第24話 神様
「あたし、死神って人の命を奪うためにやってくるのかと思っていたな」
「皆さん、そういう認識をお持ちのようです。悲しいですが」
「悲しいって思っていないでしょ?」
それに死神は真顔で「ええ」と答えた。
「正しい返答かと思ったんですが、違いますか?」
「だったら悲しそうな顔ちょっとでもしてみなさいよ」
「それができたら今こんなに苦労しません」
そうよね、と千歳はため息を深く吐いて、窓に身をくっつけて外を見た。さびれた商店、雪の中を行きかう人、雪を積もらせながら歩く人、カーテンの開いた家の窓の隙間から、暖かそうなストーブが見える。
角度のついた屋根から、するりと雪がなだれ落ちる姿。マフラーに手袋にニットの帽子。きっと寒いに違いないのに、何にも感じない自分が一体何者なのだと思わざるを得なかった。
「死神も、人の祈りで生まれるわけ?」
その質問に、死神は首をかしげた。
「分かりません。千歳さんは、どうして自分が生まれたかをご存知ですか?」
「そんなの…知るわけないじゃない」
「私もです」
「死神に祈る人間なんているのかしら、と思っただけよ」
「いるかもしれませんし、いないかもしれません。私は気がついたら死神でしたし、気がついたら死神の仕事をしていました。ですから自分がどうして生まれたかなんて、考えもしなかったです」
「赤ちゃんの時ってないの?」
「ありません。気がついたら、この状態でした」
千歳は目を見開いた。
「じゃあ、あのアロハの死神も、気がついたらアロハシャツだったってこと?」
「そういうことでしょう」
「なに、それ」
千歳はわけがわからなくて、ふ、と鼻で笑ってしまった。
「他の神々は、ちゃんと親がいたりしますよ。誰から生まれたとか分かる場合もあります。ですが、我々死神はそういったものが無くて、気がついたらこの形で、この仕事です。神が生まれる方法はたくさんあると思いますが、我々の生い立ちについてはよく分かりません。知っているのは、神様だけでしょうね」
「誰、その神様って」
「神様は、神様です。みんな、彼のことをそう呼びます」
見てみますか? と尋ねられて千歳は興味が湧いた。うなずくと、手を握るように言われて、千歳は死神の両手を握った。
死神の顔が近づいてきて、コツン、と額がぶつかり合う。
「この人です」
突如、目の前に映像が現れた。死神の近すぎる顔を見ているはずなのに、目の前に急にスクリーンが広がり、そこに映像が映し出されているかのような錯覚。
見れば、美しい金色の髪の毛をした、青年が見える。あまりにも美しすぎて、人ではないことはすぐに理解できた。
「この人が、神様です」
「この、金髪の美青年が?」
「私には黒髪の壮年の男性に見えます」
死神が額を離し、次にゆっくりと両手を離した。思考の共有をしたのだ。
「人によって、見え方が違うってわけね?」
「そうです。彼…もしくは彼女が、神の中の神様です」
千歳はいたずらっぽそうな顔をした美青年が頭から離れなくて、窓の外を見ているのに、ずっとその青年が自分を見つめてきているかのような錯覚に陥りながら、しばらくは黙ってバスに揺られていた。
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