第38歩 ありません

 昔、付き合いのあった友人の実家は、お蕎麦屋さんを営んでいた。

 

 ある日、昼のピークが終わり一段落した頃、店内に女将おかみさんが居ない事に大将が気づいた。


「どこいった?」

大将は店内やら二階を探したが見つからない。


「おかしいなあ・・・」


なにげに店の裏口から外を確認すると地面に女将さんが横たわっている。

驚いて側に寄ってみると体をまるめて両手は拳を握り胸の所で構えている。


「おい、どうした、おいっ!」


大将が声をかけ、ハッとした。


 薄く白目をむいて横たわる女将さんは口に油揚げをくわえていた。


「おいっ、しっかりしろ!」

すると女将さんは目を覚ました。


 女将さんは何故、自分が店の裏にいたのか

何故、油揚げをくわえて倒れていたのか何もわからないと言う。


 その後、何をしたという事も無いのだが気持ち悪いので

店のメニューからキツネがすべて無くなった。


 女将さんが倒れたのは、それ一回きりで以降、特に妙なことも無く健康に過ごされているという。


 あなたの近くに有る、お蕎麦屋さんには『キツネ』ありますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る