第11話 Eランク昇格試験

「やあ、アシュリー。風は気持ちよかったかな?」

「リバティー……」


アシュリーは裁縫屋の入口のすぐ隣の壁に背を預けて立っていた。

僕は彼女の正面に回って、新しい服を見せびらかす。


「ここのお店はセンスが良いね。良く似合ってるでしょ?」

「ん。似合ってる」


そう言って彼女は僕の全身を見つめる。


「……『鑑定』」

ブォン、と音がした。


「鑑定」という呟きに反応して、

アシュリーの目の前にステータスウィンドウが浮かぶ。


「注文通り、いい感じ」


彼女が確認したそれは僕のステータスのように見える。


「『鑑定』スキルって他人のステータスを見れるの?」

「……それだけじゃない」


アシュリーは手を招き、こっちに来いと示す。

僕は素直に彼女の隣に回り、ステータスウィンドウを覗き込んだ。


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名前:リバティー

種族:人間

年齢:13歳

HP:20/20

MP:18/18

腕力:10+7

↳攻撃力:17

体力:9

魔力:4

敏捷:18(15+3)

頑丈:13+15

↳防御力:28

スキル

格闘術Lv2

回復魔法Lv3

補助魔法Lv2

ナイフ術Lv1

縮地法

斬耐性Lv2

麻痺攻撃

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攻撃力や防御力の項目が追加されていたり、

見覚えの無いスキルが追加されていたりするな。


「なにこれ? 説明してもらえると嬉しいな」


「『鑑定』を使ってステータスを見ると、

装備で増加したステータスとスキルも見る事ができる。

+より右の数字が装備による増加の部分」


「へぇーなるほど……腕力と頑丈の合計は、

攻撃力と防御力に合計されるんだね」


以前はゲーム内と少し違う事に違和感を覚えたけど、

『鑑定』スキルを使えば同じように見えるんだな。

アシュリーの説明から察するに、見覚えの無いスキルは

装備で追加されたのだろう。


「君のお陰で僕はますます強くなった訳だね」

「そう、そこで……」


アシュリーが一枚の紙を懐から取り出す。

その紙にはこう書かれている。


「冒険者ランクE昇格試験」


「昇格試験……!」


うっ頭が……!

昇格試験と言えば、冒険者物の必須イベント。

当然エタブレにもあった要素で、高ランクの昇格試験にはかなり苦しめられた

トラウマが頭の奥で蘇る。


高難度ダンジョンを謎の時間制限付きでクリアさせられたり、

大して強くなかったはずの味方キャラが

異様に強化されてボスになっていたり……

敵の時は強い癖に味方になると弱体化するのはあるあるだよね。


「……嫌?」

「も、問題無いよ」


いや、まあ、でも、大丈夫なはずだ。

あのク……いや失礼。素敵な難易度については主人公が特別な勇者だからみたいな説明があった気がするし……

今のところ世間評価が平凡な僕にはごく普通の試験が来るはず。

それに「本人は気にしていないが世間評価が高い」自由人キャラの鉄板芸だ。

例えば……



『おい、てめえの面気に食わねえなぁ……一発殴らせろや』


とか言って絡んでくる奴に会ったとする。

そこでまわりの奴らが……


『馬鹿辞めておけって! そいつが誰だか分かってるのか!?』


とか言い出して。


『ああ!? 知らねぇよこんなガキ!』

『そいつはCランク冒険者のリバティーだ! B、いやAランク上位級の実力を持ってる癖に自由を愛してCランクに居座る化け物!

お前みたいなのが適う相手じゃねえ!』

『……っ!? わ、悪かった! 見逃してくれ!」

『……次は無いよ』(何もせずその場を立ち去る)



みたいな! いいねぇ! ワクワクしてきた。


「よし、早速受けようじゃん!」

「急に乗り気」

「ハッハッハ! 切り替えが早いのは僕の長所だから!」

「そう。じゃあ、行こ」



さて、冒険者ギルドにたどり着いた。

アシュリーと一緒に受付へと進む。


「こんにちはー。Eランク昇格試験って受けられますかー?」

「こんにちはリバティーさん。そろそろ来るんじゃないかって思ってましたよ」


受付さんはにこりと笑う。

しかしまだ数回しか来ていないのに行動を読まれるとは。


「これがギルド受付嬢の実力……」

「……ただの社交辞令だと思う」


アシュリーに冷たくツッコミを入れられた。


「では早速昇格試験についてですが、リバティーさんの場合はFランクなので、

Eランク向けの依頼を完了させればオッケーなんですが……そうですね」


受付さんはパラパラと依頼書を確認していく。


「僕が今まで受けた依頼全部Eランク向けのだし、余裕そうだね」

「……それでは、趣向を変えてこちらにしましょうか」


受付さんがそう言ってカウンターに一つの依頼書を置く。


「……廃屋の調査依頼?」


アシュリーがそれを手に取ったので僕も覗き込む。


「この街から少し離れた所に共同墓地が有りまして、その隣には墓守の方が一人で住んでいたのですが、三ヶ月程前に連絡が途絶えて……恐らく亡くなられたのでしょうね。それで手入れをする人が居なくなってしまっているんです」


「悲しいことですけど……

わざわざギルドに依頼が出るような話に聞こえませんね?」


僕がそう言うと受付さんは眉をひそめて言う。


「それが……共同墓地からアンデット系の魔物が大量発生しているみたいなんです。元々は手入れされてた場所ですし、本来なら魔物は発生しないはずで……

明らかに異常事態なんですね」


「異常事態……不謹慎ですけど、ワクワクしてきますね」


「あくまで調査依頼ですから、もし強力なネクロマンサーやモンスターに遭遇したら逃げても構いません。生きて帰ってくるまでが試験です」


「心配は無用ですって」


僕は笑顔で返した。


「……楽しみ?」

「うん。もしネクロマンサーとかが居るなら会ってみたいね」

「……心配は杞憂かもしれませんね」


受付さんにため息をつかれてしまった。

まあ、もし、本当に危なくなれば「縮地法」で逃げるつもりだ。


「それと、もし墓守さんの遺体があったら、

それもギルドに報告してください。教会に連絡して弔って貰うので」

「分かりました」

「それじゃ行こ」

「……ん? アシュリーも来るの?」

「ここ。見て」


アシュリーは依頼書の端を指さす。

なになに? 依頼条件:二人以上。


「あのー……僕の試験なのに付き添いが居て良いんですか?」

「……仲間を作れるかの社交性もテストの内なので」


少し間を置いてそう答えられた。


「いつも通り」

「そうだね……場所が違うだけで試験って感じがしないなぁ」


……待てよ、もし危なくなったらアシュリーを担がなきゃいけなくなるのでは?

置いていく訳には行かないし。


「……」


僕はアシュリーの全身をじっと見つめる。

まあ、大丈夫だな。身長とか、色々小さいし、軽そうだ。


「む……なんか失礼な事考えてる?」


アシュリーがジト目で睨みつけてきたのを笑顔で誤魔化す。


「と、とりあえず行こうか」


僕達は共同墓地に向けて出発した。

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