第14歩 赤い服の女
80年代、僕の住む街に、ある噂話があった。
当時は、まだ都市伝説という言葉はない頃の話だ。
噂話とは『赤い服の女』という話だった。
この話はラジオやTV、雑誌などに出現したことは無くローカルな恐怖体験と思う。
ところが最近、台湾あたりで赤い服の女が怖いと話題に挙がっているらしい。
当時、私の聞いた体験談は、それぞれ出だしが似ている展開なのだが結末は全く違う話だった。
なおかつ話を聞くときに、こちらから
「赤い服の女について何か知りませんか」
とは一切尋ねてはいない。
普通に「何か怖い話を知りませんか」と問うただけだ。
三つの話が集まったが話してくれた方々は3人とも面識はなく年齢もバラバラであった。
三つの異なる『赤い服の女』が
携帯もネットも無い80年代、当時の若者は皆、少なからずナンパに精を出していて今では考えられないかもしれないが
車で徒歩の女子に声をかけ何処かに行くなど当り前の時代だった。
映画『アメリカングラフティ』の世界だ。
当時22歳だったWさんはナンパの相棒がいたのだが、その日は日曜の夜で相棒はデートだという。
くやしいけど、相棒に彼女が、できたらしい。
独り身のWさんは家に居るのも、つまらなく思い一人、車を出した。
街のメインストリートに差し掛かると
【ゼロヨンレース集団】が居て嫌だったので脇道を走り繁華街に向かった。
脇道から大通りに出たが土曜日の夜とは違い
日曜日の繁華街は閑散としており心なしか街のネオンも少なく感じた。
駅前を車で流し水産市場のところに差し掛かると、ある店のシャッター前に赤い服を着た女が立っている。
その場所は昔の大火で大きな被害の出た地区だった、その教訓を生かした幅のある大きなグリーンベルト通りの
時刻は21時頃、独りで居てもつまらないし、赤い服の
仮に『その道のプロの女性でもいいや』と考えながら車をUターンさせ窓越しに話しかけてみた。
近くで見ると女の年齢は20代半ば位に見えスタイルも普通、
無表情ではあったが端正な顔立ちの女だった。
「何やってるの?良かったら乗らないかい?」
普通は、ここで何かしらの押し問答になるのだが、その女はドアを自分で開けてあっさりと助手席に乗り込んできた。
『ラッキーだ』と思ったWさんは
「待ち合わせか」とか「腹減ってないか」と女に質問したが女は前を見たまま何も答えない。
そのまま道なりに山方面に車を走らせた。
「どこか行きたい所あるかい?」すると
「焼き場に行きたい」と言う。
焼き場とは山の麓にある遺体焼却場の事で坂道を登り墓地の通りを抜け、さらに登っていくと行き止まりになる形で建っている火葬場の事だ。
当時、火葬場周辺は夜、街灯もなく周辺は人気のない真っ暗な所だ。
反面、
火葬場は昔、割と自由に出入りできたが現在は警備も厳重で夜間に行こうとする若者など一人もいない。
『運転しながら一瞬、女の横顔見たんだ、まつ毛の長い女で手なんか真っ白で言われるまま火葬場に行っちゃってさぁー』
角を曲がり人通りの無い坂道を登ると大きな墓地に出る。
右側には街の夜景、左側には真っ暗な墓地、車のライトには火葬場への一本道が映し出され帰りは道が細いので一旦、火葬場の敷地に入り車をUターンさせないと下りの坂道に降りる事が出来ない。
もう少しで火葬場という坂の途中で女が口を開いた。
「ここで降ろして」
「えー、こんな所で?」
「とめて」女は
辺りは暗く光源は車のライトだけ、仕方なく車を止めるとドアを開けて女は車から降りて墓地の中へと入っていった。
Wさんは、その時、不思議と彼女はトイレにでも行ったのだと思った。
『今思うと、そんな訳ねぇよなあ・・・』
タバコに火を点け5分程待ったが女は戻ってこない、車のライトに墓地が映し出されていて、段々、気味が悪くなってきた・・・
Wさんは逃げようと思った、しかし車をUターンさせないといけないので細い道を火葬場に向かい坂道を登った。
真っ暗な火葬場駐車場に到着して車を回そうとした時、車のライトが火葬場の窓を映し出した。
誰も居ないはずの火葬場の1階中窓に、さっきの女が立ってこちらを見ている。
「うっ」
車を運転中のため目をつぶるわけにも行かない。
『あんな・・・火葬場の中に・・・なんで、どうやって入った?なんで戻ってこないで、あんなところにいる・・・・』
すると女は火葬場の窓を両手で叩き出した。
―バン!、バン!、バン!――
「おーっ」と
『何だ、何なんだ、これは一体なんなんだ、あれ、ヤバイって・・・』
がくがくとハンドルを持つ手に震えが来た、背中にも汗がびっしょりだった。
その後Wさんは無事、家には到着したが、すぐに高熱を出し
二、三日寝込んでしまったそうだ。
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