ミカエルの再就職

玉井冨治

第1話 小野田美香の死

嗚呼、良い人生だった。

こんなに沢山の家族に囲まれて、皆の温かい涙と微笑みを眺めながら死んでいけるなんて、前世の私はきっととても徳を積んだのだろう。

そんなことを考えながら小野田ミカは綺麗な落ち着いた顔で、眠るように息を引き取った。


「2020年3月20日、12時33分、永眠です。」


そこの医師は静かにそう言うと、手を合わせた。

ミカおばあちゃんの家族もそれに倣って、静かに手を合わせた。

しおしおとこっそり涙を流す者もいれば、視線など気にせずに涙を滝のように流す者もいた。

その場にいた20人ほどの家族達が温かな気持ちでその最後を見届けた。


ミカおばあちゃんは不思議な感覚だった。

自分の中の想像上では、死んだら全てが終わり何もなくなるので脳が停止すると共に何も聴こえず、何も見えなく、いかなる皮膚感覚もなくなるものであると思っていた。

しかしそれは違っていた。

実際は皮膚感覚や視覚は失われるが、うっすらと耳に届く音はある。

家族達の口元から漏れ出す小さな嗚咽が微かに聞こえる。

嗚呼、泣いている。

私の為に、泣いている。

この嗚咽は天国へのレクイエムと言うことか…。


ところで、人は死に至るとその後、その魂は一体どこへ行くのだろうか。

魂は本当に存在しているのだろうか。

身体から出来上がって魂が後付けなのか、それとも反対なのか。

そんなことは死んでも分からないことが分かった。

このふわふわとした感覚、これがずっとあってここから何も変化がないというのならば死後の世界とは、実におかしなものである。

それで言うと、魂は後付けのようなものだろう。

魂と体は別物。


(あら?でも、少しずつ眠くなってきたわね…。)

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