第12話 蘇らされた死者達

「うっ……アシュリー……だんだん霊気、いや冷気が強くなってきたよ」

「こっちの方に来るのは初めてだけど……不気味」


依頼書に載っていた地図の通りに歩いていくと、廃屋が見えてきた。

その廃屋は、外壁にツタが絡まり、びっしりと緑のコケが生えていた。


「住んでた人は掃除が苦手だったのかな……」


パッと見ただけでは数十年放置されていた様にも見える。

うぅ……なんだかゾクゾクしてきた。


「……リバティー。そろそろ構えた方が良いかも」


アシュリーにそう言われる。

見れば確かに共同墓地に幾つもの人影が見える。


「あれがアンデット系の魔物か……」


話には聞いていたものの、実際骨や死体が動いているのを見るのは恐ろしい……

まるでホラー映画の住人になった気分だな。


「ナイフ……は向かないよな」


僕はナイフをしまい、棍棒に持ち変える。


「準備完了……リバティーは?」

「僕も大丈夫。行こう」


歩みを進め、共同墓地に近づいていく。

入口まで来たが、まだ奴らには僕らの存在がバレていないようだ。


「くっ……」


さびた鉄門に手をかける、さびのせいか軽く押した程度では開かない。

力一杯押してみる。

キィィィ……!


「!」


不愉快な高音は、更に不愉快な状況に僕らを追いやる。

音に反応して、生きた死者達の目線(目が存在しない個体もいるけど)がこちらを一斉に見つめた。


「数が多いから囲まれないように! 離れないで!」

「ん……!」


墓地の敷地内に入る。

一層冷気が強くなり、生きた死者達はゆっくりとこちらに近づいてくる。


「……」


先頭にいたのは完全に白骨化しているスケルトン。

木の棒で武装しているが、知性も生気も全く感じられない。

ブンッ!


「ふっ……!」


振りかざされた木の棒を屈んで回避。

反撃に、肋骨に棍棒を叩き込んでやる。


バキッ!

「……」

カラカラカラ。


肋骨は砕け散り、支えを失った頭部と腕は地面に落ちた。

それでもまだ動く下半身には蹴りを入れて吹き飛ばす。

バラバラの骨が宙を舞った。


「ヴ、ア"……」


次に現れたのはゾンビ。

崩れた声帯から崩れた呻き声を挙げて近づいてくる。


「ア"ア"ア"!」

シュッ!

「はっ!」


爪攻撃を後ろに下がって避ける。

ボト……ボト……

「うわっ……」


ゾンビの骨から腐肉と蛆虫が剥がれて落ちた。

こんな攻撃絶対喰らいたくないな……どんな病気になるかわからん。


「下がって!」


アシュリーが声を張り上げて前に出た、僕は彼女の背中に回る。


「『猛炎』……!」

ゴオオオ!

手のひらから溢れる猛火がゾンビ達を焼却処分していく。

やっぱり汚物は消毒に限るな!


「よしアシュリー、ゾンビはお願い! 僕はスケルトンをやる!」

「わかった」

「ヴ、ア"……」

「……」(骨の軋む音を響かせている)


アシュリーにゾンビを任せて、僕はスケルトンの迎撃をする。

攻撃パターンは単調だが、数が多い。

少なくとも片手では数えきれないくらいだ。


「一気に決める……! 縮地!」

ブォン! バキャッ!

「……!」


移動の勢いを棍棒に乗せて、次々とスケルトンの頭蓋骨を吹き飛ばしていく。

「今ので四体目か……! 次は……?!」


足が動かない!?

何事かと下を見ると、三本の骨腕が足に絡みついているでは無いか!

バラバラにしても動ける奴の強みか……!


「くっ! 離せって!」


なんとか足を動かそうとするが、骨同士が絶妙にややこしく絡まっており、ちょっとやそっとじゃ解けそうにない。

しかもそうこうしている内に新しいスケルトンが目の前に……!


「……!」

ブォン!

「グホッ!」


クソッ……油断した……。

動けなくなった隙を的確に突かれてしまい、脇腹に痛い一撃をお見舞いされた。


「こんの……!」

ガシッ!


無理矢理腕を伸ばし、殴ってきたスケルトンの頭を掴む。


「オラッ!」

スポン!


そしてそのまま頭蓋骨を引っこ抜いてやった。

頭蓋骨は何も変わらずカタカタと口を鳴らしている、

自分が何をされたのか理解していないのだろう。


「まとめて……消えろ!」


ガツッ!

しゃがみこみ、頭蓋骨の後頭部で絡まった腕骨を殴りつける!

ガッ! ガッ! ガッ! バキッ!

何度か殴りつけると、腕骨が砕け散り拘束は解けた。


「……」

ブォン! ガッ!


頭を無くしたスケルトンが再び殴ってくるが、

奴自身の頭蓋骨でガードしてやった。


「……フンッ!」


そのまま頭蓋骨で骨盤の辺りを殴りつけた。

耐久の限界か、頭蓋骨は砕けちり、身体の方もカラカラと崩れていった。


「ヴ、ア"ア"……!」

「『火球』」


一区切りついたようなのでアシュリーの方に目を向ける。

調子よくゾンビを焼き払っているようだ。

流石はDランク冒険者、この程度じゃピンチにすらならないんだな。


「アシュリー! こっちは終わった! そっちは大丈夫か!?」

「もう片付けたの……? 流石……! こっちもすぐ終わらせる」

「ア"……」


アシュリーがそう言った途端、

魔法の火力が一層強まり最後のゾンビが呻き声を途切れさせた。


「……ふー。終わったね」


念の為周囲を警戒するが、もう動く気配は存在しない。

ひとまず終わったようだ。


「お疲れ様」

「うん、そっちこそお疲れ様。ごめんね、数の多いゾンビの方を任せて」

「問題無し。魔法の相性が良かったから」


やっぱり魔法っていうのは強力だな……

僕も補助魔法と回復魔法を使えるけど、MPが少なすぎるから

簡単に切れる札じゃないんだよな……


「僕も、もう少し魔法が向いてたらな……」

「うーん……鍛錬すればMPと魔力は伸ばせるけど、

使える魔法は生まれつきの適正だから」


アローンの記憶では、既に全ての属性の魔法を使えるか試している。

つまり、僕がアシュリーの様に炎魔法を使える機会はこの先無いって事だろう。

残念……。


「まあ、まるっきり使えないよりはマシだし。それより、仕事を続けようか」

「ん。調査開始」


戦闘で得た身体の熱が墓地の冷気で冷やされ、心地よい気分で調査が出来た。


「ふーん……普通の墓地って感じだね。何も怪しいものは見つからなかったな」

「こっちも何も無し。アンデッドが発生するようなものは特に……」

「そうなるとやっぱり……」


僕達は廃屋の方を見やる。

何か原因があるとすればあそこにしかないだろうなぁ。


「はー……お化け屋敷は苦手だったんだけど」

「それでも仕事、行くしかない」

「わかってるって……」


僕は意を決して、廃屋のドアに手をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る