第22話 謁見

ブラックライトから去った後に再び街の外に出てから帰ってきて、ジョージ達の目を完璧に欺いた。

そしてゆっくりと体を休め、万全の体調で向かえた次の日。

僕は冒険者ギルドにやって来ていた。


「おはようございます」


挨拶を返すが、誰からも返事は無い。

ギルド内を見渡すとほとんど誰も居ないが、受付嬢はいつも通りいる。

……うーん、やっぱり昨日の事で気まずく思ってるのか?


「どうも、受付さん」

「あっ、ア……リバティー様。今日も仕事でしょうか?」


少し笑顔がぎこちないが、声色はいつも通りで対応してくれた。

いつか前と同じような関係に戻れたら良いんだけど、

しばらくはこの調子になりそうだな……


「今日は仕事じゃないんですよ。会いたい人がいてね」

「会いたい人?」

「えぇ……ギルド長のチェーンさんはいらっしゃいますかね?」

「ギルド長ならいつも通り奥で仕事を……」


受付嬢が言った瞬間、カウンターの奥から1人の男が姿を現した。


「お前は確か最年少組のリバティーじゃないか。何か用か?」

「少し折り入って話したい事が有りましてね……お時間よろしいでしょうか?」

「もちろん構わねえぜ、ちょうど事務仕事に飽きてきた所だ」


チェーンは手に持っていた書類をカウンターに乱雑に置く。


「前と同じ談話室で大丈夫か?」

「ええ、もちろん」


僕達は並んで談話室に向かった。



「ふむ……貴族様と話したいと来たか……」

「はい。彼等の力を借りたいんですよ」


チェーンはソファに座ると、紅茶を一口飲んでから口を開いた。


「そうだな。お前の推測通り、俺は貴族にも顔見知りが多い……

特にこの辺を治めてる領主様とは長い付き合いだしな」


「それじゃあ……?」


「ちょうどお前さんには伝えようと思っていたんだが……

実はな、ちょうど領主様は直接お前に会いたがってたんだよ」


「ま、マジっすか!」


僕がそう言うとチェーンさんはニヤリと笑った。


「まあ、詳しい話は貴族様に聞いてくれ……」


彼に連れられギルドの外に出される。

五分程待たされると、馬車がやってきた。


しかしただの馬車では無い、一目見ただけで分かる。

まず素材の質感からして違うし……相当な高級車なんだろうな。


「さっ行くぞ」

「はい!」



うおお……実家に負けず劣らずの大豪邸……

僕は目の前にそびえる屋敷を見てそう思った。


「リバティー様、こちらです」


馬車の運転手の案内で屋敷の中に入る。

そのまま僕達は屋敷を歩いて行き、二階の一際大きな扉の前にやって来た。


「それじゃ……俺はここまでだ。

どうして会いたいのかは知らないが……上手くやれよ」

「大丈夫です!」


チェーンさんが去ったのを見てから、運転手が扉を開く。


「失礼します」


僕が中に入ると、そこには身なりの良い中年の男性が座っていた。

細身なのだが堂々とした風格を纏っており、

見た目は正反対なのにどこかチェーンさんと近しい雰囲気を感じる。


「なるほど、君がリバティー君か……

初めまして、私はこの辺の領主にして貴族であるファルス・ゴーダだ」


「こちらこそ初めまして……」


「ふっ。初めましてか……まあ、リバティー君と会うのは初めてだけどさ」


「?」


「アローンの名前は完全に捨てたって事か……

まあ、その方が私としてもありがたいけど……」


反応からしてそこまで親しい間柄じゃなかったみたいだけど、

そう言われると確かに会った事がある様な無い様な。


「……今の僕はしがないE級冒険者のリバティーですから」

「ああ、分かった。じゃあ君に会いたかった理由を話そうか……」


そう言うとファルスさんは椅子に座り直して、一層真剣な面持ちに変わる。


「会いたかった理由は君の身分の事じゃない。ホルシド教の事さ」

「あの邪教ですか……」


昇格試験の時訪れた廃屋に魔物が発生していた原因の奴らだ。


「奴らは今すぐにでも滅ぼすべき危険な組織さ……

君達が持って帰ってきてくれた証拠から色々調べたりはしたけど……

やっぱり実際に対応した人の話が聞きたくてね。

君が廃屋で戦った魔物は……どうだった?」


「どうと言われても……普通のアンデッド系魔物だったとしか……

あっ、でも。あの水晶? を守っていたスケルトンだけは

異様に強かったのを覚えています」


「そうだね……彼が誰だったのか気づいたかい?」

「え……?」

「彼はあの家で墓守をしていた主人だったらしい。

白骨を調べた結果発覚した」


なんだと……?

それじゃあホルシド教の奴らは口封じのついでに

死体を魔物に変えて見張りをさせてたって事か?


「そんな……惨い事が……」

「ああ。どうも彼等の心に人の尊厳というものは存在しないらしい」


ゲームの中でも狂信者みたいなセリフばっかの奴らだったけど……

実際に目の前でそんな所業が行われたと聞くと……応えるものがあるな。


「えっと……そうだ! あの水晶を壊した瞬間にスケルトンは死んだんですよ」


なにか義憤に近い感情が湧き出てそんな事を口走る。


「そうそう、あの水晶は闇魔法の産物らしくてね。

周囲の魔物を凶暴化させたり、魔物を人工的に

発生させるデタラメな力があるそうだ」


闇魔法。

エタブレでは使える味方キャラは誰もおらず、

ホルシド教関係の敵や魔物のみが扱う。

いわゆる敵専用の強力極まりない技達だった。


「ふむ……どうやら目新しい情報は無さそうか……

ああ、気にしないでくれ。

ホルシド教の奴らは隠蔽や秘匿が異様に上手いのが最大の特徴だからね」


ファルスは話を終わらせようとする。

確かにホルシド教のことも気になる……

こんな事ならエタブレのストーリーをもっと読んでおけば良かったな。


いやけど、本題を忘れちゃダメだ。

僕のしたい話がまだ出来ていないんだよ!


「待ってください!」


「なんだい?」


「実は今日ここに来たのは情報提供の為だけではないのです!

ファルス様にお願いしたい事があって参りました!」


「……ほう? 話してみてくれ」


「はい。ファルス様の名前を借して頂いて、ある人へ手紙を書きたいのです」


「それは私の名前でないと駄目なのか?」


「ええ、必ず」


ファルスはふーむと考えるように口元に手を当てる。

僕はそんな彼の様子から目を逸らさず見つめ続けた。


「内容は検閲させてもらうし、まずい内容だと約束は守れないけど……良いよ。名前を貸そう」

「本当ですか!」


嬉しさに顔も華やぐ。


「だけどね、幾ら君とはいえ貴族がただで仕事をしちゃあ名前の価値が下がる」

「と、いいますと?」

「一つ、仕事をして貰おうか」


そう言って笑う彼の顔から悪感情は見えない。

……いったい何をやらされるのだろうか?

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