


 途轍もなく不安を煽る数字である。今この瞬間、俺のこれからの行く末は、この残り一回のみに尽きるスキルに左右されたといっても過言ではないだろう。加えて、召喚魔法という事は、下手すれば、召喚したモノが現界するには時間制限が設けられている可能性だってあるだろう。


 そうなると、この使用限度1という数字が非常に重要だ。物の試しに使い、呼び出した存在が永続的ならば運が良いが、そもそもの仕様でタイムリミットがあるのだとすれば最悪である。


 何もわからず、指針すらも決まっていないこの状況で行う博打にしてはリターンは皆無という物。であれば、これはまず非常時に取っておく他ない。


「……冷静になればなるほど、最悪な事態だな。ありふれた目覚め方したってのに、状況があまりにも綱渡り過ぎる」


 惜しむらくは、所謂異世界転生系とやらに知見があっただけに、現状がかなり芳しくない事を嫌でも理解してしまう点だ。


 こうして私、宵篝 アリスの異世界スタートは、まさかの逆噴射ロケットスタートから始まったのであった。めでたしめんどくさし。

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