第20話 死神の使い方

「死神っていうのも、楽な仕事じゃないのね。他の神様だったら、笑ったりするわけ?」


 千歳の質問に、死神はほんの少し首をかしげて、何かを思い出そうとするように視線を窓の外へと投げかけた。


「そうですね、さすがに福の神あたりは、笑っていないと……面子が」


 それはそうだと千歳はうなずいた。笑う門には福来たると言われているのに、仏頂面の福の神が来たとしても、人間だって困ってしまう。


「まあ、色々な神がいて、色々な仕事がありますから」


「私の身体を保管してくれたりする人とかね」


「そうです。私も知らないような仕事をしている神々もいるわけで。多くの仕事を、多くの神が分担しています。ですから、効率よく物事が運ぶこともあれば、回りくどいこともあります」


 千歳は、たくさん分担があったから、ミスで自分が死んだんじゃないかと半眼で死神に抗議したのだが、まあまあとたしなめられてしまった。


「私は人の死を確認して、死から死へと飛んで仕事をしますが、私が書いた報告書をまとめる役職がいて、それを元に死後判定の資料を作る役職がいて、さらにそれを検査する役職がいてと、仕事は無限に分担されていますよ」


「それだけ聞くと、どっかの大企業かお役所仕事にしか聞こえないわね。案外神様も忙しいのね」


「暇な神様なんていませんよ。みんな、とてつもなく働き者です。でなければ、みなさんには、魂を成長させるために人間の人生を歩んできてもらった意味がない。こちらが不真面目だったら、怒られてしまいます」


「じゃああたしは怒っていいわね、存分に」


「ですからこうしてお供している訳です。通常業務をせずに」


 淡々と話す口調は、列車が走る等間隔の枕木を踏む音に似ていて、まるで眠気を誘うかのようだった。


「死神と一緒だなんて、ほんと嘘みたい」


「私だって驚いていますよ。こんなミス、今までありえません」


 死神は資料をどこでもない空間からさらりと取り出して、読み始める。何となく気になって千歳がのぞき込むと、千歳の記録のようだった。


「……ちょっと、人のプライバシー侵害しないで」


「そんなことを言われましても」


 千歳はむっとしてその資料に手を伸ばしたのだが、空を掴んだだけで触れることはできなかった。


「私ができる事、今やるべき仕事は、千歳さんと一緒にいることですから。一応資料を読んであなたのことを理解しておかないと、対処しきれません」


「いいわよ、資料やデータなんて。一緒にいれば分かることくらいあるでしょう」


「……私たちには、少し難しいのです。関り方が違い過ぎて」


「私だって死神の扱い方なんて分かんないわよ。死神の使い方とかそういう資料ないの?」


 千歳の嫌みに対して死神は至極真面目に、「そういった資料はありませんが、今後の参考までに作っておくようにします」と答える。


「いらないわよ。誰が読むのそれ」


「ですよね」


 死神はふう、と息を吐く。千歳はそんな真面目過ぎる死神を横目に見て、ふふふと笑った。

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