第5話 みてしまった動画
そう考えると、足取りがずんずんと乱暴になった。
心春ではなく、先生がプリントを届ければいい。手紙を読んで欲しいなら、斉藤さん達が自分で郵送すればいい。だって、イリスは心春のことを選ばなかったのだ。心春が渡しに行く義理なんて何もない。
イリスの家の近くの公園前を通る頃には、風はさらに強まっていた。
ざわざわと公園の木々がうるさいほど音を立てるので、心春がそちらを向くと、ベンチにぽつんと誰かが一人で座っているのが見えた。
サンリオキャラの描かれている水色のパーカーとスウェットを着ている子がいる。いつもの制服姿とは違うから、はっきり分からないけど、イリスに似ている気がする。
公園の入口に行ってよく見てみると、思った通りイリスだった。手元のスマホを食い入るように眺めている。
やっぱり、心春のメッセージを無視していたのだ。スマホをいじっているのに気が付かないわけがない。それに、こんな風に外に出て来られるなんて、元気なんじゃないか。
頭の中でカッと火花がはじけた気がした。
イリスの目の前まで早足で近づいていく。イリスは一向に気づかず、スマートフォンを見続けている。
イリス、と呼びかけようとした時だった。
心春の瞳に、スマホの画面いっぱいに映った映像が飛びこんだ。
チラシの捨てられたゴミ箱や、飲みかけのペットボトルなんかが映る、生活感に溢れた部屋のベッドの上。
身体のがっしりした女の人と、オシャレなカフェの店員さんに似た、ピアスをした男の人がじゃれあっている。
女の人の声は、しゃがれていて低い。
それから、二人はどちらともなく、キスしはじめた。それはドラマで見た、月の光が差し込むアパートでの口づけや、黄昏色の海辺で交わすキスとは全く違っていた。
もっと生々しくて、現実って感じがする、男性と──おそらく、トランスジェンダーの女の人とのキスの動画だった。
「心春ちゃん?」
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